中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ライブコマース時代の商品品質とは。配送・サポートはもはや重要な品質の要素

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 121が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、新世代EC時代の商品品質の考え方についてご紹介します。

 

EC=ネット通販というのは、インターネットの応用例の中で最も私たちに身近なものになっています。しかし、もうECが誕生して20年以上経つのです。もはや最先端のサービスではなくなっています。

ECサイトにアクセスをして、商品名などで検索をし、欲しい商品を見つけて購入をするというECは、中国ではすでに「伝統的EC」と呼ばれるようになっています。このメルマガの読者の方はよくご存知のように、次世代ECとでも呼ぶべきサービスが次々と登場してきているからです。

1)ピンドードーのようなソーシャルを利用したソーシャルEC

2)インスタグラム風のSNS EC「小紅書」(シャオホンシュー、RED)

3)タオバオライブなどのライブコマース

4)「抖音」(ドウイン)などのショートムービーEC

などです。

 

このようにさまざまなECが次々に登場をしてきて、伝統的ECが駆逐をされることになっているかというとそうはなっていません。さすがに成長率は落ちていますが、EC全体のプラットフォームとして機能をしているからです。

特に、淘宝網タオバオ)、京東(ジンドン)、ピンドードーの3つはプラットフォームとして重要な役割を担うようになっています。

小紅書や抖音EC、ライブコマースに出品される商品の半分以上は、このような伝統的ECに出品されている商品だからです。例えば、抖音でショートムービーを見ていると、商品紹介のショートムービーが流れてきます。そのムービー画面をタップすると、商品購入ページがポップアップされ、商品を購入することができます。ところが、この商品は実はタオバオに出品されている商品で、抖音はその商品情報データを引っ張ってきて、ポップアップされる購入ページに表示していることが多いのです。

つまり、多くの小売業者は、伝統的ECに出店し、その商品を新世代ECにも展開をしているという二重構造になっています。

 

小売業者がこのような展開をするのはあたり前と言えばあたり前のことです。お店はお客さんが多いところに出すのが鉄則だからです。2021年、最も来場者数の多かったショッピングモールは、上海環球港(グローバルハーバー)で、年間5882万人だったそうです。ものすごい人数ですが、ネットには追いつきません。

「第48次中国インターネット発展状況統計報告」(中国インターネット情報センター、CNNIC)によると、ECの利用者は全インターネット人口の80.3%で、人数にすると8.1億人です。中国では体験を販売するビジネスは別として、ECに出店をしないというのはあり得ない選択です。人があまりこない裏路地には店を出すけど、人がたくさん歩いている表通りに店は出したくないというのはよほど変わった店でしょう。しかも、ECの店舗家賃は限りなくゼロに近いのです。

さらに、ショートムービーの利用率は87.8%とECより高く、人数にして8.9億人になります。ショートムービーにも現在は無料(販売手数料は必要)で出店できるのですから、これもやらないという選択はありません。

つまり、今の小売業は「伝統的EC」に本店を置き、「次世代EC」に支店を出し、業態によってはさらに「実店舗」を展開するという三層構造になっています。

 

このような三層構造の小売展開をした場合、商品に対する考え方も変わっていきます。今回は、商品の品質や品揃えを、今の時代にどう考えるべきなのかというお話を紹介したいと思います。

ご愛用されている方も多いのではないかと思いますが、電子周辺機器のメーカーで「安克」(アンカー、Anker、https://www.anker-in.com)というメーカーがあります。モバイルバッテリーなどが有名で、最近ではワイヤレスイヤホンなども人気になっているメーカーです。

非常に質の高い製品をつくるメーカーで、私個人は品質を信頼して愛用していますが、ネットを見ると、ちらほらと「Ankerの品質はひどい」という否定的な意見を述べている人がいます。消費者が製品の品質を見極めるのは難しく、メーカーは1つの不良品もつくらないということは不可能です。たまたま、数少ない初期不良品などにあたってしまった人は「このメーカーの品質は信用できない」となってしまい、悪い印象を持ち続けてしまうものです。ですから否定的な意見を表明している人の意見もまたひとつの真実なのです。

しかし、ここで言っている品質とは、極論をすれば「故障をしないこと」です。それがあたり前だと思っている方は多いのではないかと思います。非常に精密なモノづくりをする日本の工場は、この「品質」の面ではまだまだ世界トップクラスであることは間違いありません。しかし、Ankerは、この「故障をしない」だけが品質ではないと考えているかもしれません。少なくとも、品質の定義をより広く取っています。

Ankerの製品は、多くの場合、アマゾンで購入します。届いた製品に問題があった場合、サポートに連絡を取ると、多くの場合、口頭説明だけで不具合を認めてくれ、新品交換になります。アマゾンの注文番号を告げると、その場でアマゾンに対して出荷指示を出してくれ、通常翌日には新品が届けられます。その後、ゆうパックの返送キットが送られてくるので、故障した製品を返送すると処理が終わります。実にスムースです。

サポート側がすでに不具合情報を認識している場合や、口頭での不具合の説明に矛盾がない場合は非常にスムースに交換依頼が進みます。不具合が生じるというのは消費者にとっては不快なことですが、わずか1日か2日の不便だけで新品交換をしてもらえます。Ankerはこのような体勢まで含めて製品の「品質」だと考えています。

 

グーグルのエンジニアだった陽萌(ヤン・モン)CEOは、米国で販売されているモバイルバッテリーがすぐに故障することに不満を持ち、中国でモバイルバッテリーを製造する企業を起業することを考えます。

しかし、スタートアップ企業ですから、中国内の販売網を構築することは難しく、また海外市場の販売網を構築することなど不可能に近いことでした。そこで、アマゾンを通じた販売を行います。これで一気に世界中に販売できるようになりました。

しかし、問題はサポート体制です。普通であれば、各国にサポートセンターと修理工場を置かなければなりません。それには莫大な資金と労力が必要になることから、新品交換を基本にしてしまいました。これであれば、サポート窓口だけを各国に設置し、後は新品をアマゾンで発送してもらえばいいのです。

しかも、消費者は喜びます。不具合があっても、すぐに新品交換をしてくれるのであれば、それ以上の文句を言う人はまずいないでしょう。このようなサポート体制であることがわかっていれば、Ankerの「品質」に不安があっても購入することができます。さらに、Anker側では不具合を起こした製品が手元に残るので、じっくりと検査をして不具合の原因を追求することができます。

このようにモノとしての品質だけでなく、コト(消費体験)を含めた品質を考えているのです。

メーカーは「故障をしない」品質については追究をして、しっかりとしたモノづくりを行います。しかし、サポート体制については「それは子会社や委託企業の仕事だから」と無関心でいることが、EC新時代には通らなくなっています。なぜなら、消費者はそこまで含めて「品質」だと判断して購入を決めるようになっているからです。

 

このようなモノとしての品質ではなく、コトとしての品質という考え方が広まっています。特にECは、買う前に現物を確かめることができないのですから、より重要になってきています。中国の起業セミナーをのぞくと、このようなコトとしての品質を管理するための指標についても教えてくれ、この指標数字を改善していくことが重要だと教えられます。

このような考え方はEC小売業者だけに留まりません。先ほどお話ししたように、どのような小売業であっても、ECで販売をしないという手はありません。ですので、店舗を主体に販売をしている小売業であっても、このコトとしての品質という考え方は取り入れる必要があります。

そこで、今回は、コトとしての品質を把握するための指標にはどんなものがあり、どのように活用されているのかをご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.118:北京冬季五輪で使われたテクノロジー。デジタル人民元から駐車違反まで

vol.119:主要テック企業はリストラの冬。安定成長へのシフトと香港上場問題

vol.120:ディープフェイク技術の産業応用が始まっている。GANの活用で成長したバイトダンス