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刑務所の中でもEC通販。指紋認証決済で翌日配送。社会復帰意識を持たせる効果が狙い

広東省広州市従化区にある広東省従化監獄で、受刑者のためのネット通販システムがスタートした。刑務官の業務負担を減らす他、受刑者に早期の社会復帰に対する意識を持たせる狙いもあると南方都市報が報じた。

 

刑務官の業務負担を減らし、社会復帰を促す刑務所内ECの導入

受刑者といっても、社会との繋がりがまったく絶たれているわけではない。以前から、受刑者が買い物をできる制度はあった。申請書に商品名を書いて申請をし、刑務官が問題のある商品でないかどうかをチェックして、業者に発注をする。商品が届くと、刑務官が開封をして、余計な通信文や品物が入っていないかどうかをチェック、さらにX線検査をして内部もチェックする。注文をしてから、受刑者の手に届くまで10日から20日かかるのが普通だった。

今回、従化監獄がネット通販システムを導入したのは、ひとつはこのような刑務官の業務負担を減らすためだ。もうひとつは、今、中国社会では、「ECで注文すれば翌日には配送される」という便利さを受刑者に実感させ、早く社会復帰したいという意識を持たせ、同時に社会復帰後の戸惑いを減らす狙いがある。

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▲EC端末は各管理区ごとに1台置かれている。利用をできるのは月1回のみ。みな、きちんと整列して順番を待っている。

 

指紋認証だけで決済までできる便利さ

EC端末は全体で52台が設置され、各管理区の各フロアに1台ずつ設置されている。いつでも利用できるわけではなく、利用できるのは月に1回と定められている。

刑務所に入る時点で、指紋データが登録されているので、EC端末に指で触れるだけで自動ログインでき、決済も指紋認証で行われる。

購入できるものは、シャンプー、靴、シャツ、飲料、副食品、ペン、便箋などで、68種類、200品目。特に、以前は購入できなかったペプシコーラが買えるようになったことが好評だという。一人平均の購入額はで毎月300元(約4700円)にもなる。

強盗罪で11年の刑で服役している王俊(仮名)は、南方都市報の取材に応えた。「日用品と食料品が買えます。価格も高くなく、以前よりも安くなったぐらいです。食事の時に食べるお惣菜を買っていますが、以前と比べてメーカーや味付けを選べるようになりました」。

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▲購入できるのは68種類、200品目。日用品が主だが、ペプシコーラが人気商品になっているという。

 

受刑者の管理クラスにより購入限度が定められている

ただし、あくまでも刑務所の中であるので、無制限に買い物ができるわけではない。受刑者の管理には3つのクラスがあり、最もゆるい寛管クラスでは、月800元まで、一般の普管クラスでは600元まで、最も厳しい考察クラスでは500元までとなっている。

考察クラスであっても、きちんと服役していれば、管理のゆるいクラスに変更してもらえるため、買い物がしたいから真面目に服役するという効果も生まれているようだ。

 

受刑者には4つの口座が設定され、社会復帰資金を作る

決済は、受刑者の個人口座から行われる。受刑者は1人で4種類の口座が作られる。A口座が基本の口座となり、購入した代金はここから引き落とされる。この口座は、一般の銀行ATMから、家族がお金を振り込むことができるようになっている。また、家族は通帳の履歴も、ATMやスマホから見ることができるようになっているので、何をどのくらいの頻度で買っているのかもわかるようになる。

A口座の上限は1万元で、それ以上の金額になると、自動的にC口座に送金される。C口座のお金は服役中は引き出すことはできない。

刑務所の中では、刑務作業を行い、その報酬はB口座に振り込まれる。B口座からは毎月一定額がD口座に送金される。これも服役中は動かすことができない。

つまり、受刑者が利用できるのはA口座のみで、家族から振り込んでもらうか、C口座に溜まった刑務作業の報酬をA口座に移して使う。

出所するときは、ABCDすべての口座の資金が渡され、社会復帰のための資金として利用できる。

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▲翌日配送された商品は、刑務官がX線などで内容を検査して、各受刑者に配られる。

 

将来的には刑務所が商品の販売を始める計画も

この試みは、広東省従化監獄だけでなく、全国の刑務所に広げていく計画だ。受刑者に利便性を提供することで、刑務所内でのストレスを発散することができ、早く社会復帰したいという意識を高めることに役立つからだ。

将来的には、刑務所がEC業者の許可を得ることで、刑務作業で製造した家具や衣服などを外部に向けて販売するECサイトを構築することも視野に入れているという。従化監獄は、ECを通じて社会とのつながりを保ち、服役にいい効果をもたらそうとしている。