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孤独を感じる人はECを利用する。個人商店は、人の温度を排除することでECに負けた?

コロナ禍以降、孤独を感じる人が世界的に増えている。このような孤独を感じる人はECを利用する傾向が高いという論文が発表され、話題を呼んでいると中欧商業評論が報じた。

 

孤独を感じる人ほどECを使う

孤独を感じる人が世界的に増加する傾向が進んでいる。統計サイトStatistaが2021年2月に公開したデータによると、世界平均で約33%の人が「孤独をしばしば/常に/時々感じる」と回答している。

原因は言うまでもなく、新型コロナの感染拡大だ。各国の調査でも、コロナ前とコロナ禍では、孤独を感じる人が明らかに増加をしている。

中国人民大学商学院博士課程の王嘉瑋さんは、孤独を感じる人ほどオンラインショッピングを利用する傾向があることを発見し、「The Relationship between Loneliness and Consumer Shopping Channel Choice: Evidence from China」(Jiawei Wang, Journal of Retailing and Consumer Service 70(January 2023)として論文を発表した。

王嘉瑋さんは、オフラインの小売店=実態小売店が、社会的な孤独を抑制する機能を持っているとして、その重要性を論じている。

▲Statistaによる孤独を感じる人の国別割合。世界平均では、33%の人が孤独感を感じている。中国は世界平均よりも低いが、コロナ禍以前より上昇していると見られている。

 

孤独とは社会的孤立感のこと

孤独とは一人でいることを指すわけではない。一人でいることが好きな人もいる。さらに、都市化が進み、インターネットが進化をし、以前ほど他人と関わることなく幸福に生きられるようになっている。

ここで言う孤独とは、知覚的社会的孤立のことで、個人の社会的ネットワークが重要な局面で、量的または質的に不足をしていることから生まれる不快な体験のことを指す。そのため、個人の知覚のあり方により、“孤独感”は大きく違ってくる。

この孤独感とショッピングの関係は以前から指摘をされている。そこから孤独経済とも呼ばれる現象が生まれている。一人食、一人旅行、一人用家電など、一人用の商品が売れている。

 

増えるアテンドサービス

また、中国では陪玩経済(ペイワン、アテンド経済)と呼ばれるものも注目されるようになっている。オフライン、オンラインで何かを一緒にやってもらえるサービスだ。多くの場合、異性を指名するが、必ずしも恋愛を目的にしたものではなく、多くの人が孤独感を解消するために利用している。

手軽なものでは、寝る時間、起きる時間に電話でコールをしてもらうというもの。また、映画やコンサートのお供をするというサービスもある。近年は、オンラインで映画などをシェアできる機能が普及をしたため、一緒に映画を見ながら、チャットや音声で話をするということも行われている。さらに、学習、ジョギングを一緒にしたり、一緒にゲームを楽しむ、純粋に話し相手になるなどのサービスもある。中国青年報社社会調査センターの2021年の調査によると、95后(95年以降生まれ、20代後半)の37.2%がゲームのアテンドサービスを体験したことがあると回答している。

▲中国青年報社社会調査センターの調査では、95后のかなりの割合の人が、アテンドサービスの利用経験がある。特に、ゲームのアテンドは37.2%にものぼる。

 

人とのつながりを感じさせるECに人気が

このような孤独感を感じている人は、オンラインショッピングを利用する傾向があるが、その利用の仕方には特徴がある。それはユーザー体験に優れていたり、ユーザーサポートが充実をしているECが利用される傾向があることだ。ただ商品が並べてある買うだけのECは避けられる傾向がある。

買う前に商品の相談ができたり、購入した後もアドバイスが受けられる。それはチャットでも電話でもかまわないが、人とのつながりを感じることができるECが好まれる傾向にある。中国で、ソーシャルECやライブコマースが普及をしているひとつの原因になっている可能性もある。

 

不安定な孤独感トリガーのEC利用

しかし、王嘉瑋さんによると、この孤独感からくるオンライン消費は不安定でもあるという。孤独感がトリガーになっているEC利用者は、商品よりも社会的なつながりを求めて消費行動をするため、不快な体験をすると、そのサービスの利用をやめてしまう。

商品が届かなかった、宣伝ほど優れた製品ではなかったということは、ECという人格から裏切られたと感じ失望をしてしまう。また、問題がないECでも、ただ商品を注文をしたら届いたというだけで、人とのつながりを感じさせる要素がないと、そのサービスを利用する意欲を失ってしまう。

そのため、孤独感からECを利用する消費者は、同じサービスではなく、次から次へと新しいサービスを使い続ける傾向がある。

 

人の温度を排除していく個人商店

王嘉瑋さんは、オンラインであってもオフラインであっても、これからの小売業には「温度」がキーワードになっていくという。人格を感じさせる小売業が、このような消費者には受け入れられるのだという。

王嘉瑋さんが指摘をするのは、近所のオフライン小売=個人商店だ。以前の個人商店は、店主がいて、家族経営であり、いい意味でも悪い意味でも人格を感じさせてくれる。しかし、このような個人商店は、コンビニ化をし、デジタル化をし、効率が優先され、非人格化が進んでいる。さらには無人コンビニも登場するなど、無人格化まで始まっている。

そうなると、オンラインのECとの競争力は失われていく。ましてや、即時小売(ネットで注文、30分で配達)まで登場してくると、オフライン小売の競争力はまったくなくなってしまう。オフライン小売は、その最大の特徴である「人格」を自ら放棄し、自滅をしていっているのではないか。小売店の復活の鍵は「人格の復活」にあるのではないか。王嘉瑋さんの主張が注目をされている。