中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

広告メディアとしてのTikTok。デジタル広告の主流になり始めているショートムービー広告

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明日、vol. 082が発行になります。

 

今回は、ショートムービー広告についてご紹介します。

現在、中国には月間アクティブユーザー数(MAU)10億人を突破している企業が4つあります。ひとつはSNS微信」(ウェイシン、WeChat)を運営する騰訊(タンシュン、テンセント)です。次が、EC「淘宝網」(タオバオ)、「天猫」(Tmall)を運営するアリババです。その次が中国版TikTok「抖音」(ドウイン)、ニュースアプリ「今日頭条」(トウティアオ)を運営するバイトダンスです。さらに、最近、ショートムービー「快手」(クワイショウ)を運営する快手科技が、この10億人クラブに名を連ねました。この10億人クラブ4社のうち、2社までがショートムービーを主力プロダクトにしているのです。

 

このショートムービーの勢いは止まりません。「2020中国ネット視覚聴覚メディア発展研究報告」(中国ネット視覚聴覚コンテンツサービス協会)によると、モバイルインターネット(スマートフォンタブレットなど)の1日の平均利用時間は366分(6時間6分)であり、ショートムービーの利用時間は110分(1時間50分)となり、ムービー、ライブ配信、音楽ストリーミングを超えて、最も利用されているオンラインのオーディオビジュアルメディアとなりました。

ショートムービーは基本15秒の動画で、平均30秒だとしても、1日に220本のショートムービーを見ている計算になります。MAUが8億人を超え、最も人気のある抖音では、1時間ほど見ていると、「使いすぎに注意」という公式ショートムービーが挿入されるようになっているほどです。

 

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▲平均スマホ利用時間の変化。コロナ禍の渦中の時よりは少なくなったが、年々増加している傾向は変わらない。「2020中国ネット視覚聴覚メディア発展研究報告」(中国ネット視覚聴覚コンテンツサービス協会)より作成。

 

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▲各サービスの利用時間の変化。ロングムービー(ドラマ、映画など)がやや減少して、ショートムービーが伸び、オーディオビジュアルサービスでは最もよく利用されるサービスになった。音楽ストリーミングも着実に伸びている。「2020中国ネット視覚聴覚メディア発展研究報告」(中国ネット視覚聴覚コンテンツサービス協会)より作成。

 

なぜ、ここまで中国人はショートムービーを見るのでしょうか。それは使ってみるとすぐに理解できます。ショートムービーは、最も活力があった時代のテレビ放送に似た感覚なのです。

その最大の理由が、受け身でいいことです。自分から検索をしてショートムービーを探すこともできますが、基本は配信されてくるショートムービーを次から次へと見ていくだけです。バイトダンスのリコメンドシステムは非常に優秀で、興味のあるショートムービーが次々と流れてきます。何も考えずに、受け身で楽しめる。とても楽なのです。

オンラインのドラマや映画、音楽というのは、「何を見ようか」と考えなければなりません。考えた末に選択した映画が面白くないということも起こります。抖音でも興味のないショートムービーが流れてくることはありますが、わずか15秒のことですし、フリックしてスキップさせてしまえば問題ありません。

ただ、テレビ放送との大きな違いは、高密度であるということです。1時間のワイドショーを見る間に、ショートムービーであれば240本のさまざまなコンテンツに触れることができます。満足感が圧倒的に違います。

 

この感覚は、TikTokでは得られないかもしれません。日本ではTikTokを使う人たちというのは若い層が中心で、40歳以上の方は「もうそういうものを使う歳ではない」と避けている方も多いかと思います。確かに、TikTokは若者が好みそうなダンス映像や面白映像が多いように感じます。

しかし、8億人が使う抖音はそうではありません。もはや国民的なインフラとなり、ニュース映像や科学解説、歴史ドキュメンタリー、ビジネス解説、漫才、スポーツ結果、行楽地案内など、その広がりは全世代に及んでいます。そのような幅広いコンテンツが存在する中で、優秀なリコメンドシステムがあるので、すぐに自分の興味あるショートムービーばかりが流れてくるようになります。

テレビのように受け身で楽しめるメディアであり、テレビよりも高密度で、テレビよりも当たりコンテンツの確率が高い。テレビを見なくなり、スマホでショートムービーを見るようになったという人が続出しているのも理解できます。

今、どこの国でも高齢者がスマホを使いこなすことができず、生活情報などが入らないデジタルデバイドの問題が起きていますが、それは中国も同じで、60歳以上のスマホ普及率は38.6%でしかありません。しかし、スマホを使い始めた高齢者の間では、今度は使いすぎが問題になるようになりました。毎日10時間以上もスマホを使ってしまう人が10万人もいるというのです。60歳以上の人口は2億人いるので、割合で言えばごくわずかですが、健康などに問題がでないかと心配されています。そのヘビーユースの高齢者がいちばんよく使うのが、ショートムービーとオンライン読書なのだそうです。

 

ショートムービーは利用者の人数、利用時間も大きなメディアですが、一方で、広告効果も図抜けて高いメディアです。「vol.012:広告メディアとしてのTik Tok。その驚異のコンバージョンの秘密」でご紹介したように、TikTok、ウェイボー(中国版ツイッター)、ビリビリ(中国版ニコニコ動画)での広告効率を比べてみると、TikTok(抖音)は、ビリビリの9.46倍もの広告効率がありました。これは、ビリビリの1人のユーザーが1分間ビリビリを利用する間に、抖音はその9.46倍の広告料を稼ぐということです。

なぜそのようなことが可能になるかについては、「vol.012:広告メディアとしてのTik Tok。その驚異のコンバージョンの秘密」をもう一度お読みになっていただくとして、簡単に言えば、バイトダンスが開発したリコメンドシステムの優秀さが大きな要因です。

 

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TikTok(抖音)、ウェイボー、ビリビリのユーザー1人が1分利用する間の広告収入の比率。ビリビリを1とすると、抖音は9.46倍も広告費を稼ぐ。これは2019年の数値を使ったもので、2020年ではさらに差が開いていると思われる。

 

もうひとつの要因が、ショートムービーでは、広告とコンテンツをほとんど区別しなくなっているということがあります。

地上波テレビでもこの傾向は進んでいます。面白い商品やサービス、飲食店、娯楽スポットなどを紹介する情報バラエティ番組は、全編タイアップ広告といっても差し支えがない番組の構成になっています。それでも視聴者が番組を楽しんでくれるのであれば、何も問題はありません。

抖音でも、広告ショートムービーは基本的には区別されず、内容も他のコンテンツと同じように魅力的なものになっています。いわゆる昔のテレビCMのように、商品名を連呼するタイプの広告はほとんどありません。昭和のテレビでは、まずは商品名を知ってもらい、記憶してもらうことが何よりも重要でした。なぜなら、テレビでは商品を販売できないからです。商品名を記憶してもらって、お店に行った時に商品名を思い出してもらい、手に取ってもらい、最後にレジでお金を払って、ようやく広告の使命をまっとうすることができます。ですから、下品だろうとうるさく思われようとも、商品名を連呼して、名前を記憶してもらう必要があったのです。

しかし、抖音では商品名を記憶してもらう必要はありません。なぜなら、その商品が気になったら、ムービー画面をタップすれば、すぐに購入ページに飛び、購入できるようになっているからです。商品名を記憶してもらうよりも、その商品を魅力的に感じてもらうことの方がはるかに重要になっています。極論すれば、買ってもらえさえすれば、商品名やメーカー名などあやふやであってかまわないのです。

そのため、広告は非常にシンプルなコンテンツになっています。食品であれば、出演者が美味しそうに食べるショートムービーを流すだけでじゅうぶんですし、電子機器であれば新奇性のある機能を見せればじゅうぶんです。

多くの広告コンテンツは、プロフェッショナルが制作をしていますが、ゴージャスな映像作りをすることは少なく、スマートフォンで撮影し、あたかも素人がさっき撮影したかのような広告映像が多くなっています。そのような映像の方が、他の一般コンテンツとの違和感が少なく、見てもらって、商品に興味を持ってもらえる確率が高いことを広告のプロたちは理解をしています。

そのため、抖音の広告を見ると、何か低予算のしょぼいセットで、適当に撮ったように見えるかもしれません。しかし、広告映像のプロがやることは、芸術祭に出品できる映像を作ることではありません。コンバージョンの高い映像を作ることです。その意味で、中国のショートムービーの広告は、日本のテレビ広告の映像の感覚で見ると、しょぼく見えるかもしれませんが、ある意味では先に進んでいるとも言えます。

では、ショートムービー広告はどのような特性を持っているのでしょうか。それを、実例を元にご紹介したいと思います。

 

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