京東の無人配送が普及の段階に入ろうとしている。長沙市にはスマート配送ステーションを設置し、仕分けから配送までをすべて自動で行える環境が整っている。今後のこのシステムを他都市展開していくことになると車東西が報じた。
京東の戦略は「テクノロジー、テクノロジー、テクノロジー」
2017年2月10日、北京で京東の年会が開催された。その場で、京東の創業者、劉強東(リウ・チャンドン)が登場して、マイクを手に、集まった従業員にこう檄を飛ばした。「これからの12年間、京東には3つのことしかない。テクノロジーとテクノロジーとテクノロジーだ!」
それ以来、京東はドローン配送、無人カート配送などを実用化してきた。全面的な導入にはまだ時間がかかると見られているものの、実証実験の段階は終わり、すでに一部の固定路線に実戦投入をしている。
京東はアリババに次ぐ第2のECサービスだったが、アリババと異なるのは物流と配送を独自に行っている点だ。入荷、販売から消費者の手元に届けるまでの一貫したサービスを提供している。
さらに、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が急速に成長をしてきて、第2位の座も脅かされ、月間アクティブユーザー数などではすでに抜かれている。アリババや拼多多に対抗するためにも、物流、配送を進化させる必要がある。京東は、テクノロジーの積極的利用で物流を変えようとしている。
▲X事業部と京東物流が共同開発した初代の無人カート。現在は4世代目になり、すでに100台以上が製造されている。
感染拡大する武漢に無人カート投入で注目される
この京東の試みは、国内ではよく知られていたが、海外からも注目されるようになったのは、2020年2月に、新型コロナウイルスの感染拡大が凄まじかった武漢市に2台の無人カートを投入し、医薬品などの無人配送を行ったことだ。
京東では、前年の2019年から北京、長沙、貴陽など20都市の一般公道での無人配送をすでに行っていた。監視員が付き添うのではなく、環境整備された固定路線をL4自動運転し、完全無人で配送を行う。この技術を武漢市に投入した。多くの人が京東のテクノロジーレベルの高さに驚いたが、京東としては、応用問題にすぎなかった。
▲感染拡大期、武漢市の武漢第9病院に無人カートが医療物資を配送した。敷地内の定位置に停車する。
▲無人カートは一般公道を走行する。約4日間、手動運転をして周辺環境データを採取し、それ以降は自動運転が可能になっている。
▲敷地内に停車した無人カートから、病院関係者がスマホまたは顔認証で開錠して、荷物を取り出す。
無接触配送を実現するために無人カート投入
2020年1月23日午前10時から、武漢市では全面都市封鎖が実施された。その間、武漢市のスタッフからは、無接触で配送をするひとつの方法として、北京で使用されている無人カートの投入が希望された。そこで、無人カートの武漢市投入が急遽決定された。
この無人カートは、京東の仁和ステーションから武漢第9病院へ向けて、主に医療物資を配送することになった。従来の配送状況、配送路線の道路状況などから70%の配送は無人配送に切り替えられると判断されたからだ。
2月中旬には、もう1台の無人カートが武漢市王家湾地区に投入された。この地区には、2つの大規模マンションがあり、配送量も多い。集荷ステーションから往復をしても2km以内に収まることから無人配送に適していると判断された。
無人カートの配送方法は実に簡単だ。集荷ステーションで、スタッフが無人カートに荷物を入れると、ラベルの情報が自動的に読み取られる。すると、無人カートが配送先を認識して、最適な路線を計算する。それから受取人に対して、ショートメッセージまたは電話をかけ、到着予想時間を知らせ、無人カートが出発する。受取人が、無人カートに受取用のQRコードを読み取らせると、自分の荷物が入っているドアが開く。また、登録を済ませている人は顔認証でも荷物が受け取れるようになっている。
▲ステーションでは、リモートにより道路状況を確かめることができる。危険が生じた場合は、リモートで急停止が可能になっている。
4日間は手動走行で環境データを収集
京東物流の自動運転主席サイエンティストの孔旗氏によると、2月1日に最初の無人カートが武漢市に投入されたが、最初に行ったことはリモコンによる手動操作で無人カートを配送路線を走らし、道路状況などを採取させた。さらに、クラウド上の地図で路線を編集し、それから自動運転をさせた。無人カートが自動運転を始めたのは、2月5日の夜になってからだという。
第4世代無人カートはすでに100台以上製造
京東では、2016年から無人カートの研究を始めている。当初の無人カートは、安全監視員が付き添わなければならないものだった。しかし、それでは実戦投入する意味がない。現在、京東の無人カートは第4世代となり、安全監視員が付き添う必要のない完全無人カートになっている。すでに100台以上が製造され、研究、実証実験、実戦投入に使われている。
長沙市ではスマート配送ステーションも設置
また、無人カートによる配送を前提にしたスマート配送ステーションの設置も進んでいる。すでに長沙市経済開発区科技新城に600平米のスマート配送ステーションを運用している。このステーションに届けられた荷物は、行き先別に自動仕分けされ、異なる無人カートに入れられ、効率的な無人カート配送が行われている。
ただし、孔旗氏によると、すべての配送を無人カートに頼ることは現実的ではなく、今後、重要になるのが、無人配送と有人配送をどのように組み合わせて、一元管理をするかということだという。無人配送の利点、有人配送の利点を組み合わせて、京東の価値をさらに高めることに貢献したいという。
▲長沙市では、スマート配送ステーションがすでに稼働している。自動仕分けされた荷物を無人カートに収納すると、無人カートがルート計算を行い、配送先に向かう。
▲荷物を配送して、ステーションに戻ってきた無人カート。自動で充電位置に停車する。すべての配送を無人カートにするのではなく、人の配送と無人カートをどのように組み合わせるかが今後の課題になるという。
京東のテクノロジーの中心「X事業部」
京東は京東物流、京東零售、京東数字科技の3つの子会社を持っている。無人カートを開発しているのは、京東のX事業部と京東物流の協同作業だ。X事業部は、京東が必要としている新たなテクノロジーの研究開発を行う部署で、ドローン配送、無人倉庫などのテクノロジー開発も行っている。
2016年に、以前から京東社内にあった智能物流ラボが事業部に昇格する形で成立した。開発拠点は北京と米国に置かれているが、その人数、規模などは非公開になっている。
しかし、京東の決算報告書によると、2015年からの研究開発費は、29億元、44.53億元、66.52億元、121億元、146億元(約2200億円)と増えてきている。売上に占める割合も現在は2.5%程度になっている。今後も、京東が研究開発に力を入れていくことは間違いない。
無人カートも、武漢市の貢献で有名となり、さらに拡大することが期待されている。日本でも楽天が京東の無人カートを使って実証実験を始めている。コロナ禍という異常事態がきっかけになって、中国は無人配送時代に突入していくかもしれない。