世界的に音声メディアが話題となっているが、中国には8年前から音声メディアが登場し、多くの利用者を集めている。しかし、人気はあるものの、いまだに黒字化ができていない。音声メディア特有の収益上の問題があるからだと钛媒体が報じた。
音声版YouTubeと言われる音声メディア「喜馬拉雅」
ポッドキャストの再度ブームになったり、音声SNS「Clubhouse」が世界中で話題になるなど、音声メディアが今注目されている。中国には「喜馬拉雅」(シマラヤ)という音声メディアプラットフォームがある。
2013年3月からスマホアプリの形でサービスを提供し、利用者数は6億人を超える。人気なのは、ニュースの音声版や「相声」(漫才)、小説の朗読などだ。また、テック業界やビジネス界の著名人がビジネスについて語る声のエッセイも人気がある。さらには、音楽のプレイリストも用意されている。
シマラヤは「音声版のYouTube」と言われるように、700万の配信主がいて、その中には新浪、フォーブズなどのメディア、アリババ、百度(バイドゥ)、ケンタッキーなど3000の企業も音声コンテンツを配信している。
▲シマラヤのアプリ。ラジオ番組の配信、ニュース、漫才、小説の朗読などが無料で聴けるポッドキャスト的なサービス。ビジネスモデルは番組前の音声広告とフリーミアム。しかし、6億人の利用者を集めても、まだ黒字化ができていない。
移動機会の減少が音声メディアに逆風
しかし、世界の音声メディアの盛り上がりとは逆に、中国の音声メディアは頭打ちに直面している。
「2020中国ネット音声メディア研究報告」(中国ネット音声番組サービス協会)によると、音声プラットフォームを利用しているネット利用者の割合は、2020年6月で29.3%で、1年前の38.1%から大きく後退している。
ひとつはショートムービーの人気が上昇をしたこと、もうひとつはコロナ禍により移動の機会が少なくなったことだと言われている。音声メディアは、車を運転中、あるいは公共交通機関や徒歩で移動中に利用するのに適していて、その移動の時間が大きく減少したことが影響している。
▲各番組にはコメントがつけられる。コロナ禍により移動機会が減ったため、音声メディアは伸び悩みから下降線をたどっている。
利用シェアは圧倒的でも黒字化が難しい音声メディア
この音声プラットフォームは、シマラヤの他に、「茘枝」(ライチ)、「蜻蛉FM」などがあるが、シマラヤのシェアが圧倒的だ。シマラヤの利用シェアは66.9%、ライチと蜻蛉FMは合わせて25.1%となっている。
シマラヤはこの分野で圧倒的に強いシェアを持っているが、それでも黒字化ができず、上場が見えてこない。ここに音声メディアの難しさがある。
利用者に評判が悪い音声広告
シマラヤの収入モデルは、音声広告収入とVIP会員によるフリーミアム収入の2つだ。
音声広告は、番組が始まる前に流されるもので、広告主から配信料を得るというもの。しかし、これが利用者の不評を買っている。無料で音声番組が聞けることがシマラヤの強みになっているが、その代わりに25秒から30秒の広告を聞かなければならない。これが利用者から歓迎されていない。
長い番組を聞くのであれば問題はないが、入眠のプレイリストなどでも広告が流される。環境音を聞きながら眠りにつこうとすると、次の環境音が始まる前に賑やかな広告が流れ、驚いて目が覚めてしまうということがあるのだ。
また、他の番組でも、広告は音量が大きく感じる。番組の多くは静かな語りだが、広告には賑やかな音楽が入るからだ。特に街を歩きながら聞いている時は、騒音で聞きづらいため、イヤホンの音量をかなり大きくしている。そこに広告が流れると思わずイヤホンを外してしまうほどの音量に感じる。
フリーミアムモデルは成功。それでも黒字化ができない
この広告を消すには、初月6元、以降月額20元の会員費を支払ってVIP会員になることだ。広告が消えるだけでなく、会員専用のコンテンツも聴けるようになる。
VIP会員の率は20%から30%程度で推移をしていて、フリーミアムモデルとして会員率はかなり高く、シマラヤのフリーミアムモデルはこれ以上ないほどの成功をしている。
しかし、それでもシマラヤは黒字化ができていない。創業から8年、すでに8ラウンドの投資を受け、その中にはテンセント、小米(シャオミ)、京東(ジンドン)などの名前もある。投資家からは、いち早く株式公開をするように促されているが、黒字化の道筋が見えないため、上場計画を立てられない状態が続いている。
音声メディアは、ネット利用者からも歓迎をされているが、ビジネスとして成立させることがきわめて難しい。人気のシマラヤは、難しい局面を迎えている。