中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のビットコイン採掘場で1年働いてみた

中国は、ビットコイン採掘場のメッカだ。一時期は、全世界のビットコインの7割が中国で発掘されているとまで言われていた。しかし、中国政府はビットコインを始めとする仮想通貨の排除に乗り出した。盛り上がり、そして冷水を浴びせられたビットコイン産業。その採掘場で、1年間働いたあるエンジニアが内情を語ったと雲鋒金融が報じた。

 

仕事はきつくない採掘場の仕事

このエンジニアは、電子機器修理の専門学校を卒業後、電子機器の訪問サービスを行う企業に就職をしたが、2016年の年末、この企業が倒産をしてしまい、失業者になってしまった。

中国にも、失業保険のような制度はあるものの、実際には機能していない。彼はすぐに生活に困るようになってしまった。友人に相談をすると、紹介されたのが、ビットコイン採掘場での仕事だった。

彼は、当時、ビットコインのことを知らず、「採掘場」と聞いて断ってしまった。生まれ故郷にも炭鉱があり、子どもの頃そこで働く人を見ていたが、劣悪な環境の中できつい仕事を強いられ、とても人間ができる仕事には思えなかった。しかし、説明を聞いてみると、採掘場といっても、実際はサーバーセーターの保守点検の仕事なのだという。聞いてみると、待遇も悪くない。問題なのは、場所が内モンゴル自治区のオルドス市郊外という遠い場所だということだ。「周りに遊ぶところは何もないが、それさえ辛抱できれば、お金はたまるよ」と友人は言う。彼は、他に選択肢もなく、オルドス市のビットコイン採掘場で働くことにした。

 

採掘場はひどい騒音で、ノイズキャンセルイヤフォンが必須

オルドス市のビットコイン採掘場に到着した彼は、その大きさに後ずさりをしてしまったという。しかし、責任者の説明を聞いて安心をした。仕事の内容は、採掘場の中にある機器を、1日1回巡回して、1台ずつ採掘計算用マシンにノートPC接続をして検査する。問題があれば、手順に従って基盤を交換する。これだけでよかった。こんな簡単な仕事だったらじゅうぶんこなせそうだと感じた。

仕事は24時間、3交代で、毎月、どの時間帯を受け持つかが変わっていく。仕事は楽で、まったく快適だったが、ひとつだけ不満なのは、採掘場の中も、宿舎の中も、ファンの音でものすごい騒音なのだという。「最初の日の仕事が終わったその日に、タオバオでイヤフォンを注文をして、音楽を聞きながら仕事をするようにしました。それでもうるさいので、高かったですが、ノイズキャンセル機能付きのイヤフォンに買い直しました」。

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▲オルドス市にあったビットコイン採掘場。とにかく広く、採掘用の計算機が無数に並べられている。工場内は、廃熱ファンでひどい騒音だという。

 

未来はないゴールドラッシュ。ビットコイン

彼は、工場のあちこちに「ビットコイン」という文字が書いてあることに気がついた。同僚に聞いてみると、それは仮想通貨のことで、この工場は、ビットコインを作っているのだという。同僚も細かことには関心がないようで、彼は工場長に聞きにいった。すると、工場長はビットコインの原理から丁寧に教えてくれた。

彼は、すぐに19世紀に米国にカリフォルニアで起きたゴールドラッシュを思い起こした。この世界で儲けるためにいちばん必要なのは「運」であると感じたという。なぜなら、誰でもさほど難しくなく採掘場を運営することができるのだから、すぐにライバルが山ほど登場してくるだろうと考えた。

実際、すでに中国にはわかっているだけで180箇所の採掘場があり、さらにはアイスランドやロシアの人が住めず、寒冷な地域(廃熱問題がクリアできる)にも続々と採掘場が建設されている。

しかも、時間が経てば経つほど、採掘量は少なくなっていくのだ。ビットコインの発案者ナカモトサトシの構想では、ブロックを連結するナンス値を計算した物に、報酬としてビットコインが与えられるが、その報酬量は徐々に減って行き、2050年前後にはゼロになると見られている。

 

10年で劇的に進化した採掘テクノロジー

それでも採掘場建設が止まらない理由は、ビットコインの価格が高騰しているからだ。得られるビットコインの量は減っていっても、それを通過に交換すると、報酬はうなぎ登りに増え続けている。

また、採掘場で使われるテクノロジーもこの10年で急速に進歩をした。10年前は採掘に使うのはCPUが一般的だった。しかし、2010年にAMDGPUチップに高速計算機能を持たせると、採掘場はこぞってGPUを組み込んで使うようになった。さらに2011年にはFPGA(プログラム可能な集積回路)が使われるようになった。しかし、今の採掘場はすでに第4世代に入っており、ASICチップ(特定用途向け集積回路)が使われるようになっている。CPUの(採掘場が必要としている計算の)計算速度を1とすると、GPUは10。FPGAは8程度でしかないが、電力消費量がGPUの1/40になる。ASICの計算速度は2000。それでいて電力消費量はGPUとほぼ同じだ。

さらに、ASICチップを採用した採掘専用機も販売されるようになって、1万元(約17万円)程度で購入できる。このような専用機を数百台稼働させるだけで、ビットコイン採掘場が開設できるのだ。

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▲最新のASICチップを搭載したビットコイン採掘専用機。一般のCPUの2000倍の計算速度があるという。これが1万元程度で購入できる。

冬は内モンゴル、夏は四川省に移転する「渡り鳥工場」

彼がオルドス市のビットコイン採掘場で働き始めて半年が経ち、寒い内モンゴルにもようやく春の気配が漂ってきた。すると、工場長から「工場は移転をする」と告げられた。冬は廃熱問題を考えて寒い内モンゴル自治区、夏は水力発電による低コストの電力を求めて四川省で操業するのだという。四川省の高地であれば、気温は20度程度までしか上がらず、さらに、大量の河川水を使って冷却をすることができる。

この採掘場は、毎時間40兆ワットの電力を消費する。これは1万2000家庭分に相当する。四川省では、省政府が企業誘致のため電力の補助政策を行っているので、1億元(約17億円)以上が節約できるのだという(現在、四川省は、ビットコイン採掘場に対する電力優遇策を停止している)。

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▲移転した四川省の工場。河のそばにある自前の水力発電所を持っている。廃熱も河の水を利用して水冷方式で処理する。

 

政策の転換により、今度はウイグル

しかし、四川省に移転をしてみると、工場内の室温は35度にもなり、彼の仕事は忙しくなった。故障率が大幅に上昇し、修理作業が増加したのだ。それでも、工場長は、増加する修理費用よりも節約できる電力費の方が大きいという。

ところが、今年になって、採掘場は再び移転を考えなければならなくなった。昨年末、仮想通貨が普及することを恐れた中国政府は、ビットコイン採掘場に対して電力の供給を停止する措置をとったからだ。

工場長は、次は新疆ウイグル自治区へ行くという。ウイグルではまだビットコイン採掘場への電力供給が停止になっていないからだ。

しかし、中国の政策は明らかに「ビットコイン排除」だ。彼は、今後、ビットコイン採掘場は北欧とロシア、そして北朝鮮などで増えていくと考え、すでに次の転職先を模索しているという。

惜しむらくは、この世界に参入する時期が遅すぎた。5年早く参入しておけば、かなりの財産を築くことができたはずだという。実際、採掘場のオーナーたちは、早くから採掘場を経営し、かなりの財産を築いているという。彼は、参入する時期が遅すぎたと歯噛みをし、別の仕事への転職をするか、北朝鮮の採掘場へ行くか、悩んでいるという。

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Tmallが2時間配送を開始。商品は実店舗から配送

アリババが運営するECサイト「Tmall」がいよいよ一部地域で、2時間配送のサービスを始めた。ワトソンズの商品に限り、店舗を配送拠点とする仕組みだ。ECサイトの物流は集中型から分散型に変わっていく可能性があると新農村物流が報じた。

 

配送時間が短いECサイトが顧客をつかむ

ECサイトの配送時間は短ければ短いほどいい。「そんなに急いで配送してくれなくても結構」と言う人は多いが、現実には、配送時間が短いECサイトが顧客をより多くつかんでいる。問題は、商品の受け取りなのだ。

単身者の場合、配送時に在宅していなければならないということが問題になる。その時間、出かけることができない。不在時に配達が行われてしまい、再配達を依頼すると、また、新たな配送時間に外出することができなくなる。近所の定食屋に食事をしにいくこともできない、コンビニに買い物にいくことすらできなくなる。この自由度が奪われることが悪いユーザー体験になっている。

「2日後の午後4時から午後6時の間に配送」という時間指定では、2日後の予定が正確にはわからない。これが翌日配送で「明日の午後4時から午後6時の間」になれば、翌日はこの時間に合わせて近所での買い物などを済ませておけばいい。さらに、Amazon Nowのように「2時間後配達」であれば、予定を合わせやすい。外出する可能性があるなら、そのときは注文をせず、用事をすませて帰宅をしてから注文をすればいいからだ。

翌日配送よりも当日配送、当日配送よりも即時配送の方が好まれるのは、商品を早く手にしたいということよりも、商品の受け取りという面倒なステップを早く確実に終わらせることができるからなのだ。

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▲中国の宅配配送員。中国は北京のような大都市であっても、大型自動車が入っていけない路地が多く残されている。風致保存地区として、区画整理をせずに、観光資源として活かす例も増えている。このような都市形態では、集中型物流だけでは、配送の効率化に限界が生じる。

 

ワトソンズの店舗を配送拠点にする2時間配送

この傾向は、中国でも同じで、すでに大都市部では翌日配送がごく当たり前になっている。自宅だけでなく、職場に配送を頼む人も多く、早朝のオフィスビルの玄関には、宅配便業者が荷物を広げ、まるで青空市場のような光景ができる。小さな化粧品、本などは職場に翌日朝に受け取り、重くて大きな家電製品などは、翌日夜に自宅で受け取るという使い分けをしている。

このような状況を受け、アリババが運営するTmallでは2時間配送のサービスを始めた。といっても、すべての商品ではなく、香港を拠点とするドラッグストア「ワトソンズ」の商品のみ。化粧品、薬、菓子、飲料などの小さな商品が主体。サービス提供地域は、上海、広州、深圳、杭州、東莞の都市にある約200のワトソンズ実店舗から3km以内の地域。つまり、Tmallに注文が入ると、近所のワトソンズ実店舗から配送をすることで2時間配送を可能にしている。

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▲2時間配送を始めたドラッグストア「ワトソンズ」。現在は、香港を拠点として、アジア各国に出店している。やや高級感のあるドラッグストアで女性に人気がある。

 

集中型物流から分散型物流へ

アリババでは、この2時間配送をワトソンズ商品について他地域にも拡大していく他、他のブランドにも拡大していく予定だという。これは、物流の仕組みが変わっていくことを示している。

従来の物流は、大規模な物流拠点を設け、そこに商品を集積し、全国各地に配送していくというもの。現在、Tmallの最も速い配送は「午前11時までに注文をすれば、当日午後6時に配送」というものだ。しかし、集中型物流では、ここまでが限界。これ以上の時間短縮を図ろうとすると、大量に実店舗を持っているチェーンと協力をして、そこから配送をしてもらう「分散型配送」を取り入れていくしかない。

アリババのライバルであるECサイト「京東」も、当日配送を拡大しているが、それに合わせて、中型の物流拠点を各地に置くという分散型物流を一部取り入れている。

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▲Tmallの配送拠点。どのECサイトも郊外に大規模な物流拠点を作り、そこに商品を集積することで、配送の効率化を図っている。しかし、この方式では、顧客のニーズに応えることに限界が出てきている。

 

チェーン店舗の出店計画も変わってくる可能性がある

この2時間配送は、ワトソンズの商品が小さなものが多いということもあり、午後2時から6時ぐらいまでの間に、職場に配送をする例が多いという。職場の昼休みにスマートフォンから注文をして、職場で受け取り、帰宅するという使い方が多いのだと思われる。

実店舗を在庫倉庫としても利用するこの方式により、チェーン店舗の出店計画も変わってくる可能性がある。住宅地のターミナル駅付近よりも、オフィスが集中する都心への出店が増えるかもしれない。

今後、どのようなチェーンが「2時間配送」に対応するのかが注目される。

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この分野でも中国が日本を猛追ーー極薄コンドーム「中川001」

中国は、あらゆる領域で、日本の製造技術をキャッチアップしてきているが、いよいよ、この分野でも肩を並べられた。ポリウレタン素材を使った極薄コンドームだ。中国で初となるポリウレタン製極薄コンドーム「中川001」が発売されたと都市快報が報じた。

 

日本メーカーにしか作れなかった「極薄」

日本が世界に誇れるもの。製造技術、アニメ、ゲーム。もうひとつ、密かに世界中から愛されているのが避妊具の技術だ。特にポリウレタン素材を可能にした技術は画期的であり、それまでのラテックスゴムにあったようなゴム臭、アレルギー反応によるかぶれなどがなくなり、同時に熱伝導率が高く、薄くても丈夫に作れるので、使用中の違和感がなくなるなど、日本メーカーがこの世界に福音をもたらした。

しかし、この世界でも、中国が激しい追い上げを見せ、日本を抜きかねないところまできている。それが、蘭州科天健康科技が開発した中国製コンドーム「中川001」だ。

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▲蘭州科天健康科技が発売している「中川001」。今度、002、003などのやや厚みのあるシリーズも販売をしていく。

 

NBAでの広告展開により知名度を上げる

ポリウレタン製コンドームの製造技術を持っているのは、日本のオカモト、サガミだけで、0.02mm、0.01mmという超極薄製品で、日本市場の6割を占めていた。特にオカモトの001は、中国人の間でも人気商品となり、訪日旅行の時の隠れ爆買い商品となっていた。

しかし、昨年5月に販売が始まった「中川001」もポリウレタン製の0.01mm極薄製品。耐久性などの評価はまだできる段階ではないが、中国の製造技術が日本に追いついたことは間違いない。

中国市場では、年間110億個が消費され、毎年15%以上で成長をしている。しかし、そのほとんどはラテックスゴム製のものであり、極薄のポリウレタン製品は1%以下でしかなかった。製品の性質上、大型のプロモーションがしづらいため、製品そのものがあまり知られず、製品を知られたとしても、あまりの極薄ぶりに不安感を感じる人が多かった。

中川001は、中国でも人気のあるバスケットボールリーグNBAヒューストン・ロケッツと契約を結び、試合中に広告を掲示した。この広告により、一気に知名度が上がり、中国30省の5000店舗および自動販売機での販売を始めた。さらに、日本、韓国、インドネシア、タイなどの進出も進めている。

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▲中川001は、米国のプロバスケットリーグNBAで、広告展開をしている。これにより中国国内での知名度が一気に高くなった。また、アジア圏での知名度も上がりつつある。

 

中国最大のコンドーム工場が稼働する

蘭州科天健康科技の「中川001」生産工場は、10ラインの建設が予定されていて、すでに4ラインが稼働をしている。今年6月には10ラインすべてが稼働をし、年間生産量は10億個になり、中国で最大のコンドーム生産工場になる。蘭州科天健康科技は、5年以内に生産数を100億個の大台に乗せることを表明している。

ちなみに、中国で「中川」という商品名は珍しい響きだが、蘭州科天健康科技によると、蘭州市の中川という小さな村に開発研究所があったためだとしている。

日本製の製品と比べて、品質がどうであるかはまだ不明な点が多いが、一気に拡大するスピード感は驚異的だ。しかも、すでに海外販売に着手をしている。日本でも「中川001」の名前を見かけることが増えていくかもしれない。

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▲蘭州科天健康科技の生産工場。現在4ラインが稼働しているが、最終的に10ラインが稼働し、生産数は年間100億個になる予定だ。

 

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▲蘭州科天健康科技の工場内での検品、パッキング作業。極薄製品は、不良品を出すと致命的な損失を被ることになるので、検品作業が重要になる。

サガミオリジナル002 12個入り

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広州市に無人書店。始まるロングテール商品小売の無人化

広州市のオフィス街に無人の書店「風向未来」がオープンした。スマホ認証で入店、セルフレジによりスマホ決済で購入という仕組みだ。店舗での体験が重要視される書籍のようなロングテール商品は、今後も無人店舗化が進んでいくのではないかと南方plusが報じた。

 

無人コンビニの技術を使った無人書店

無人書店がオープンしたのは、広州市の天河区の中信ビルの5階。高級ショップが立ち並ぶ一角だ。この無人書店「風向未来」は、無人コンビニ「EASY GO未来便利店」の技術が使われている。

スマートフォンのWeChatペイのQRコードで認証をしてドアを開け店内に。書籍にはすべてRFID電子タグがつけられていて、セルレジで精算をすると、出口のドアが開くという仕組みだ。

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広州市のショッピングビル内にオープンした無人書店「風向未来」。内容の濃い人文、経済の専門書が中心に置かれている。

 

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無人コンビニ「EASY GO未来便利店」の店内。この技術が、無人書店にも使われた。

 

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▲EASY GOでは、大きめの電子タグを利用している。無人書店では、ほぼ同じ電子タグが書籍につけられている。

 

店内の静かな環境を重視する無人書店

中信ビルはショッピングモールとオフィスエリアがある高級な雰囲気のある場所。客層を考えて、書籍の品揃えも人文と経済が中心になっている。買い物のついでによる人、オフィスに勤めている人などが主なお客だ。

客数は決して多くないが、それがかえって静かな環境を生み出し、落ち着いてじっくりと本を選ぶことができると好評だ。中国の都市は、書店の数が少ないかわりに多くが大規模書店であるため、書店はいつも混雑をしている。学生などは、床に座り込んで「立ち読み」をしているのが普通で、書店側も目をつぶっているようなところがある。そのため、書店は常にざわついている雰囲気なのだ。

中国の書店は、本を売る商店である前に図書館の役割を果たしている。来店客は、目的の商品を見つけて買って帰るというのではなく、目的の本を決めずに書店を訪れ、自分の趣味と合う本との出会いを期待している。そのためには、じっくりと立ち読みをする環境が必要なのだ。気に入った本を見つけた場合、立ち読みで最後で読み切るのは難しいので、その本を買って帰る。

日本の書籍は、次第に内容がライトになり、薄い新書やコミックであれば、30分程度で立ち読みできてしまうので、あまりに立ち読み環境をよくしてしまうと、タダで読まれてしまい売上が立たないというジレンマがあるが、中国の場合、内容の濃い書籍がまだまだ中心であり、立ち読み環境を快適にすることは売上増につながるのだ。

EASY GOの創業者である王牧牧は、南方Plusの取材に応えた。「書店を無人化することは人件費の削減というメリットもありますが、顧客のIDを認識するということも重要です。顧客の読書傾向を分析して、おすすめの本を紹介することができるようになるのです」。

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▲専門書中心に無人書店であるため、店内は静か。来店客は、じっくりと本を選ぶことができる。状況を見て、ソファを置くことも考えられている。ただ「本を売る」のではなく、「体験を提供して、結果として購入しもらう」のが狙いだ。

 

顧客IDを取得することで精密なリコメンドが可能に

無人書店「風向未来」は、無人化して人件費を抑えるだけでなく、快適な立ち読み環境を提供し、リコメンドを行うことで、顧客の読書体験を豊かなものにしようとしている。

この発想は、他の嗜好品小売業にも応用することができる。例えば、音楽CDや映画DVDの販売店。例えば、Tシャツ専門店。このような業種では、無人化をすることにより、ユーザー体験をかえって向上させられる可能性がある。風向未来が成功するかどうか、小売業の各方面から注目を浴びている。

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▲入店するときは、スマホ認証を行い、自動ドアを開ける。個人IDがわかるため、個人に合わせたリコメンド、マーケティングが可能になる。

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日系コンビニで変わっていく中国人の食習慣

南京市近郊に大型物流基地がオープンしたため、南京市がにわかにコンビニ出店の激戦区になっている。台風の目となっているのは、ローソンやセブンイレブンの日系コンビニだ。日系コンビニは、イートインコーナーを設け、中国人の食習慣をも変えていっていると龍虎網が報じた。

 

温かいものを大人数で食べる中国人

多くの中国人は食に貪欲で、かつ保守的だ。まず、冷えたものは基本的に口にしない。中国人にとって、冷えた料理は残り物であり、冷えた料理を出されるとバカにされたとすら感じる。サンドイッチやおにぎりがコンビニを通じて食べられ始めているが、これはあくまでも間食。こういったもので夕飯を済ますというのは、とてもみじめなことに感じる。

また、一人でレストランや食堂に行くということも基本的にない。ファストフードであっても、一人で食事をしている人は少ない。一人で食べるのはとても寂しいことで、家族や友人と楽しく食卓を囲むのが理想だ。忙しくて時間がないときは、会社のデスクでカップ麺を食べてしまうか、自宅で簡単な料理を作って食べてしまう。

 

個食習慣を広めている日系コンビニ

しかし、日系コンビニが進出をしてから、この食習慣が変わってきている。特に大きかったのがおでん(関東煮)だ。当初は、すべてのおでんダネが1つずつ串にさされ、買って、そのまま街を歩きながら食べるスナックとして受け入れられた。

次に、日系コンビニが持ち込んだのがイートインコーナーだ。コンビニの中にカウンター席などを用意し、購入した食品をその場で食べることができる。このイートインコーナーができたことで、複数のおでんダネを買って、食事をする人が現れ始めた。しかも、一人でコンビニに行き、食事をすませてしまう習慣が、若者を中心に広まっていっている。

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▲南京市に進出を始めたローソン。イートインコーナーで、中国人の食習慣を変えつつある。個食をする中国人が増え始めている。

 

コンビニ空白地帯だった南京市

中国チェーンストア協会によると、中国の都市部のコンビニ店舗数は人口3000人に1店が平均だという。江蘇省省都であり、人口800万人の南京市の場合、3000店舗のコンビニがあってもおかしくないが、現在はまだ1000店舗程度でしかない。南京市周辺には大規模な物流拠点がなく、配送が難しいことから、大手、特に日系コンビニが進出をしてなかったからだ。しかし、今年3月に、南京市と蘇州市の中間にある江陰市に大規模物流拠点がオープンすることから、ローソン、セブンイレブンなどが相次いで進出を表明して、南京市はにわかにコンビニ激戦区になってきた。

南京市を制したコンビニチェーンが、今後内陸部の2級都市、3級都市でも有利になることから、それぞれのチェーンがそれぞれの戦略で激しい競争が始まろうとしている。

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▲永輝生活のスーパー。輸入食品を大量に並べている。このスーパーの在庫を、同系列のコンビニ店舗に融通している。高級コンビニとして人気だったが、今後は戦略転換を迫られるかもしれない。

 

国内系コンビニもイートインコーナーで対抗

南京市は今まで蘇果チェーン(好的)が最も多く、これを永輝生活、蘇寧小店が追いかけていた。いずれも国内資本のコンビニチェーンだ。しかし、昨年8月末に、日系のローソンが南京市に進出をしてから、大人気となり、ほぼ毎日、1日の売り上げ記録を更新し続けている。さらに、今年前半にはセブンイレブンも進出することを表明していて、南京市のコンビニ地図が大きく塗り変わる可能性が出てきている。

蘇果が運営するコンビニ「好的」は、最もコンビニらしいコンビニだ。飲料、食料品を中心に日用品が販売されている。特徴としては、輸入食料、高級食材なども陳列されていることだ。南京市はカルフールなどの外資系スーパーも少なく、ミニスーパーとして好的が利用されている。

しかし、日系コンビニの進出が明らかになると、好的も対抗策としてイートインコーナーを設置し始めた。龍虎網は好的のイートインコーナーで、おでんと熱い飲み物を飲んでいた若者に取材をした。「レストランやカフェのような感じなので、よく夕食をここで食べます。席がもう少し多いといいんですけどね」。

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▲国内系コンビニの好的。ごく一般的なコンビニだが、永輝生活に対抗するため輸入菓子なども並べている。ローソンに対抗して、イートインコーナーも併設するようになった。

 

台風の目となっているローソンのイートインコーナー

南京市民にとって、ローソン丹鳳街店は画期的なコンビニだった。10席のイートインコーナーが用意されているだけでなく、南京市民が今まで食べたことのないスナックが売られている。特に、カスタードクリームまん、紅糖饅(甘みの強いパン菓子)、肉串などが人気で、サンドイッチ、サラダ、プリンなども並べられている。また、弁当類も豊富で、日本と同じように電子レンジで温めてくれる。このような食品を買って、イートインコーナーで食事をする人が増えている。龍虎網は食事をしていた中年女性に取材をした。「ローソンの食品は私の口に合うのです。昼は食堂にいかず、ここで食事をしてしまうことが多いですね」。

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▲朝食は通勤途中で、このような露店で食べるのが一般的。短時間で個食することが多いので、コンビニのイートインコーナーに適している。コンビニは、この朝食市場を取り込もうとしている。

 

朝食市場を奪い合うコンビニチェーン

現在、国内系の蘇果は、南京市に500店舗、蘇果の別ブランドである好的は300店舗を営業している。ローソンは現在南京市に10店舗のみだが、今年120店舗の回転計画を進めており、同時にフランチャイズの募集も始める。3年以内に300店舗に増やす予定だ。

蘇果、ローソンともにさらに売り上げを伸ばすために注目をしているのが朝食だ。中国人は朝食を家でとらず、通勤途中の食堂で、豆漿と油条(揚げパン)のようなものや麺を食べていくのが一般的だ。コンビニは、この朝食市場を取り込もうとしている。朝食は短時間で食べて会社にいく人が多いので、回転率がいい。ローソンの中国責任者の張晟董事は、生鮮食料品とイートインを売り上げの40%にすることが目標だと述べている。

中国人の間で、「食事はコンビニで」という新しい習慣が定着しつつある。

象印 コーヒーメーカー 珈琲通 4杯用 EC-TC40-TA

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中国スタートアップが死亡する6つの死因(下)

テンセント研究員が「2017年中国創新創業報告」を公開した。この報告書では、昨年倒産、破産など「死亡」した150のスタートアップを調査している。猟雲網では、この死亡要因を6つに分類して分析をした。今回は、後半の3つの死因をご紹介する。

 

死因4:施策のミス、政策の読み違い。小藍単車、友友用車

シェアリング自転車は、じゅうぶんに成功したサービスだ。ofoとMobikeは中国各都市の市民の足として定着をしている。しかし、その裏には、無数の失敗スタートアップが存在している。

小藍単車も半年で全国に60万台の自転車を投入するという急成長をしていたが、数々の判断ミスを重ねてしまった。シェアリング自転車は、当初「どこで乗っても、どこで乗り捨ててもOK」というコンセプトでスタートした。そのため、すぐに街中は放置自転車で溢れることになった。各市政府はすぐに規制をかけ、シェアリング自転車専用の駐輪場を定めるようになった。ofoやMobikeなどは、スタッフを派遣して、駐輪場以外にある自転車を回収し、駐輪場に移動させるということを行なったが、小藍単車はこの対応が遅れた。市民からは、迷惑なシェアリング自転車だというイメージを持たれてしまった。

さらに、6月には極めてまずいキャンペーンを行ってしまった。シェアリング自転車の一部に小さな戦車のステッカーを貼り、その自転車は無料で利用ができる。また、戦車のステッカー付きの自転車を複数台発見する景品がもらえるというキャンペーンを行った。しかし、6月4日は、1989年に天安門事件が起きた日だ。民主化を求めて北京の天安門広場に集まっていた学生たちを、人民解放軍が戦車で轢き殺しことで排除をしたという事件だ。大量の学生が虐殺され、中国政府は国際的にも非難された。

日本では、「中国人はこの天安門事件については、報道が制限されているため、詳しいことを知らない」と思っている人が多いが、そんなことはない。大学に進学する程度の教養がある人であれば、自国の歴史であり、日本人よりもはるかに詳しく知っている。ネットでも、直接は検索はできないが、「5月35日天安門事件」などという隠語を使って検索をすることで、詳しい情報や映像を見つけることができる。小藍単車のキャンペーンは、「6月4日に戦車」ということで、天安門事件になにか関連があるのではないかと炎上をすることになった。

このようなことから、小藍単車から投資家が離れてしまった。投資資金を引き揚げたいと申し出る投資家が現れ、新たに投資をしてくれる投資家は見つからない。こうして、小藍単車は倒産してしまった。

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▲小藍単車は、無自覚に天安門事件を連想させるキャンペーンを行ってしまい、炎上をすることになった。

 

友友用車は、利用者が自分の自動車を会員内で互いにレンタルし合えるというサービス。友友用車自身も自動車を保有し、レンタルに提供をしていた。しかし、北京市が、自家用車が急増していることを問題視し、ナンバーの発行を制限する政策を実行し始めた。北京市は、ガソリン車よりも電気自動車や天然ガス車というエコカーに優先的にナンバーを発行するようにした。そのため、友友用車もエコカーを購入する方針に切り替えたが、車体価格はガソリン車の数倍する。これがコストを一気に押し上げ、当初想定した料金体系では黒字化できなくなってしまった。政策の読み違いをしてしまったことが、失敗の原因となった。

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▲友友用車は、北京市エコカーを優先する政策を実行した途端、車両費があがり計算が狂い、黒字化が見えなくなってしまった。

 

5:巨大資本との競争に負ける。町町単車、訂房宝

町町単車は、低コストで自転車を製造し、南京市で地道にサービス地域を増やしていく堅実な戦略を採用していた。しかし、参入した時期が遅かった。南京市で、町町单车がようやく認知され始めた頃、大手のofoやMobikeが南京市にも参入してきたのだ。すでに大量の資金を持っていたofoやMobikeは、わずか1ヶ月で数十万台を投入するという短期決戦を挑んできた。まだ、小さなスタートアップだった町町单车は、対抗することができず、営業を停止せざるを得なかった。

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▲南京市で、スモールスタートをした町町単車は、大手シェアリング自転車が参入してくれると、ひとたまりもなく消し飛んでしまった。

 

訂房宝の場合は、訂房宝のサービスが話題になると、他のホテル予約サービスも対抗して「当日、格安で予約できる」機能をすぐに導入。訂房宝は、当日予約のみに特化しているが、他の予約サービスは数ヶ月前からの予約もでき、新幹線や飛行機のチケットを同時に購入できるなど、総合的なサービスを提供している。単機能である訂房宝は、利用する人がいなくなってしまった。

 

6:親会社の戦略転換:百度外売

百度外売は、食事宅配サービス。一般のチェーンレストランやファストフードに対応していて、利用者が注文をすると、配達員がその店に行って商品を購入し、自宅などの指定場所に宅配してくれる。このサービスが受け、百度外売は100都市でサービスを提供、3000万人が利用する人気サービスとなった。

百度外売はスタートアップだったが、最初からIT企業百度の支援を仰いでいたことが功を奏した。百度のブランドを使うことができ、百度から豊富な資金援助を得ることができ、優秀な人材も出向してきた。

しかし、百度が昨年、大きな方針転換をおこなった。人工知能関連ビジネスに資本を集中させるため、人工知能と無関係なビジネスは売却、独立などの方法で切り離すことにした。ここから百度外売の内部がおかしくなった。百度からの出向組は、目の前の仕事よりも、どうやって百度に戻るかが最大の関心事となった。資金の援助も途絶えた。百度外売のサービスレベルはあっという間に低下をし、独立をすることも難しい状態となった。百度は、ライバル企業である餓了公に売却をすることを決定。百度外売としてのサービスは続いているが、徐々に餓了公に吸収され、数年後には消えてしまうことになった。

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百度外売は、サービスとしては成功したが、親会社である百度の方針転換により、売却されることになってしまった。

 

どの国でも同じだが、スタートアップの90%以上は、失敗をして消えてしまう。失敗にはそれぞれに原因があり、その原因をいち早く察知して、修正をしていけるスタートアップだけが生き残ることができる。猟雲網が挙げた6つの死因は、中国特有のものもあるが、他の国のスタートアップにも通じるものもあるはずだ。今年も、中国ではIoT分野、人工知能分野で無数のスタートアップが登場して、消えていくことになる。

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中国スタートアップが死亡する6つの死因(上)

テンセント研究院が「2017年中国創新創業報告」を公開した。この報告書では、昨年倒産、破産など「死亡」した150のスタートアップを調査している。猟雲網では、この死亡要因を6つに分類して分析をした。今回は、その6つの死因のうち、3つをご紹介する。

 

死因1:プロモーションにお金を使いすぎ。星空琴行、小馬過河

星空琴行は、レッスンの権利をつけてピアノを販売するスタートアップ。2億元(約34億円)の投資を受けて、華々しく宣伝をし、売上も右肩上がりだったがが、2017年9月、突如、営業を停止した。

最初に巨額の投資資金を得ることに成功したため、宣伝にお金を使うの当たり前の高コスト体質になってしまっていたことが原因だ。そのため、売上が上がっても、なかなか黒字転換しなかった。その分は、追加投資を得ることで補填してきたが、2017年になって大型の投資案件が途中でキャンセルされる事態に。一気に資金がショートして営業が続けられなくなった。

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▲いきなり70店舗を開店した星空琴行は、コストがかかりすぎ、資金が持たなくなくなった。

 

同じく教育産業のスタートアップである小馬過河は、留学希望者の試験対策予備校として、1500万ドル(約16億6000万円)の投資を受けて起業。しかし、成長を焦るあまり、広告費にお金を使いすぎた。2014年には、営業収入が4000万元(約7億円)であるのに、広告費に4000万元も使っていた。

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▲小馬過河は突然倒産したため、従業員の給与も未払いだった。そのため、各地で元従業員によるデモが行われた。

 

教育産業は、大型の全国プロモーションを行い信用を確立し、こまめな地域プロモーションを行って顧客の掘り起こしをするという、広告費が高くつくビジネスだが、この問題を解決することなく、教育スタートアップを始め、ひたすら売上を伸ばすことに集中してしまったことが原因だ。

 

死因2:速すぎる拡大。星空琴行、哆啦衣梦、EZZY、酷騎単車

星空琴行は、数年の間に、全国に70店舗以上の拠点(ピアノ販売店兼レッスン場)を開店し、教師は1000人近くになった。すべて直営で、ピアノのニーズは大都市ほど高いので、店舗の家賃、人件費も高コストだ。これが高コスト体質となり、売上の低下、投資資金の途絶などのアクシンデントに弱い体質になっていた。

女性用ドレスをシェアリングする哆啦衣梦も、全国の都市に大量に店舗を開設し、しかも使用した服をクリーニングする仕組みも自前で構築した。巨額の固定費がかかるようになり、新たな投資資金を得ることができず、昨年の9月に営業を停止した。

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▲シェアリングドレスの哆啦衣梦は、高コスト体質だったため、黒字化することができず、営業を続けられなくなった。

 

BMWアウディなどの高級車をシェアリングできるEZZYも同様に、顧客を獲得しようと、大量の高級車を投入したため、資金が続かず、昨年10月に自己破産を宣言した。

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▲高級車をシェアリングできるEZZYも、コストがかかるため、黒字化が見えないまま資金がショートした。

 

酷奇単車はシェアリング自転車のスタートアップだが、いきなり50都市に大量の自転車を投入したが、顧客の利便性などを考慮する余裕がなく、利用者からは「使いたいのに、近所に自転車がない」という不満があがっていた。入会時に数百元のデポジットを取る仕組みで、サービス開始直後は、このデポジット資金が豊富だったため、拡大路線をとったが、顧客の不満が増えるとともに退会者の割合が増えていった。退会時にはデポジット資金を返却しなければならない。この返却が重なり、あっという間に資金不足に陥った。

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▲酷騎単車は、いきなり50都市でサービスをスタートしたため、利用者の利便性がないがしろになってしまった。

 

いずれも拡大の速度を、投資資金に合わせて考えてしまったことが死因だ。「お金があるから一気に拡大しよう」「将来、また投資をしてもらえるように拡大をしよう」と考えるのではなく、まず黒字化を目指して、その黒字状態のビジネスを投資資金を使って拡大していくという考え方をしなければならない。

 

死因3:消費者ニーズの読み違え。車来車往、楽電、訂房宝

楽電は、シェアリングモバイルバッテリーのスタートアップ。昨年8月に5億元の投資資金を得て、レストランやカフェなどにシェアリングモバイルバッテリーを設置した。利用者は、充電済みのモバイルバッテリーを借りることができ、一週間以内にどこの拠点でもいいので返却するというもの。しかし10月には営業を停止することになった。理由は、単純に使う人がほとんどいないというもの。

確かに、スマートフォンのバッテリーが切れて困ることは多いが、そのとき必要なのはモバイルバッテリーではない。その日の分だけ、ちょっと充電できればいい。コンビニなどで小容量の使い捨てバッテリーが販売されていて、カフェなどではコンセントも用意されているので、わざわざちょっとの充電のために、大容量のモバイルバッテリーを借りようと考える人はいない。また、返却をしなければならないというのも煩わしさを感じる。

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▲楽電が提供したシェアリングモバイルバッテリー。カフェなどに置かれ、スマホ認証することで、モバイルバッテリーを借りることができる。しかし、利用者を獲得できなかった。

 

ウェブから中古車を購入できる車来車往も利用者が増えなかった。中国の自動車の品質は急速にあがっていて、もはや日本企業が作る自動車と比較ができるところまできているが、中古車の品質は日本のようにはいかない。事故車であったり、整備がいい加減だったり、玉石混交なのが中国の中古車だ。しかも、担保価値が低いので自動車ローンが組めないことが多い。多くの消費者がリスクを冒して20万円の中古車を側近で購入するよりも、200万円の新車を5年ローンで毎月4万円ずつ支払うことで購入することを好む。そもそも中古車を買おうとする人が少なく、中古車のよさを伝えることができなかったというのが敗因だ。

訂房宝は、日本の元AV女優、蒼井そらが首席ユーザー体験官を勤めていたことで話題にもなったスタートアップ。一流ホテルなどの空室を当日に格安で予約、利用ができるというサービス。これも利用者が増えなかった。訂房宝では当日にならないと予約ができない。一流ホテルを利用してみたいと考える人は、数ヶ月前に格安で予約できるサービスを利用する。一方で、突然宿泊する必要がでた場合は、ホテルの格や料金よりも、ホテルの場所を優先して選ぶ。訂房宝は話題にはなったが、利用者が増えなかった。

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蒼井そらが入社したことで話題になった訂房宝。単なる広告等ではなく、しっかりと仕事をしていたようだ。しかし、利用者を獲得できなかった。

 

…明日に続く。