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ライブコマースができなくなったライブコマースの女王。変わるライブコマースの勢力図

ウェイヤー、シェリーなどの人気ライブコマース主が脱税を指摘され、巨額の追徴金が課せられた。さらにアカウントも剥奪をされ、ライブコマースができない状況になっている。2人が獲得していた巨大な流量の行方が注目されていると全天候科技が報じた。

 

取り残された網紅のスタッフたち

2021年11月と12月、著名なライブコマース配信主に対する脱税の指摘が行われた。11月には林珊珊と雪梨シェリー)が、12月には薇(ウェイヤー)、李佳琦(リ・ジャーチ)に巨額脱税による追徴課税が行われた。特にライブコマースの女王として有名なウェイヤーに対する追徴課税は13.41億元(約240億円)にもなる巨額脱税事件となった。

さらに、シェリーとウェイヤーに関しては、主要なライブコマースプラットフォームのアカウントが凍結、つまりライブコマースそのものができなくなった。

ラブコマース配信主が個人でやっているのであれば大きな問題ではない。トップクラスのライブコマース配信主たちはじゅうぶんに稼いだので、悠々自適の第2の人生楽しめばいい。しかし、現実はそうはいかない。

ライブコマースを運営するには、配信に関わるスタッフが必要となり、扱う商品のメーカーなどと折衝をするスタッフも必要になる。トップクラスのライブコマースでは数十人のチームをつくってライブコマースを運営することになる。いわば会社組織になっているわけで、その会社の収入源が断たれることになる。倒産をするか、生き延びる道を模索する必要がある。

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▲人気ライブコマース配信主だったシェリー。巨額脱税を指摘され、アカウントも剥奪されたため、ライブコマースが行えなくなっている。

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▲ライブコマースの女王と呼ばれたウェイヤーも巨額脱税を指摘され、アカウントが剥奪された。

 

スタッフたちが始めたライブコマース

2月12日、タオバオライブで「蜜蜂驚喜社」というチームが、初のライブコマースを行い、5時間で55件の商品を紹介し、延べ117.9万人が視聴するという成功を収めた。ファン登録も1週間で100万人を突破するという成功ぶりだ。

なぜ、初めてライブコマースを行うチームがここまで成功できたのか。蜜蜂驚喜社のライブコマースには6人のライブコマース主が出演したが、その多くは、ウェイヤーのライブコマースで補助を務めた人たちなのだ。つまり、視聴者にとって未知の人ではなく、よく知っている人だったのだ。

さらに、蜜蜂驚喜社は2月15日には、「光光来了」というライブコマースを開設したが、こちらのライブコマース主の余光光を始めとするライブコマース主はシェリーのライブコマースに出演していた人たちだ。

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▲突如登場して、100万人のファンを獲得した蜜蜂驚喜社のライブコマース。出演しているのはウェイヤーやシェリーのライブコマースでおなじみのスタッフたちだった。

 

事務所はウェイヤーとは無関係と回答

ネットで問題とされているのは、この蜜蜂驚喜社とウェイヤーやシェリーとの関係だ。スタッフたちが、ウェイヤーたちから独立をして始めたのであれば問題はないのもの、背後にウェイヤーたちがいて、自分たちが出演をできないために、スタッフたちを使ってライブコマースを再開したのではないかという疑いが持たれている。

ウェイヤーが所属をする事務所「謙尋」は「若いスタッフが起業したもので、弊社とは無関係」と答え、シェリーが所属をする事務所「宸帆」も「弊社とは無関係」と回答した。つまり、問題を起こしたウェイヤーやシェリーとは無関係に残されたスタッフたちが独自にライブコマースを始めたということになる。

 

指摘されるさまざまな類似点

しかし、すでにネットでは、蜜蜂驚喜社とウェイヤーの密接な関係が指摘され、批判の声もあがり始めている。

ひとつは蜜蜂驚喜社という名称だ。ウェイヤーは以前、微信(ウェイシン、WeChat)のアカウント名「薇娅驚喜社」に酷似をしている。これだけであれば、ウェイヤーのスタッフたちが立ち上げた新会社なのだから、似ているのも不思議ではない。

また、ウェイヤーのライブコマースと蜜蜂驚喜社のライブコマースは使われている背景がまったく同じ。これもウェイヤーたちのスタッフなのだから、同じ素材を使っただけだと言えばその通りだ。

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▲左はウェイヤーのライブコマース、右は蜜蜂驚喜社のライブコマース。背景が同じものものが使われている。

 

問題となった商品番号

しかし、問題なのは販売された商品だ。ウェイヤーはオリジナルブランド「VIYA NIYA」を立ち上げ、自身のライブコマースで販売をしていた。

蜜蜂驚喜社のライブコマースでは、「自社オリジナル商品」と銘打って、商品を販売していたが、具体的なブランド名には触れなかった。購入ページでは、商品番号が「V」で始まる。これはウェイヤーのブランド「VIYA NIYA」の商品番号で、つまり、蜜蜂驚喜社はウェイヤーの個人ブランドの商品を販売している。

つまり、蜜蜂驚喜社の背後にはウェイヤーがいて、若いスタッフにライブコマースを行わせているのではないかという疑いが強まっている。

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▲蜜蜂驚喜社がオリジナル商品だとして販売している商品は、商品番号などからウェイヤーの立ち上げたブランド「VIYA NIYA」だと指摘されている。

 

ウェイヤーの流量の受け皿はどこにある?

もちろん、ウェイヤーやシェリーに課せられたのは追徴課税とアカウントの凍結だけであり、どのような事業でも行う権利はある。蜜蜂驚喜社をウェイヤーが率いていたとしてもまったく問題ではない。

ライブコマース界で、大きな話題になっているのはウェイヤーとシェリーというトップライブコマース主が消えて、その流量がどこに流れるかという問題だった。

口紅王子として有名だった李佳琦(リ・ジャーチ)に一時、大量の流量が流れ込み3895万人が視聴するという事態になったが、現在は以前と同じ1500万人程度に戻っている。

ウェイヤーとシェリーは通常でも2000万人近い視聴者を獲得していた。蜜蜂驚喜社が獲得している視聴者は100万人+程度。ウェイヤーとシェリーの流量の受け皿にはなり得ていない。

 

私域流量が重要になるライブコマース

蜜蜂驚喜社の背後にウェイヤーがいるのだとしても、その影響力は大きく下がらざるを得ない。ライブコマースは、一部のトップインフルエンサーが大量の流量を集めるという時代から、多数の専門性を持ったライブコマース配信主に分散をする時代になると見られている。

特に進んでいるのが、ブランドが直接自分たちで行うライブコマースだ。網紅に商品を委託して販売してもらうよりも、販売数は少ないにしても、自社のブランド名を掲げてライブコマースを行い、地道にファンをつくっていった方が長期的にはプラスになる。このような私域流量(プライベートトラフィック)をいかに獲得するかが大きなテーマになっている。

ウェイヤーとシェリーがライブコマースから去ったことで、ライブコマースも一極集中から分散の時代に移行しそうだ。