中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリクラウドが自動運転向け利用に注力。1位の座が揺らぎかけているアリクラウドの救世主となるか

アリクラウドが従来の「セールス」「製造」に続く第3の柱として「自動運転」に注力をしている。アリクラウドは通信キャリア系に猛追されており、シェア1位の座が揺らいでいる。しかし、自動運転がアリクラウドの救世主になるかどうかは不鮮明だと極点商業が報じた。

 

自動運転の普及で注目されるクラウド

百度Apolloのロボタクシーの正式営業が始まり、ファーウェイ、テスラなどのレベル2+自動運転が市場に登場するようになり、クラウドプラットフォームの世界でも自動運転がゲームチェンジャーになろうとしている。

例えば、蔚来(ウェイライ、NIO)の自動運転「NIO Autonomous Driving、NAD)に対応した乗用車「ET7」(https://www.nio.cn/et7)には、33個のセンサーが搭載され、毎秒8GB、毎時間28TBのデータが生成される。2022年12月までにET7は累計2万1667台が販売されたため、毎時間60万6676TBのデータが生成されていることになる。このような大量のデータを自動車内部で処理をすることは不可能であり、クラウドによる処理が必須になる。

この状況の中で、自動運転をクラウドプラットフォームビジネスの柱に位置付けたのがアリババのアリクラウドだ。2022年7月に開催されたアリクラウド開発大会で、アリクラウドの国際セールス蔡英華総裁は、「自動運転は将来のアリクラウドの3つの柱のひとつになります」と発言した。3つの柱とは「自動運転クラウド」「セールスクラウド」「製造クラウド」の3つだ。

百度はロボタクシーの営業運転、ファーウェイはレベル2+の自動運転搭載車の販売を始めている。自動車クラウドでも、この2社がリードをしている。

 

自動運転向けのクラウドビジネスはまだまだ小さい

調査会社「IDC中国」は、「自動運転開発プラットフォーム市場販売額シェア2022」を公開した。これは、自動運転クラウドのシェア統計としては初めてものものとなる。これによると、2022年の自動運転プラットフォームの市場規模は5.89億元で、2023年は7.9億元に達すると予測されている。

しかし、問題はそのシェアだった。第1位は百度Apolloで、2位がファーウェイ、アリババは9.2%のシェアで3位でしかない。この統計から単純計算をすると、百度Apolloの収入は2.03億元、ファーウェイは1.75億元、アリクラウドはわずか5419万元(約11.0億円)でしかない。クラウドビジネスにとって、自動運転は将来の大きな事業になることは確実だが、現状ではまだまだ小さなビジネスにとどまっている。

▲自動運転開発プラットフォームの販売額シェア。実際に自動運転サービスを提供している百度とファーウェイがリードをしており、サービス化に遅れをとったアリババはこの分野では遅れをとっている。

 

先キャリア系クラウドに追いあげられるアリクラウド

クラウドは、自動運転への対応を着々と進めている。2022年6月にはテンセントは「車両クラウド一体」戦略の概要を発表した。ファーウェイは自動運転クラウドプラットフォーム「八爪魚」を発表し、さらに自動運転開発のためにモジュールを組み合わせて学習を進められるソリューションを発表した。9月には、百度Apolloとは別に自動車クラウドを発表している。アリババの動きは少し遅れ、12月になってDAMOアカデミーがクラウド上での自動運転シミュレーションプラットフォームを初めて公開した。

アリクラウドは、クラウドサービスとしては他社よりも先行していたこともあるが、2022年の各四半期の営業収入前年比は、30%、33%、20%、12%と伸び率が低下傾向にある。一方、「天翼クラウド」(中国電信)、「移動クラウド」(中国移動)、「聯通クラウド」(中国聯通)の携帯電話キャリア系のクラウドの成長率が目覚ましく、2022年はそれぞれ107.5%、108.1%、121.0%の成長率を示している。

アリクラウドは、この成長率のまま推移をすれば、来年にはトップシェアの座を奪われてしまうことになる。そこで、アリババが注目したのが、成長が期待できる自動運転だった。

▲各クラウドの営業収入ランキング。アリクラウドは1位だが、その座が揺らぎ始めている。特に通信キャリア系の「天翼」「移動」「聯通」などが、国営企業や公的機関のプライベートクラウドビジネスで猛追している。

 

自動運転によるクラウド利用はまだ少ない

しかし、問題は、自動車系クラウドにとっても自動運転はまだまだ小さな割合で敷かないということだ。「2021年中国自動車クラウド市場追跡報告」(Frost & Sullivan)によると、自動車関連のクラウド利用を見ると、半分が開発DXによる利用で、車両からの利用であってもV2V(自動車同士の通信、コネクティッドカー)関連のものがほとんどで、まだまだ自動運転関連の利用は11.1%にとどまっている。

これは結局、まだまだ技術が未成熟であり、商品化が難しく、また法整備も追いついていないことから、L4自動運転(人間は運転から解放される)の普及が限定的だからだ。百度のロボタクシーも限定された地域の中で、設定されたステーション間を移動する方式であり、乗用車に搭載されているL4自動運転機能も高速道路の定速走行や渋滞中など限定された状況でのみでの利用にとどまっている。

そのため、テスラのFSD(Full-Self Driving)を始めとする、乗用車向けの自動運転は、L2+技術を使いすべてのシーンで自動運転を可能にしようとしているが、100%のシーンをカバーできているわけではない。人間が常に監督をし、AIからの通知により、人間が運転をしなければならないシーンが残っている。

▲自動車関連のクラウド利用の割合。V2V(コネクティッドカー)と自動運転開発DXによる利用が多く、自動運転のデータ処理による利用はまだまだ小さい。

 

自動運転クラウドでは遅れをとったアリクラウド

アリクラウドは、「小鵬汽車」(Xpeng)、「長城汽車」「広汽」などがすでに利用をしているが、百度とファーウェイはすでに製品化、サービス化まで達しており、アリクラウドの自動運転プラットフォームが出遅れていることは明らかだ。

アリクラウドは、従来のクラウドビジネスの領域で、通信キャリア系クラウドに追い上げられ、自動運転プラットフォームという領域を拡大しようとしているが、百度、ファーウェイをいち早くキャッチアップすることが必要になる。シェアだけを見れば、中国のクラウド業界をリードしてきたアリクラウドだが、非常に厳しい勝負どころを迎えている。