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新型コロナ対策には人工知能。存在感を示した百度(上)

新型コロナの感染拡大期、百度は自社の持つ人工知能技術の多くを無償公開した。百度は中心事業を検索広告から人工知能にシフトしようとしているが、人工知能事業がなかなか育たず苦しんでいる。今回、国難に多くの人工知能テクノロジーを提供したことで、百度の存在感が強まっている。百度にとって、人工知能事業を軌道に乗せる大きなきっかけになる可能性があると光明網が報じた。

 

感染拡大期に存在感を示した「AI先生」ロビン・リー

この数年、ネット広告市場でのシェアを落とし続ける検索大手「百度」(バイドゥ)。Tik Tokを擁するバイトダンスの急追を受けていることが大きな原因だが、百度自身がAIに舵切りをしたことも大きく関係している。

2010年頃からAI開発部門を強化、2013年には百度ディープラーニング研究院を設立している。そこから音声言語解析エンジン「DuerOS」、自動運転プラットフォーム「アポロ」などの成果が生まれているが、まだ大きな収益を上げる段階には至っていない。

それでも百度の創業者、李彦宏(リ・イエンホン、ロビン・リー)は、「私たちの決心は揺るがない。AIがすべての人の生活を変えていく」と姿勢を崩さない。そのため、メディアからは尊敬と嘲笑を交えて「AI先生」というニックネームをもらっている。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大期、百度はAI研究の成果を存分に発揮した。そして、その多くを無料で世界に向けて開放をした。百度の数々の貢献により、メディアの百度に対する見方に変化が生まれている。ロビン・リーを尊敬から「AI先生」と呼ぶべきではないかという空気感になっている。

新型コロナウイルスの感染拡大が、百度にとって、大きな転換点になるかもしれない。

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百度の創業者、ロビン・リー。検索広告から人工知能に事業転換をしている最中で、メディアからは「AI先生」と呼ばれている。この言葉には、尊敬と嘲笑の両方の意味があったが、これからは尊敬の意味で使われることになるかもしれない。

 

01:ウイルスRNAの二次元構造を計算するLinearFold

新型コロナウイルスRNAウイルスだ。しかし、DNAもRNAも不安定な物質で、そのままではすぐに分解してしまう。そこで、DNAの場合はネガに相当するDNAと組み合わさり、2本鎖となることで物質的に安定をする。RNAの場合は、1本鎖の中の塩基「グアニンとシトシン」「アデニンとウラシル」が結合し、二次構造をとることで安定をしようとする。

どのような二次構造をとっているかという情報は、治療薬、ワクチンの開発に必要な情報で、現在では、RNA塩基配列から計算で二次構造の予測を立てて研究開発をするのが一般的だ。

百度は、1月30日に、この二次構造を予測するアルゴリズムLinearFoldを世界に向けて無償 開放した。一般的なアルゴリズムでは55分程度かかる計算がわずか27秒で終わる。しかも、最長10万塩基のRNAまで計算できるため、ほぼすべてのRNAウイルスの二次構造を推測することができる。現在、世界で100以上の医療研究機関で利用されている。

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RNAの二次構造を計算するLinearFold。治療薬などの開発に大きな貢献をする。従来55分かかっていた計算が27秒で終わる。世界に向けて無償公開された。

 

02:AI電話アンケートシステム

社区(コミュニティ、町内会的な住民組織)は、住人の健康状況を常に把握をしておく必要がある。一般的にはアンケートを電話やWeChatで送り、その回答を手作業で集計するというやり方になる。

そこで、百度はAI電話アンケートシステムを社区に提供をした。自動で電話をし、合成音声で質問をし、音声による回答を聞き取り、テキスト化し、最終的に統計情報にまとめてくれるというものだ。

1月31日には陝西省延安市で利用され、3日間で20万本以上の電話をかけ、統計情報をまとめた。

 

03:無接触体温測定サーモグラフィー

百度は、無接触で体温測定ができるサーモグラフィーシステムを開発して、鉄道駅やオフィスビルに提供をした。1列で通行する通路に設置をすれば、人は立ち止まることなく、普通に歩いて通り過ぎるだけで、1分間に約200人の体温測定が可能になる。測定誤差はわずか±0.3℃だという。百度によると、2月末までに700万人の体温測定をしたという。

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百度は、無接触で体温が測定できるサーモグラフィーを鉄道駅、空港などに提供した。乗客は通過するだけで体温測定ができ、1分間に200人の体温を測定することができる。

 

04:マスク顔検出

中国では至るところで顔認証、顔認証決済が使われていたが、マスクを着用するようになり、このような顔認証が利用できなくなった。マスクを外して顔認証をする必要がある。

そこで、百度では2月13日にマスクをした顔の検出ができるシステムを開発して、北京地下鉄、北京市内のオフィスビルなどに提供した。これは百度が以前から研究を進めていた顔検出システムPyramidBoxを応用したものだ。

マスクをしたままでも顔の位置を検出するもので、これに顔認証、人体識別+歩行識別などを組み合わせることで、本人認証を行うことも可能になる。

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百度は、顔検出システムPyramidBoxをアップデートし、マスクをつけた顔部分を検出できるようにした。これに目認証、歩行認証などを組み合わせることで、マスクをつけたまま本人認証ができるようになる。

 

05:無接触記帳システム

企業や施設を訪問する場合、受付などで、自分の名前や所属、入館時間などを記入するのが一般的だ。しかし、そのためには、記帳ノートやペンなどに触れなければならない。これが感染源となるため、百度では無接触で記帳ができるシステムを開発した。

受付に置いてあるQRコードをスキャンすると、スマートフォンに保存されている身分証明証データから必要な部分を企業や施設に送信するというものだ。山東省の中拓信息科技がこの百度のシステムを利用して、無接触受付システムを開発し、2月上旬から、山東省の80以上の政府機関、企業で使われている。また、中国移動でも同様のシステムが開発され、35の政府機関、4000以上の企業で利用されている。

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▲中拓信息科技が開発をした無接触基調システム。受付にあるQRコードを読み取ることで、自分のスマホから入館申請ができる。ペンや記帳ノートに触れる必要がないため、感染リスクを下げることができる。

 

06:音声認識システム

北京子傑宝貝科技は、百度音声認識エンジンを応用して、医療従事者が情報を音声で話すだけで、テキスト化し、記録するシステムを開発した。両手が塞がっている医療従事者が、作業中に状況をメモするために利用する。約10秒で、数十項目の情報を記録できるようになる。

山東省煙台伝染病病院、寧夏回族自治区寧夏第4病院、雲南省伝染病病院などで採用されている。

 

07:AI病状診断システム

2月28日に、連心医療科技は、百度が開発した画像解析エンジンを利用して、CT画像から肺炎の症状を自動診断するシステムを開発した。すぐに湖南学院附属病院に投入されて使用した。

 

08:自動字幕システム

感染拡大期には、学校が休校となり、家庭でのオンライン学習が行われた。多くの場合、講義を映像で配信するか、ウェブ会議システムを利用して双方向の授業を行うというものだ。

しかし、耳に障害がある学生にとって、動画、ウェブ会議システムは、音声が聞き取れないために利用が難しい。そこで、百度はリアルタイム音声認識エンジンを提供した。これにより、動画の音声をテキスト化して、字幕として表示する。現在、天津理工大学などが採用し、2万人の学生が利用している。

 

次回は、後編のテクノロジーを紹介する。