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EC「京東」がデジタル人民元に対応。再び決済方式の競争が激化

デジタル人民元の大規模実証実験は、昨2020年、深圳市と蘇州市で行われた。第2回となる蘇州市の実験では、EC「京東」のオンライン決済にも対応し、配布されたデジタル人民元の44.7%が京東のオンライン決済に使われた。これにより、再びECの競争が激化することになると趣味科技秀が報じた。

 

EC「京東」がデジタル人民元のオンライン決済に対応

デジタル人民元の実証実験が進んでいる。昨2020年10月には、深圳市で5万人の市民に対して200元を配布する1000万元規模の実証実験が行われ、12月には蘇州市で10万人の市民に対して200元を配布する2000万元(約3.2兆円)規模の実証実験が行われた。さらに今年は上海での実証実験が決まっている。

デジタル人民元は、対面決済だけではなく、オンライン決済にも利用できる。ECで買い物をするときに、ApplePayやクレジットカードと同じ感覚で、デジタル人民元で決済ができる。

このオンライン決済の実証実験として、蘇州の実証実験では、EC「京東」(ジンドン)が選ばれた。12月12日のセール期間に当たっていたこともあり、使用されたデジタル人民元の44.7%が京東のオンライン決済に使われた。

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スマホアプリのソフトウェアウォレット。通信方式は、NFCによるコンタクトレス決済とQRコードによるスキャン決済の両方に対応している。

 

京東にとって追い風となったデジタル人民元対応

中国のECは、トップはアリババでBtoC型「天猫」(ティエンマオ、Tmall)とCtoC型「淘宝網」(タオバオ)を有している。決済方法は当然ながらアリペイだ。第2位は流通額では「京東」になる。京東はテンセントの資本を受けていて、アリペイ決済をすることができない。テンセントのWeChatペイを利用する。ただし、京東は独自の京東支付を導入している。京東以外ではほとんど利用できないが、さまざまな特典があるために、京東でたびたび買い物をする人は京東支付を使っている。

第3位は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)だが、利用者数(月間アクティブユーザー数MAU)では、京東を抜いて第2位に躍り出て、タオバオに迫る勢いだ。拼多多もテンセントの投資を受けていて、SNS「WeChat」を活用し、WeChatペイで決済をする。

この上位3社で、アリババは圧倒的に強く、拼多多には勢いがある。相対的に京東の地位が苦しくなっている。そこにいち早く、デジタル人民元決済に対応したことは京東にとって大きなメリットになる可能性がある。

 

銀行口座を保有しない2億人の巨大市場が生まれる

アリペイ、WeChatペイのスマホ決済は、銀行口座を持つことが必須だ。なくても利用できないことはないが、チャージの手間がかかり、機能も大きく制限されることになる。一方で、デジタル人民元は銀行口座が必須ではない。

中国はスマホ決済が世界で最も進んだ国だが、一方で、世界銀行の統計によると、中国では2億人の成人がまだ銀行口座を保有できていない。そういう人は現金を使い続けるか、工夫をしてスマホ決済を使うしかない。デジタル人民元は、そういう人でも利用できる電子決済になる。オンラインでのチャージはできないが、銀行や商店で現金からチャージができるように見込みだ。

つまり、ECがデジタル人民元決済に対応するということは、銀行口座を持てない2億人を顧客にできる可能性が生まれ、市場を大きく広げるチャンスが生まれるということだ。

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▲デジタル人民元は、スマホアプリだけでなく、ハードウェアウォレットにも対応している。銀行口座がなくても、カード型のウォレットでデジタル人民元が使えるようになる。

 

アリババ、テンセントの独占による「二択問題」

昨2020年後半から、中国政府はアリババに対する独禁法による締め付けを強めている。アリババとテンセントが巨大になりすぎて、新しいサービスが登場をしても、すぐにアリババとテンセントの資本が入り、結局、消費者は「二択」しかできず、消費者の選択の幅を狭めているという批判が起きている。

スマホ決済に関しても、第3極である銀行系の銀聯はシェアを伸ばせず、結局アリババのアリペイか、テンセントのWeChatペイの二択になっている。

このため、京東支付を導入している京東を、人民銀行はオンライン決済の実証実験のECとして選んだと言われている。

アリババや拼多多の場合、アリペイやWeChatペイを使い慣れている人が多いため、そこにデジタル人民元決済を入れても、利用率の正確なデータが取れないということも大きな理由だと見られている。

 

偽物、劣悪商品の不安がないEC「京東」

もうひとつ、趣味科技秀が指摘をするのは、タオバオや拼多多では、いまだに偽物商品の問題が存在していることだ。さすがに、露骨な偽ブランド商品はなくなっているが、大手メーカーの製品と誤解をするような商品、広告内容とは異なる劣悪商品もまだまだ流通をしている。消費者が買い物をするときはよく見極めて買う必要があるし、返品依頼などのクレームもまだある。このようなECでデジタル人民元の実証実験を行っても、正確な行動データが取れないと人民銀行は判断したのではないかと指摘をしている。

京東は、元々、CD-Rなどの光ディスクメディアを販売する店舗から出発をしており、商品はすべて自社で仕入れ、自社で販売をし、自社で配達をするという仕組みだ。このため、偽物商品や劣悪商品がないということが京東の信用となって成長をしてきた。実証実験のECとして最適だと判断されたのだという。

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北京冬季五輪までにデジタル人民元はスタートする?

デジタル人民元が、どのくらいの規模、ペースで普及をしていくのかは、もちろん今はだれにもわからない。しかし、発行主体が人民銀行=中央銀行であることから、ペースはともかく、普及をするのは確実だ。多くの人が、2022年2月の北京冬季オリンピックに合わせて本格導入されるのではないかと見ている。

京東にとっては大きな追い風となり、再び、ECのトップ3争いが激しくなりそうだ。