中華IT最新事情

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インフルエンサーの時代は終わった。私域×KOCマーケティングの3つの原則。名創優品の事例から

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今回は、KOCマーケティングについてご紹介します。

 

インフルエンサーマーケティングという言葉がありますが、中国ではインフルエンサーマーケティングはほぼ終了することになり、米国でもインフルエンサーに対する投資効果が疑問視される状況になっています。

厳密に言うと、インフルエンサーには垂直型と水平型の2種類があり、終わったのは水平型の方です。垂直型インフルエンサーは、流量こそ大きくはないものの、マーケティングや販売面で活躍が今後も期待されています。

垂直型インフルエンサーとは特定の分野に特化をした著名人のことで、KOL(Key Opinion Leader)とも呼ばれます。日本だとソロキャンプの火付け役となったヒロシさんがそれにあたります。ヒロシさんは、ソロキャンプという言葉もない頃からキャンパーの間で密かに楽しまれていたソロキャンプに惹かれ、仕事ではなく、趣味としてソロキャンプを始めます。それが話題になり、2017年から「ヒロシのぼっちキャンプ」(BS-TBS)という番組やYouTubeでの配信を始め、2020年のコロナ禍で大きなブームとなりました。

番組の中で使うキャンプ用品はすべて私物というドキュメンタリー要素の強い番組です。この中で登場したギアは確実に売れ行きが伸びたと思います。このような各分野の垂直型インフルエンサーは、今後もマーケティングや販売に大きな貢献をしていくことになります。

 

一方、問題になっているが水平型インフルエンサーです。特定の分野に特化をするのではなく、人物が面白いために多くの人が視聴するため、商品を販売すると爆発的に売れます。しかし、この1年ほど、その販売力が急激に落ちてきています。

このような水平型インフルエンサーの典型例が「小楊哥」(シャオヤンガー、揚にいちゃん)です。2015年頃から面白動画の投稿を始め、2019年に抖音への投稿を始めるとあっという間に人気者になりました。2021年に「三只羊網絡科技」を設立し、ライブコマースでの商品販売を始めたところ、年間100億元以上のGMVとなりました。本人が創作者として人気があるために、多くの人が見たいと思い、そこで商品が販売されると、投げ銭感覚で買ってしまうからです。爆発力のあるインフルエンサーとして大成功をしました。

 

しかし、このような爆発力のある売れ行きというのは、無名のブランドや新製品の認知を広げるのには有効ですが、一般の小売企業にとってはあまりメリットはありません。まず、大量の商品が売れるので大増産をしなければなりません。そのまま、その膨大な数が売れ続けるのであれば工場を新設するなどの設備投資をしますが、多くの場合は波がすぎれば販売量は下がります。つまり、爆発力のあるインフルエンサーと組む時は、事前に製品をつくって在庫を確保しておく必要があるのです。それが思惑通りに売れればいいですが、もし、売れなかったりしたら悪夢です。

多くの小売企業が望んでいるのは、安定した売れ行きです。爆発的に売れてブームが終わってしまう一過性の売れ行きではなく、長く売れ続ける定番商品をつくりたいと思っています。それが利益を最大化してくれるからです。

同じ商品を一定数長期にわたって製造をすると、製造手法も改善されていくため、製造コストが下がっていきます。それがそのまま利益になり、「価格を下げて販売数を拡大する」「コストをかけて品質を向上させる」「新規事業に投資をする」など、企業の選択肢が広がっていきます。

そのため、企業は本質的には水平型インフルエンサーを必要としていないのです。では、なぜこれまでインフルエンサーを起用する企業が多かったのか。最大の理由は、先ほど触れた新しいブランドや新しい商品の認知を一気に広げるためです。もうひとつは話題性です。話題を提供することでブランドイメージの価値向上がねらえます。そして、第3の理由が、これはあるマーケティングの仕事をする人から批判的な口調で教えてもらったことですが「上司が有名人が好き」です。有名人を連れて飲み歩くことが楽しいという人がけっこういて、そのような上司がインフルエンサーや芸能人などの著名人を起用したがるのです。しかし、若手のマーケターたちは「そんな無駄なお金があるのだったら、もっと効果のある方法に予算をつけてほしい。成果に結びつけるから、自分の給料をあげてほしい」と思っていた人が多かったといいます。

 

その状況が変わり始めました。インフルエンサーに莫大な資金を投入しても、期待したほどのリターンが得られないということが数字ではっきりと明るみに出るようになってきたからです。

特に、今年の8月に、消費者保護活動をしているブロガー王海氏が、微博で、ある告発をしたことで流れが大きく変わりました。それは太原老葛というインフルエンサーが4回ライブコマースを行い、合計900万元(約1800万円)の販売手数料を得ましたが、2811万個売れた商品のうち1911万個は偽の注文であり、実際には900万個程度しか売れていなかったという内容です。つまり、太原老葛は自分のライブコマースに偽注文を大量に入れて、手数料を騙しとったのだという指摘をしました。

この事件は、山東省龍口市公安がすでに立件をして捜査をしています。その詳しい内容は発表されていないものの、太原老葛は知人が経営する会社に自分のライブコマースに大量の注文を入れさせ、その後、キャンセルや返品をさせていたとみられています。ライブコマースの手数料の契約はさまざまありますが、多くの場合は注文数1つにいくらという手数料計算をします。つまり、全体の2/3にあたる偽注文を入れさせて、その手数料を騙し取っていたというものです。

 

この事件で、業界は目が覚めたようにインフルエンサーのライブコマースに疑問を持つようになりました。つまり、このような水増しは他のインフルエンサーも多かれ少なかれやっているのではないかという疑問が浮かんできます。

その背景には、ライブコマースそのものが返品率が高いということがあります。ECの一般的な返品率は30%台ですが、ライブコマースでは50%台に跳ね上がり、衣類の場合などは80%を超えることもあります。

もともと、中国や米国ではECは「購入」ではなく「取り寄せ出張販売」の感覚なので、気軽に返品をする傾向があります。衣類、靴などサイズのあるものは、買ってみてサイズが合わなければ当然返品します。さらに、ライブコマースでは、主催する側も衝動買いを誘発しようとさまざまなテクニックを使いますので、買ってみてから冷静になって、返品をしてしまうということが多くなっています。

さらに、水平インフルエンサーではより返品率が高くなります。なぜなら、視聴者は商品に興味があるのではなく、インフルエンサーに興味があって見ているため、投げ銭代わりに商品を買うからです。大量に購入すると、インフルエンサーが名前を呼んでくれたりもするため、大量買いをしてしまう人もいます。以前、日本でもあった握手券ほしさにCDを大量買いするのと似た心理です。しかし、商品が届いてみると、そんなものはいらないので返品をしてしまうというわけです。

ここまでは、依頼をする出品業者も織り込み済みでインフルエンサーに販売を依頼していました。しかし、注文を偽装してまで手数料を騙し取られているとなると話は別です。また、インフルエンサー側にも販売数の実績をつくりたいという動機もあります。「1時間で何万個を売り上げた」という実績をつくれば、以降の契約が有利に進められることになります。知人の会社に依頼をして偽注文を入れてもらうとか、あるいはファンが盛り上げるために返品前提の注文を入れるなどということが、これまで行われてこなかったとは誰にも断言ができません。

このようなことから、水平インフルエンサーは一気に信頼を失い、水平インフルエンサーのライブコマース開催回数は激減をしています。彼らは、東南アジアに進出をして、現地のインフルエンサーとともに行うライブコマースに力を入れるようになっています。

中国では、水平インフルエンサーの時代は終わったと言っても間違いありません。ただし、このような問題が起こりづらい、特定の分野に特化した垂直インフルエンサーは別です。また、メーカーの責任者が自ら販売をするCEOライブコマース、チェーン店の店舗スタッフが販売をするライブコマース、ブランドが直接主催するライブコマースは相変わらず盛んに行われています。ライブコマースは相変わらず強い販売力があり終わっていません。終わったのは水平インフルエンサーです。

 

では、マーケティングはどこに進むのでしょうか。答えははっきりしています。私域×KOCです。私域(プライベートトラフィック)は、ブランドがコミュニティをつくり、消費者をそこに誘導することです。KOC(Key Opinion Consumer)は、キーになる意見を持つ消費者のことです。つまり、消費者に自社コミュニティに参加をしてもらい、消費者に宣伝をしてもらうというのが、私域×KOCの考え方で、このようなマーケティング手法はKOS(Key Opinion Sales)と呼ばれるようになっています。

このメルマガでも、私域流量、KOCについては何度も扱ってきています。

「vol.068:私域流量を集め、直販ライブコマースで成功する。TikTok、快手の新しいECスタイル」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2021/04/18/080000

「vol.127:WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2023/02/19/080000

「vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/06/19/080000

「vol.132:流量から留量へ。UGCからPGCへ。変わり始めたECのビジネスモデル。タオバオの変化」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/07/10/080000

「vol.137:私域流量の獲得に成功しているワイン、果物、眼鏡の小売3社の事例。成功の鍵はそれ以前の基盤づくりにあり」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/08/14/080000

「vol.153:SHEINは、なぜ中国市場ではなく、米国市場で成功したのか。持続的イノベーションのお手本にすべき企業」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/12/04/080000

「vol.164:お客さんは集めるのではなく育てる。米中で起きている私域流量とそのコミュニティーの育て方」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2023/02/19/080000

「vol.201:トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方」

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2023/11/05/080000

など、かなりの量を扱っています。それだけ重要であり、大きなトレンドになっているということです。

 

ところが、このKOCという考え方が意外に理解が難しいようなのです。よくある誤解は「お客さんに宣伝をしてもらう」と考え、お客さんの中から製品やブランドに積極的な人を選び出し、その人にさまざまなプロモーションに登場してもらうということをやりがちなのです。しかし、これは、消費者の中から小さなインフルエンサーをつくろうとしているだけのことであり、失敗に終わったインフルエンサーマーケティングを小さなスケールで繰り返すだけのことになります。

そこで、今回は、KOCとは何かということを余すことなく理解していただこうというのが趣旨になります。

 

KOCを理解することは難しくありません。グルメサイトを見ると、さまざまな方が口コミを書いています。これは消費者が飲食店の評価というコンテンツ提供をしてくれているのですから、立派なKOCです。

ただし、企業(飲食店)から見ると、さまざまな問題があります。まず、好意的な評価を書いてくれるとは限りません。辛辣な意見を言われることもあり、それで来客数が減ってしまうということもあります。また、これがいちばん頭の痛い問題ですが、誤った情報、勘違い、偏見に基づいた評価を書かれてしまうことがあることです。企業側が訂正をしたくても、それが他の消費者に届くとは限らず、誤った情報により評価をされると、それが好意的であれ否定的であれ、残念な結果に終わりがちです。

これは口コミサイトに書く消費者はKOCではあるけど、公域流量(パブリックトラフィック)のKOCであるために、企業とKOCがコミュニケーションをとることができないことから起こる問題です。これを解消するのが私域×KOCの考え方です。KOCとコミュニケーションをとり、正しい情報を提供して、それに基づいて評価を書いてもらえば、多くの消費者がその情報を参考にすることができるようになります。

かといって、企業が報酬のようなものを出して、好意的な情報だけ出してもらうように管理するというのも間違いです。他の消費者は、そのような持ちつ持たれつの関係はすぐに見抜き、情報を信用しなくなります。それどころか、消費者の顔をした宣伝部隊を組織するという不誠実な手法(いわゆるステルスマーケティング)をとる企業だと、ブランドへの信頼も失いかねません。

では、どうしたらいいのか。ここがKOSのポイントになります。最近では、雑貨販売の名創優品(ミンチュアン、MNISO)がうまくKOCを活用しています。名創優品は、かつては「ロゴはユニクロ風、店舗はMUJI風、商品はダイソー風」の三重パクリ企業として、日本のメディアでは面白おかしく扱われていましたが、中国事業だけを見るとMUJIを上回り、MUJIが追いかける立場にあります。最近では、DUNDUN鶏やloopyといったぬいぐるみ系玩具が大ヒットし、2024年Q2は増収増益で、売上高は61.8%増、利益は77.9%増という大幅成長を達成しました。もはや、中国内では完全に雑貨販売のリーダー企業となりました。また、東南アジアを中心に世界111カ国6600店舗を展開していますので、MUJIは海外展開を早く進めないと、進出する場所がなくなってしまうのではないかと、余計な心配をしています。このDUNDUN鶏やloopyのヒットの背後には、KOCを活用した名創優品独特のKOS手法がありました。

今回は、KOCとはどういうものなのか、KOCを活用したKOSとはどのような手法なのかを名創優品の手法を参考にしながらご紹介します。

 

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vol.244:マイクロドラマはエンタメとして定着をするのか。低俗、短絡、低品質である一方、ビッグネームの参入やビデオ生成AIの導入も。

vol.245:アップルの生産拠点は中国からインドへ。そして再び中国へ。アップルが描くアジアサプライチェーンの布陣