ECで販売されているのと同じ商品が、ライブコマースでは1/3以下の価格で販売をされる。このような商品が増えている。なぜ、ライブコマースでは超低価格で販売をされているのか、そこには厳しい販売業者の競争があると老高電商管理が報じた。
中国ECの大型セールは11月11日と6月18日
中国ECの大規模なセールと言えば11月11日の独身の日セールが有名だ。中国では「双十一」と呼ばれることが多い。10月1日の国慶節(建国記念日)が通称「十一」と呼ばれるため、11月11日は「双十一」という言い方が定着をしている。そもそもはアリババの淘宝商城(現・天猫)が始めたものだが、多くのECが便乗セールをすることで、国中でECで買い物をする日になっている。
この双十一に続くのが、「6.18」セールだ。元々は京東(ジンドン)が自社の創立記念日に始めたセールだったが、これも他のECが便乗セールをすることで、ほとんどのECが参加をする大規模なセールとなっている。
ECによって価格に3倍以上の違いが
この6.18セールで異変が起きている。ある女性が子ども用の靴を買おうとして、「アナと雪の女王」の靴を天猫(Tmall)で探したところ110元(約2250円)で販売されていた。ところが同じものを拼多多(ピンドードー)で探したところ29.9元で販売されていた。販売業者は異なるとは言うものの、天猫は3.68倍もの価格で販売されている。
このような価格差は珍しくなくなっている。同じ販売業者、メーカーが同じ商品を淘宝網(タオバオ)や京東(ジンドン)では高く販売をし、拼多多や抖音(ドウイン)、快手(クワイショウ)のライブコマースなどでは大幅割引をしていることも珍しくない。
老高電商管理の調査によると、子ども用品の各ジャンルの上位10商品について、タオバオ、京東などの伝統的なECと、抖音、快手のライブコマースでどのくらい価格差があるかを調べたところ、ライブコマースでは多くが半額程度まで割引されていた。
ECのショールーム化が始まっている
消費者が賢くなってきて、多くの人が複数のECで価格を比較するようになっている。また、ライブコマースは商品を詳しく説明してくれる、わからないことはリアルタイムチャットで尋ねることができるというのも魅力のひとつになっているが、多くの人が魅力と感じているのが普通ではあり得ない大幅割引だ。
そのため、事前に天猫や京東という伝統的なECで商品を探し、口コミレビューなどを読んで商品を決め、価格を記憶し、それから、そこでは買わずに、拼多多やライブコマースで購入するということをする人が増えている。
ECが登場した時、実体店舗で商品を見て、ECで購入する「店舗のショールーム化」が問題になったが、伝統的ECのショールーム化が起きている。これが、伝統的ECが新興の拼多多やライブコマースに圧迫を受ける大きな原因のひとつにもなっている。
ライブコマースでの報奨金をあてにする販売業者
これが販売業者のビジネスにも大きな圧迫を与えている。拼多多やライブコマースでは思い切った価格を出さないと売れない。そのため、利益は薄く、大量に売れてくれないと黒字にならない。伝統的ECでわずかに売れる希望小売価格での販売から得られる利益を元に拼多多やライブコマースで思い切った割引をして勝負をする。
拼多多やライブコマースでは、大量に商品を販売する業者に関しては、さまざまな優待が得られる。例えば、拼多多では「100億補助」というキャンペーンをたびたび行っている。これは拼多多が補助金を出すことで、消費者は実質的な大幅割引で購入できるという仕組みだ。販売業者は規模小売価格で販売をしても、補助金があるため、消費者は割引価格で購入することができる。
このように、拼多多やライブコマースでは大量に販売をした実績をつくることで、ようやく利益を出せるようになる。そのために、最初は赤字覚悟で販売をし、実績を積む必要がある。しかし、それに失敗をすると大きな赤字を生み出してしまうことになる。非常にビジネス環境がシビアになってきている。
商品力のあるメーカーは同程度の価格で販売
一方、伝統的ECでも拼多多やライブコマースなどの新興ECでも価格をあまり変えない販売業者もある。
例えば、健康器具の「merach麦瑞克」旗艦店では、天猫では1799元で販売しているものを拼多多では1792元と、わずかに7元しか割引をしていない。この麦瑞克は非常に技術力のあるメーカーで、原則直販のみで、安易な割引をしていない。
商品の差別化ができていて、商品の魅力だけで売れる商品の場合は、拼多多やライブコマースで大量販売をして、キャンペーン優遇をしてもらう必要はない。そのため、伝統的ECでも拼多多やライブコマースでも価格をあまり変えていない。しかし、このような強い戦略が取れる強い企業は多く見積もっても全体の1割にも満たない。
商品力と低価格の二極化が進むEC
ECで販売される商品には二極化が起きている。ひとつは商品そのものに魅力があり、商品の力で売れるものだ。このような商品は価格が高く維持をされる。一方で、標準品であり、ライバル製品との差別化ができてない商品は、価格を落として拼多多やライブコマースで大量販売をすることでしか生き延びる道がなくなっている。このような商品は、熾烈な競争により、どこまでも価格が下げられていくことになる。
このような状況の中で、メーカーの中で注目されているのが「差別化」「創意工夫」だ。他社と同じような商品を製造し、「うちのは品質が高い」と言ってみたところで、消費者の心にはなかなか響かない。一定以上の品質のものであれば、できるだけ安く買いたいと考えるのが消費者だからだ。そこで、各メーカーでは、他社にはない商品を生み出す創意工夫を始めている。すでに日用雑貨、玩具といった、創意工夫を商品に反映しやすいジャンルでは、バラエティに富んだ商品が登場し、ショートムービーでその存在が拡散し、ヒット商品が生まれるようになってきている。
今後、このような潮流は、電子製品や家電製品、家具、服飾品といった他の領域にも広がっていくことになる。成熟をした中国の製造業は、「品質を極める」方向に進むのではなく、「多様性」「創意工夫」の方向に進む可能性が見えてきている。