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生乾きコンクリにはまる無人カート。無人カートの用途拡大に必要なものとは

ある大学で工事中の生乾きコンクリート無人カートがはまるという事態が発生し、エンジニアの間で議論になっている。無人カートのアルゴリズムを今より高度なものにしないと、利用できる環境が広がらないのではないかという議論が起き得ていると虎嗅が報じた。

 

生乾きコンクリにはまる無人カート

1枚のネットにあがった写真が議論を呼んでいる。これはある大学で、アリババの自動運転配送カート「小蛮驢」(シャオマンリュー、https://damo.alibaba.com/labs/intelligent-transportation/robot/)が舗装工事中の場所に入り込んでしまい、まだ乾いていないコンクリートにはまってしまって動けなくなったというものだ。

また、北京市で、無人カート同士が喧嘩をするという映像も拡散をした。朝食や昼食を無人カートで販売するというビジネスが広がり始めている。人が手を挙げると、それを認識して停止し、購入者がQRコードを使って支払いをすると、その商品のドアが開いて、食品を取り出せるというものだ。

この無人販売カートが販売中に、後ろから京東の無人配送カートが走ってきた。停止中の無人販売カートが障害となったため、「走行中です。道を開けてください」という音声を発した。通常は人に対して警告をするための機能だ。すると、無人販売カートは後ろから物体が迫っているのを感知して、「販売中です。しばらくお待ちください」という音声を発した。2台の無人カートがケンカをしていると、この動画が話題になった。

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▲ネット拡散した写真。大学内を移動する無人カートが、生乾きのコンクリートにはまってしまったという面白画像。しかし、エンジニアたちはここから無人カートのアルゴリズムについて議論を始めた。

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▲抖音などで拡散した動画。朝食を販売する無人販売車と無人カートがかちあい、音声で喧嘩を始めたというもの。

https://v.douyin.com/NsNfAHP/

 

高性能センサーの機能を使いこなしていない無人カート

これらは、いわゆる面白映像にすぎないが、エンジニアを中心に、無人配送カートについて議論が盛り上がっている。

ひとつは、無人カートのアルゴリズムは単純すぎるという指摘だ。アリババの小蛮驢は、最新の32レイヤー3D-LiDARを採用していると発表されている。これは乗用車の自動運転車や移動系のロボットにも採用されている高性能LiDARで、障害物検出に用いられる。

乗用車の自動運転車の場合、路面の鏡面反射も見ており、そこが路面であるか、水面であるかを識別することができる。乾いていない施工中のコンクリート面も識別できるはずで、小蛮驢はせっかく識別できる能力を持っておきながら、それを回避するアルゴリズムが組み込まれていないのではないかという指摘だ。

 

限定条件下での自動運転に過剰な機能は不要

この指摘に対して反論をする人もいる。コンクリートが8割がた乾くと反射率は通常路面と変わらなくなり、識別をするのは難しいというものだ。

また、小蛮驢は現在、大学や企業キャンパスという閉鎖区域の中で、荷物を配送するのに使われている。多くの場合は、荷物を積載した無人カートが学生宿舎などの定点に移動し、受取人のスマートフォンに連絡をし、そこで受取人が荷物を取り出すということに使われている。そういう条件の整った使われ方では、公道を走行する自動運転車並みのアルゴリズムは必要ないという反論だ。

 

人間は理解できても、機械に理解ができない立ち入り禁止

この事故はあくまでもレアケースであり、そもそも侵入できないように、きちんとバーなどを設置しておくべきだったと指摘をする人もいる。

一方、写真を見ると、コーンが置かれ、工事中のバーも設置され、看板で工事中であることを告知している。大学という特殊な環境の中では、これで誰もが理解できるためじゅうぶんな対応だった。人は理解ができるが、無人カートは理解ができない状況になっていた。

これを、無人カートにも理解できるようにバーを設置すべきだったと考える人と、無人カートが人が理解できるものは理解できるように設計すべきだと考える人の間で意見が分かれている。

 

販売数が伸びない無人カート

アリババの小蛮驢は、2018年から開発が始まった。当初は子会社の物流企業「菜鳥」(ツァイニャオ)が開発の中心となった。その後、AI技術が重要になるということから、アリババの研究機関である達摩院(ダモアカデミー)の自動運転ラボと合併し、2020年に小蛮驢を発表し、杭州小蛮驢智能科技が設立された。

小蛮驢智能科技のビジネスモデルは製造販売だ。大学や企業などに1台10万元から20万元ほどで購入してもらい、走る宅配ボックスとして活用してもらう。

しかし、販売は伸び悩んでいる。小蛮驢智能科技は2021年10月に、0から1への製造段階を乗り越えたとして、200ヶ所の大学、企業、マンションなどに合計350台を納品したと発表した。しかし、2018年にアリババが無人カートの開発をスタートさせた段階での発表では「3年以内に10万台の販売」が目標だった。

とても目標通りに成長しているとは言えず、この開発を当初からリードしてきて、小蛮驢智能科技のCEOに就任した王剛(ワン・ガン)は、2022年1月に辞任をしている。その直前の2021年8月には、アリババは自動運転技術の開発ユニコーンである元戎啓行(ユエンロンhttps://www.deeproute.ai/job/)に13億元(約250億円)という大型投資をしている。アリババが自動運転車の製造に乗り出すのではないかと見る人もいるが、目的は無人カートの技術のアップグレードにあったようだ。

アリババは、無人カートを大学や企業などの閉鎖空間の中だけでなく、自動運転物流を確立するために、公道での走行も視野に入れている。そのためには、現在のアルゴリズムでは不足だと考えているようだ。

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▲企業や大学などで走る宅配ボックスとして活用されている無人カート。閉鎖区域は条件が整っているため、無人カートの運用がしやすい。

 

無人カートのアルゴリズムが利用シーンを限定してしまっている

このような無人カートは、京東(ジンドン)の無人配送、美団のフードデリバリー、新石器科技の無人キッチンカーなど利用が広がっていて、もはや日常の風景となっている。無人カートを見かけたからといって、スマホで撮影してSNSにアップをしてもさしてバズらない程度には日常的な風景になっている。しかし、活用されている場所の多くは、新しく開発された商業地や再開発地区などの道路条件が整っている場所や、大学、企業、マンションなどの閉鎖区域に限られている。

その原因は、この写真が示すように、「環境が無人カートに配慮をして環境を整備する」か、「無人カートのアリゴリズムがアップグレードされて、人と同じレベルの必要な判断ができるようにするか」の二者択一で、現在は前者の環境が無人カートに合わせる状況にあることだ。本格普及をするためには、無人カートの判断力を人と同じレベルにまで引き上げる必要がある。

無人カートは、都市内物流の抱える問題ーー人件費の高騰、人手不足、人的ミス、スタッフの安全などを解決する決め手になるとして期待をされている。しかし、本格普及をするためには、もう一段のイノベーションが必要になるようだ。