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コロナ禍で成長した生鮮EC。しかし、黒字化に立ち塞がる依然として高い壁

コロナ禍で外出を控える人が増え、「スマホ注文で30分配送」の生鮮EC各社は営業収入を大きく伸ばした。しかし、30分配送を実現するための前置倉という仕組みが高コストであるために、依然として黒字化が達成できていない。鍵は単価の高いパーティー用料理と生花の需要をどこまで増やせるかだと庄師零售電商頻道が報じた。

 

前置倉方式で生鮮食料品を宅配する生鮮EC

前置倉(前線倉庫)という新しい手法で、生鮮食料品を注文から30分で配達するO2Oビジネス「生鮮EC」。前置倉は、小さな倉庫を配達先である住宅地の中に多数設置し、そこから配達をするというものだ。日本のコンビニのように展開をするが、店舗ではなく倉庫である点が異なる。倉庫であるために客流を確保するための立地条件は考える必要がなく、設置コスト、運営コストが抑えられる。

この分野では、2015年に創業した「毎日優鮮」(ミスフレッシュ)が開拓者であり、2017年に「叮買菜」(ディンドン)が参入をし、競争をしている。

特にコロナ禍では、生鮮食料品を短時間で配達してくれることから需要が大きく伸びた。ところが、営業収入が増えても赤字幅が拡大をし、この前置倉というビジネスモデルそのものに対する疑問の声が上がるようになっている。

▲ディンドンの前置倉。上海からスタートして急成長したディンドンも成長の壁に突き当たっている。

▲生鮮EC大手の毎日優鮮とディンドンの最近の営業利益。利用者数が増えるとともに赤字幅が拡大をしている。単位:億元

 

毎日優鮮は既存の菜市場をクラウド

両社とも黒字化に向けて、ビジネスモデルを変化させてきている。毎日優鮮では「(A+B)×N」というビジネスモデルを打ち出している。これは「(前置倉+スマート菜市場)×クラウド」というものだ。

従来の前置倉からの配送だけでなく、古くからある菜市場(マーケット)に投資、買収を行い、菜市場の生鮮食料品の配送も行う。生鮮ECという新しい方式になじめない中高年も、いつも買っている菜市場のお店の商品を配達してもらえるということで利用者を広げることができる。菜市場の店舗にしてみれば、配達により従来の商圏よりも遠い人にも買ってもらえる。毎日優鮮にとっては、大量の商品を菜市場という一ヶ所から配達できるため配送効率があがる。日本で言えば、商店街の八百屋や魚屋の商品をデリバリーするような感覚だ。

これにより、毎日優鮮は前置倉そのものを減らすことができ、ピーク時には1500の前置倉があったものが、2021年Q2には625にまで減らすことができている。現在、18都市73の菜市場と契約をし、すでに52の菜市場で配達が始まっている。

また、一般消費者だけではなく、飲食店などへの配達も強化して、さらに配達効率を高めようとしている。

▲毎日優鮮が買収した山東省青島市の「優鮮市場」。200の個人商店が入居している市場で、日本の商店街にあたる。昔からの利用客は変わらず店頭で買い物ができ、毎日優鮮で配達をしてもらうこともできる。

▲毎日優鮮の前置倉の内部。商品の搬入、整理、ピックアップ、消費期限の管理などやるべきことは多く、大きなコストがかかっている

 

コスト削減が課題のディンドン

ディンドンは、「コストコ+ドアダッシュ」のモデルを構築しようとしている。コストコからは効率の高い商品物流管理を取り入れ、米国で29分で既存店舗の商品をデリバリーしているドアダッシュの手法を学び、よりデリバリーを効率化していく。

しかし、コストがかかりすぎて利益が出ない状態になっている。財務報告書の営業収入とコストから計算すると、32.6%の赤字となっている。

ディンドンの客単価は60元で、2021年Q3には1256カ所の前置倉を運営していた。流通総額(GMV)は70.2億元なので、1つの前置倉当たり1035件の注文があったことになる。

華泰証券の試算によると、ディンドンの前置倉の運営コスト(光熱費など)は月1.9万元になる。前置倉の平均面積は300平米で、近隣相場から1日1平米5元と仮定をすると月4.5万元となる。

ひとつの前置倉に20名の配達スタッフがいて人件費が月8000元だとする。合計で16万元となり、これが配達コストとなる。また、商品管理スタッフが10名で月7500元、管理者が1人で月10000元とすると、合計で8.5万元となり、これが1つの前置倉の管理コストとなる。

このような試算に基づいて、1つの前置倉の収支を計算してみると、42.7万元の赤字となる。しかも、これは研究費用や広告費用を考慮に入れていない。

▲ディンドンのコスト構造。商品コストは抑えることは難しいため、運営コストを半減させる必要がある。

▲ディンドンの前置倉の損益モデル(華泰証券の試算)。26%の赤字となる。前置倉の運営コストを下げることが必至となっている。



損益分岐点という高いハードル

この計算を基礎に、客単価を70元、75元、80元、また1日の注文数を1200件、1500件、1800件という悲観/中立/楽観の3種類のモデルを計算してみる。

すると、中立モデルでは0.4%の利益が出て、楽観モデルでは2.5%の利益が出る。しかし、中立モデルでも客単価75元、1500件の注文であり、現状の60元、1035件の注文数からはかなり高いハードルになる。

▲ディンドンの悲観/楽観モデル。最低限中立に持っていく必要があるが、客単価75元、1500件の注文はかなり高いハードルになる。

 

単価が高いパーティー用料理と生花需要の掘り起こしが鍵

フードデリバリーなどで、今注目をされているのはパーティー用の料理と生花だ。この2つは注文数こそ少ないものの、単価が高いため、配送コストが固定されているデリバリー企業にとってはありがたい商品で、この2つの商品の需要の掘り起こしに躍起になっている。ディンドンも客単価を上げるために、このような高価格商品を扱う必要がある。

また、もうひとつの隘路は、前置倉の無人化だ。これについては、2019年にすでに美団が無人前置倉の研究開発を始めている。

生鮮ECは、まだまだ成長中で、客数、注文数については成長空間が残されていて、順調な成長をしていく可能性が高い。しかし、客数が増えたことにより、前置倉を増やしていくのではコスト構造は変わらず赤字経営が続くことになる。

客単価をいかに上げていくか、そして前置倉の運営コストをいかに下げていくかが、黒字化の大きな鍵になっている。