コロナ禍が落ち着きを見せて以降、東南アジアの経済成長が加速をしている。その大きな原動力になっているのが、3つのデジタルだ。「EC」「SNS」「スマホ決済」だ。多くの企業がこの3つの分野に進出をし、過当競争になりつつある。特にスマホ決済は、乱立の様相を呈し始めていると霞光社が報じた。
銀行口座が普及していない東南アジア
東南アジア各国では、すでにスマホ決済が乱立をしている状態になっている。スマホ決済が乱立する理由は、東南アジアでは銀行口座の保有率がいまだに低いということにある。都市部の一定以上の収入がある人しか銀行口座を持っていない。世界銀行のデータによると、タイ、マレーシアでは成人の90%前後が銀行口座を持つようになっているが、その他の国では50%に届いていない。
銀行口座がないからこそスマホ決済
郊外に暮らす農民などでは、銀行口座をつくりたくても近くに銀行がない。そのため、郊外では現金取引をする習慣が確立をしているため、現金取引で特に大きな不便を感じない。また、銀行口座をつくったとしても、銀行ローンやクレジットカードを使う機会はほとんどないため、銀行口座をつくる動機も生まれない。
しかし、日常の決済とECはキャッシュレス決済の方が便利であることは知られるようになり、銀行口座がなくてもつくれるスマホ決済が普及をし始めている。
インドネシアでは複数のスマホ決済を使い分ける
インドネシアの場合、GoPay、DANA、OVO、ShopeePay、LinkAjaが五大スマホ決済と呼ばれている。しかも、多くの人が複数のスマホ決済を使い分けている。GoPayは71%の人が使った経験があり、OVOは70%の人が使ったことがある。日常の店舗での決済にはGoPay、OVO、DANAなどを、ECでの買い物ではShopeePayを使うというのが一般的だ。
GoPayは、バイクタクシーGoJekが始めた決済サービスだ。インドネシアのジャカルタでは慢性的な交通渋滞があり、バイクで移動の利便性が高い。そこで、GoJekはスマホで呼べるバイクタクシーのビジネスを始めた。GoJekは2016年にスマホ決済GoPayをスタートさせた。バイクタクシーの料金をスマホ決済で支払ってもらうためのものだ。
このGoPayは銀行口座に紐づける必要はなく、バイクタクシーの運転手に現金を渡してチャージをしてもらう。逆に現金が必要な時は運転手に現金化をしてもらう。バイクタクシーを利用する時だけでなく、街角で運転手を呼び止めてチャージや現金化をしてもらうことも可能で、移動するATMのような利便性がある。
GoJekはこのGoPayを武器に、フードデリバリー、短時間配送などのビジネスを拡大し、さらにはEC「Tokopedia」と合併して、GoToに社名変更をした。GoPayがあれば、日常の決済からECでの購入までさまざまなシーンでキャッシュレス決済ができる環境を整えてしまった。
これに対抗して、ライドシェアのGrab(グラブ)は、スマホ決済「OVO」を買収し、GoPayとトップの座を競い合っている。
LinkAjaはインドネシアの国営企業が母体になったスマホ決済で、公共系に強い。また、DANAは中国のアリペイの技術協力を受け、請求書払いや分割払いに対応するなど利便性に強みを持っている。
乱立する東南アジアのスマホ決済
一方、フィリピンではGcashとPayMayaが人気になっている。Gcashはアリペイの技術協力を得ている。タイでは、TrueMoneyとLINEPayが人気がある。ベトナムでは、MoMo、ZaloPay、ViettelPay。マレーシアではTouch’n Go eWalletが人気がある。
東南アジア6カ国には、それぞれに国内だけで使えるスマホ決済20近くも存在をしている。問題は銀行口座という軸がないために、各スマホ決済に互換性がないということだ。多くの市民は、複数のスマホ決済に別々にチャージをし、管理をしなければならなくなっている。
決済統合、越境サービスの動きが今後の鍵に
そこで東南アジアのスマホ決済を統合するサービスPayerMax(https://www.payermax.com/)が登場してきている。店舗側がAの決済にしか対応していなくても、PayerMaxを通すことで、消費者側はBの決済で支払いをすることができる。それだけでなく、国を超えて、異なる通貨でも決済ができるようになり始めている。ここに、中国の越境決済サービスPingPong(https://www.pingpongx.com/zh/)も東南アジアでサービスを拡大中で、東南アジアのスマホ決済市場は、このような統合サービス、越境決済サービスのどこが優勢になるかで進む方向が決まってきそうだ。