中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

食料品はもう宅配が常識。競争が激化する新小売。鍵は「前置倉」vs「店倉合一」

アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」が成功し、テンセント系の生鮮EC「毎日優鮮」も利用者を増やしている。もはや、食料品は宅配をしてもらうのが常識になりつつあり、競争が激化している。この競争の鍵となるのが「前置倉」「店倉合一」という2つの考え方だと物流サロンが解説している。

 

ECの限界が新小売という新しい業態を生んだ

生鮮ECや新小売といった、日常の食料品を自宅まで配送してくれるサービスの競争が激しさを増している。多くの専門家が2019年は、このような生鮮宅配サービスが大きく普及する年になると指摘をしているからだ。

このようなサービスが生まれた背景には、ECの成長が頭打ちになっていることがある。ECは大都市ではすでに飽和をし、地方都市や農村に広がり始めているため、一見売上は伸び続けている。しかし、住居密度が低い地区へ拡大しているため、配送効率は低下し続けている。

そこで、ECの10倍近い売上がある、日頃食べる肉、野菜、魚といった生鮮食料品をどうにかして扱う必要がある。これが生鮮ECサービスが続々と生まれている理由だ。しかし、生鮮食料品は、伝統的なスーパーやコンビニの市場であり、既存スーパー、コンビニも宅配サービスを始めて、生鮮ECに対抗するようになっている。

アリババのジャック・マー会長は、ECは生鮮食料品を扱い新小売業態になり、伝統的なスーパーもECに進出を新小売業態となり、生鮮食料品の世界では、10年後にはECと実体店舗の区別はなくなっていくだろうと予言している。

 

保温管理が必要な生鮮ECの物流は「前置倉」

ECが生鮮食料品を扱う上での最大の問題は、ECの配送物流そのままでは生鮮食料品は扱えないということだ。白菜や魚といった食料品は、生産地から各家庭まで温度管理をしなければならない。巨大倉庫に集積をして、大型トラックで拠点まで配送、そこから小型トラックで各家庭に届けるというECのやり方で、倉庫、拠点、冷蔵トラックによる温度管理物流網を構築するには莫大なコストがかかる。

そこで生まれたのが「前置倉」(前線倉庫)という考え方だ。倉庫を前線である配送地域に置くというもの。配送地域である住宅地近くに小さな倉庫を置き、そこまで冷蔵車が巡回をして商品を配送し、倉庫からはバイクなどで周辺地域に配送をする。コンビニの配送物流の仕組みによく似ている。ただし、お店ではなく倉庫なので、客が買いにくることはない。宅配専門なのだ。

f:id:tamakino:20190722110026p:plain

▲毎日優鮮の倉庫。純粋な倉庫なので、ピックアップのしやすさを考えてレイアウトされている。加工食品が多く、宅配できるコンビニ感覚で利用されている。

 

品質を直接確かめることができる「前置倉+店倉合一」

しかし、前置倉には大きな課題がある。それは品質の個体差が大きな生鮮食料品を、ものを見ないで注文しなければならない点だ。消費者に品質を信頼してもらうまでに時間がかかる。一度でも低品質の食料品を届けてしまうと、離脱されてしまう。そのため、多くの前置倉で、無条件返金制度をとっている。「理由を問わず」「商品がなくても」返金できるというものだ。

この問題を根本から解決しようとしたのが、「店倉合一」(店舗と倉庫の融合)の新小売スーパーだ。普通のスーパーだが宅配をする。狙いは宅配だが、消費者が店舗に買い物にきて、商品の品質を自分の目で確かめることができるという点が大きい。新小売スーパーの代表である、アリババ系の「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、販売している食材を使った料理を食べることができるエリアが設けられている。利益はほとんど乗せていないため、格安のレストランとして利用されている。これは、食材のプレゼンであり、客に足を運んでもらって、商品の品質を見てもらうことが目的なのだ。

f:id:tamakino:20190722110030j:plain

▲フーマフレッシュの店内。伝統的なスーパーでは、来店客が野菜、魚、肉と、献立を考えながら回遊できるレイアウトにしているが、店倉合一のフーマフレッシュでは、野菜、魚、肉がゾーン別にレイアウトされている。ピックアップのしやすさを優先しているためだ。通路も広くとってある。

 

4つのスタイルに分類できる生鮮EC

小売業コンサルタントの張陳勇氏は、このような生鮮ECを4種類に分類している。

1)前置倉:いわゆる生鮮EC。配達地域に小さな倉庫を設置し、その周辺に配送をする。スタートアップが多く、競争が激化している。代表格は、テンセントが出資をしている「毎日優鮮」だが、「叮買菜」(ディンドン)にも勢いがある。サービス地域は上海だけのものの、他地域にも拡大したら毎日優鮮の強力なライバルになると見られている。

2)新小売スーパー:アリババのフーマフレッシュが代表格。「店倉合一」のスタイル。多くのチェーンが登場しているが、この分野ではフーマフレッシュが一人勝ちになっている。

3)プラットフォーム生鮮EC:ECサイトが前置倉の考え方を取り入れて、配送物流を工夫し、生鮮食料品も扱うというもの。「京東到家」(ジンドンダオジャー)が代表格。中国ではサービスを提供していないが、アマゾンフレッシュもこのタイプ。

4)単店生鮮EC:既存のスーパー、コンビニが宅配をして対抗をしたもの。見た目は新小売スーパーとよく似た形態になる。しかし、新小売がオンライン売上に軸足を置いているのに対して、単店生鮮ECは店舗売上に軸足を置いている。いわゆる「宅配もするスーパー」だ。生鮮ECに市場を蚕食されないための対抗措置の感が強い。スーパーチェーン「永輝」が始めた「永輝生活」が代表格。

このうち、競争が激化しているのが、1の前置倉と2の新小売スーパー(店倉合一)だ。3は生鮮食料品も扱うことで本来のECからの離脱を防ぐ、4は宅配をすることで実体店の売上低下を防ぐという防衛的な意味合いが強い。

 

中高年が利用する「店倉合一」、若者が利用する「前置倉」

店倉合一と前置倉は、利用する年齢層が異なっている。店倉合一の代表格であるフーマフレッシュの利用者は25歳以上が中心。店舗に行って、自分の目で品質を確かめることができるという安心感が利用につながっている。一方で、前置倉の代表格である毎日優鮮の利用者は24歳以下が目立って多い。若い世代は、品質を確かめなくても、まず試してみるということをする。割引クーポンをもらって、一度使ってみて、体験がよければ次からも使う。

中高年に支持されている店倉合一、若者に支持されている前置倉という図式が出来上がりつつある。

f:id:tamakino:20190722110022p:plain

▲フーマフレッシュ(店倉合一)と毎日優鮮(前置倉)の会員の年齢分布の違い。生鮮ECは若者の利用が多く、新小売スーパーは中高年が多い。

 

低コストの小さな倉庫を分散させて、広い地域をカバー

毎日優鮮の特徴は、倉庫面積が80平米と狭いことだ。一般の個人商店程度の面積でしかない。この小さな倉庫を市内に分散させるというところが、毎日優鮮のビジネスのポイントになっている。

倉庫だけで、店舗機能はないので、場所はどこでもいい。裏路地の廃業した商店を借りて、冷蔵施設を入れればいいのだ。このため、賃貸料が安く抑えられる。特に大都市では何のビジネスをするにも、賃貸料が大きなコストになるため、店舗機能を捨てることで、毎日優鮮は低コスト運営を可能にした。

また、倉庫が狭いので、商品のピックアップにかかる時間も短い。このような低コストの倉庫+配送拠点を住宅地のそばに置くことで、平均客単価が75元という高さにつながっている。一般的な生鮮ECの場合、客単価50元が採算ラインだと言われている。

 

単価の高い加工食品を主体にした毎日優鮮

倉庫が狭いということは扱える商品の品目数も少なくなる。毎日優鮮では、400種類から600種類(SKU=Stock Keeping Unit。同じ商品でもサイズが違えば別に数える)程度。しかも、売れているのは果物、飲料、加工食品といった調理をしなくてもすぐ食べられる食品が主体になっている。

これが客単価を押し上げている。野菜、魚、肉といった生鮮食料品の価格は、一部の高級品を除けば、とても安い。白菜やねぎを買われても客単価があがらない。しかし、毎日優鮮では、果物、飲料、加工食品という単価の高いものを若者が利用をしている。これにより、客単価75元が実現できている。生鮮ECというよりは、宅配コンビニ感覚で利用されているのだ。

しかし、中年以上の「家で調理をするために生鮮食料品を購入したい」というニーズには対応しきれていない。家庭では、毎日優鮮だけでは必要なものが購入できず、結局、他のスーパー、コンビニを利用するか、他の生鮮ECを併用しなければならない。毎日優鮮の1倉庫あたりの1日の平均注文数は360件程度だ。

すでに20都市に展開をし、1000以上の倉庫を展開しているが、今後、品目をいかに増やしていくかが大きな課題になっている。そのため、最近では100平米から150平米の中型倉庫の設置も進めているが、そうなると毎日優鮮の「小さな倉庫による低コスト」という優れた点が失われてしまう。

 

倉庫を広くして、品目を増やしたディンドン

この問題を解消したのが、上海で始まったディンドンだ。ディンドンの倉庫は300平米と広い。中型のドラッグストア程度の広さがある。品目は1500程度と多く、若者だけでなく、広い世代から利用されている。

倉庫を広くすると、その分、賃貸、ピックアップなどのコストはあがるが、必要な生鮮食料品をワンストップで購入できるという利点を活かして、中年以上の家庭に浸透し、1倉庫の1日の注文数が750件と、注文数をあげることでカバーをしている。

f:id:tamakino:20190722110033j:plain

▲上海で急成長している生鮮EC「ディンドン」。大型倉庫を設置し、商品点数が多いことが受けている理由だ。

 

意外に効率のいい短時間配送。鍵は不在率の低さ

生鮮ECは、宅配時間も選ばれる決め手になる。ディンドンは29分配送、フーマフレッシュは30分配送、毎日優鮮は1時間配送を行なっている。これは、料理をしようと思って、卵がないことに気がついたというような場合でも、注文をして待っていられる時間だ。

これを実現するためには、多数の配送員を待機させておく必要があり、一見、効率が悪そうに見えるが、実は一般の宅配よりも効率がいい。なぜなら、「待っていられる時間」で配送をするために、不在率がきわめて低いのだ。

一般のECは翌日配送、翌々日配送が基本なので、不在であることがけっこうある。中国の住宅は多くが集合住宅で、古い建物だとエレベーターがなかったり、少なかったりすることもある。そのため、宅配便の配達員は、マンションの前で一人一人に電話をし、在宅であることを確かめてから、各戸に配達をしている。1人の電話に1分かかるとしても、60件の配送では60分を在宅確認に費やしてしまうのだ。

 

無人配送の時代をにらんで加熱する生鮮ECの競争

張陳勇氏は「4年から5年で無人配送の普及が始まる」と断言している。現在のところ、自律走行するカートによる無人配送が最も有力視をされている。

しかし、配送拠点から5km、10kmの範囲に配送をするEC配送では、無人カートの導入には数々の問題が出てくる。一方で、前置倉で配送距離が1kmから3km程度の生鮮ECでは、無人カートの導入もしやすい。無人カートによる無人配送は、生鮮ECなどの短距離配送からまず普及をしていくことは間違いない。

こうなると、生鮮ECのコストはますます下がり、大きな利益を生み出すことが期待されている。その期待から、投資資金が集まり、次々と新しいサービスが生まれている。もちろん、その中で生き残るのはごく一部だろう。その淘汰整理の時期が2019年から2020年だと見られている。生鮮ECの競争はますます激化していくことになる。

コールマン(Coleman) アウトドアワゴン 2000021989

コールマン(Coleman) アウトドアワゴン 2000021989