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TikTokがアプリ内にスーパーを開店。このミスマッチぶりから見えるバイトダンスの焦り

中国版TikTok「抖音」がアプリ内にスーパーを開店した。日用品が買えるなんの変哲もないECで、そのミスマッチぶりに、多くの人が首をひねっている。しかし、抖音はショートムービー、さらには興味ECで大成功したが、いずれも成長の限界を迎えていると功夫財経が報じた。

 

抖音がスーパーを始めた

ショートムービーサービス「抖音」(ドウイン)が日用品販売のEC「抖音超市」(TikTokスーパー)を開始した。牛乳、飲料、酒類、家庭用洗剤、基礎化粧品など9つのカテゴリーの日用品を検索して購入することができる。宅配は順豊(シュンフォン、SF Express)が担当し、午後4時までに注文すれば翌日に配達される。

抖音のトップ画面で「抖音超市」と検索をするとスーパーへの入り口が表示される。

▲抖音スーパーの画面。タオバオなどの一般のECと変わった部分はなく、なんの工夫も見られない、ごくごく普通のEC。なぜこんなサービスを始めるのか、多くの人が疑問に感じているが、抖音をさらに成長させる事業が見つけられなくなっていることが大きい。

 

成長が止まっている抖音

ショートムービーと日用品ECという取り合わせに多くの人が違和感を感じている。楽しいショートムービーを楽しもうと思って抖音を開いた人が、「お風呂の洗剤が切れていた」と考え、注文をするだろうか?

抖音が日用品ECを始めたのには、抖音の焦りがあるのではないかと言われている。

2016年9月にバイトダンスによってリリースされた抖音は、ショートムービー+縦型動画という新しいコンセプトで、あっという間に若者世代だけでなく、中高年世代の心をつかみ、今ではテレビに代わる国民的メディアとして楽しまれている。しかし、次第に天井に達しようとしているのだ。

抖音の月間アクティブユーザー数(MAU)は、2021年に6億人を突破すると、伸びが鈍り始めた。現在でも6.8億人程度で、なかなか7億人の壁を破ることができない。それも仕方のないことだ。現在、中国のモバイルインターネット全体のMAUが11.9億人であり、スマートフォン利用者の6割が最低でも月に1度は抖音を利用していることになる。これ以上の増加は簡単ではなくなっている。

MAUの伸びが止まるということは、広告収入の伸びが止まるということだ。2021年11月には、上海証券報が、独自の分析により、抖音の広告収入の伸びが止まったと報じている。

 

大成功した興味ECも頭打ちに

バイトダンスもこのMAUの伸びが鈍化することは予測をしていて、バイトダンスが「興味EC」と呼ぶ独特なECを2020年6月に始めた。

商品に関連をしたショートムービーを見ていると、画面に商品タグが表示される。これをタップすると、その場でその商品が注文できるというものだ。美味しそうなザリガニのショートムービーを見ていて、食べたくなったら商品タグをタップして注文すると、自宅にザリガニが送られてくる。ショートムービーが欲求を刺激して、その場で販売をする。

このショートムービーを欲求のトリガーとして使ったECは爆発的な広がりを見せ、2022年には興味ECの流通総額(GMV)は1.41兆元(約27.7兆円)に達した。これは2010億ドルに相当し、これを国連貿易開発会議(UNCTAD)がまとめた2020年の「B2C EC GMVランキング」にあてはめると、アリババ、アマゾン、京東、拼多多に続く第5位となり、eBayやShopifyを上回っている。

これ以上ない成功をしたが、これもすでに天井に達しようとしている。2022年11月、メディア「LatePost」は独自の分析に基づき、興味ECの限界は2兆元から3兆元程度になるという分析結果を発表した。つまり、興味ECはすでに限界に近づきつつある。

抖音には、再び、次の成長を駆動するサービスが必要になっている。

▲抖音で大成功をした興味EC。ショートムービーを見ていると、商品タグが表示されるものがある。これをタップすると、商品の購入ページがポップアップされる。ムービーを見て、欲求が刺激され、ワンタップで購入に持っていくことで、1.41兆元の流通総額となった。

 

ミスマッチのスーパービジネスは成功をするのか

その次の成長を駆動するサービスが日用品ECであるというのは、ある意味順当な判断かもしれない。コロナ禍とウクライナ侵攻による品不足で、多くの人が日用品を買いに行くのではなく、届けてもらう習慣が定着しようとしている。多くの人がほぼ毎日、抖音を使うのだから、そこで洗剤が注文できるのは確かに便利かもしれない。

しかし、興味ECと抖音スーパーは、同じECのように見えて決定的な違いがある。興味ECは商品に対するニーズなどない状態でショートムービーを見て、そこで初めて要求が刺激をされ商品を購入する。いわばウィンドウショッピングだ。

一方、抖音スーパーは、先にニーズが確定をしていて、商品名を検索して購入する。いわばコンビニやスーパーだ。

つまり、抖音スーパーは、ショッピングモールや百貨店の中に、コンビニやスーパーを出店したようなものになる。ついでに利用する人はある程度いるかもしれないが、少なくとも洗剤を買いに、ショッピングモール内のスーパーに行く人はそうは多くないだろう。

このミスマッチは、もちろんバイトダンスは理解をしているはずだ。逆に言うと、さすがの抖音も手がなくなりつつあるということだ。抖音も転換点を迎えようとしている。