中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のビットコイン採掘場に電力供給停止措置

中国は、全世界の70%のビットコインを算出する「ビットコインの本場」だ。特に四川省では豊富な電力を活かして、ビットコインの採掘場が無数にある。しかし、中国政府は四川省の電力供給会社「四川電力」に対して、ビットコイン採掘場に電力を供給しないように緊急の通達を出したと今日頭条が報じた。

 

採掘により増えていくビットコイン

オープンソース通貨であるビットコインは、日々新しい通貨が「採掘」されて増えている。ビットコインの技術的な背景になっているブロックチェーン技術は、簡単に言えば、改竄ができない分散台帳だ。ブロックチェーンは、取引記録をブロック単位にまとめ、チェーン状に連結をしていく。この連結をするときに、数学的な工夫がある。

2つのブロックをつなぐ接続部分は、レゴのように凸部分と凹部分がうまくはまるようになっている。凸部分を作るのは簡単で、簡単なアルゴリズムで計算できるハッシュ関数を使う。しかし、そこに連結する次のブロックの凹部分を計算するのは極めて難しい。前のブロックの凸部分にうまくハマるようにしなければならないからだ。

基本的には総当たりで調べて行くしかなく、膨大な計算が必要になる。この計算は、ボランティアの手によって行われる。しかし、無償でこんなたいへんな計算をしようという人はいないので、利用できる凹部分を計算した人に対しては、ご褒美として一定額のビットコインが与えられる。つまり、凹部分の計算をビットコインを報酬してビジネスで行うことができる。これが「採掘」と呼ばれる。

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▲稼働しているビットコイン採掘場。大量の熱が発生し、これを効率よく排出する方法がポイントになる。多くの場合は、大量のファンとエアコンに頼ることにになり、これに電力が必要になる。

世界の70%のビットコインを産出する中国

この採掘工場は、世界の中でも中国、それも四川省貴州省といった内陸部の農村地帯に集中をしている。特に四川省には、ビットコイン採掘場に有利な条件がそろっている。

高地で気候が寒冷であるため、大量のコンピューターからの排熱の問題がクリアできる。人口密度が低く、人家のない土地がふんだんにあり、騒音の問題も考える必要がない(コンピューターは無音だが、排熱用のファンの音が相当にうるさくなる)。地方大学の工学部卒業生が、仕事を得られずにいるので、優秀な人材が低賃金で確保できる。

四川省の康定にある採掘場は、深圳市のあるIT企業が運営するもので、24時間稼働をしている。4つの建物があり、各建物の中には約7000台のコンピューターが動いているという。規模はさほど大きくはないものの、それでも運営者によると、世界の5%のビットコインをここで産出しているのだという。

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貴州省に建設中のビットコイン採掘場。倒産した工場を買い取って、そこにラックをおき、CPUを並べて、採掘計算をさせる。電力は必要になるが、小さな設備投資で始められる効率のいいビジネスになっている。

 

余剰電力を格安で採掘場に供給してきた四川電力

もうひとつ、四川省ビットコイン採掘の本場になった大きな理由が、電力だ。四川省は、高山が多く雨も豊富なため水力発電が以前から大量に建設されていた。しかし、それを利用するだけの工業がなかなか興らず、時代はIT時代になってしまった。大量の電力は必要なくなってしまったのだ。

そこで、四川電力が目をつけたのがビットコイン採掘場だった。採掘場では大量のコンピューターを使って計算を行い、大量の電力を消費する。水力発電を主にしている四川電力では、発電量の制御が難しく、余剰電力が生まれている。四川電力は、ビットコイン採掘場に対して、1kWhあたり0.3元(約0.5円)という低価格で電力を供給している。日本の家庭用電力が、1kWhあたり20円程度なので、四川省は、世界でいちばん低コストの電力が得られる場所といってもいいかもしれない。

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▲川の左岸に並ぶ建物がビットコイン採掘場。川沿いにあり、独自の水力発電所を持っていて、電力を自前で供給している。

 

ビットコインを打ち出している中国政府

しかし、中国政府は、ビットコインに最大限の警戒をしている。中国の政治家が汚職をして私腹を肥やし、資産を海外に移転し、逮捕直前に海外逃亡をするという事件が相次いでいた。世界中に華僑が住み、チャイナタウンがある中国人は、海外でもお金さえあれば生きていける。

また、国内で成功した事業家の資産も海外移転させたくない。できるだけ国内で消費をし、国内経済を回してほしい。そのため、資産の海外移転を厳しく制限している。

ところが、ビットコインを利用すれば、資産を簡単に海外移転させてしまうことができる。

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▲四川電力が各水力発電所に通知した内容。通知書には「ビットコインの生産は違法経営であり、このような組織に電力供給をすることも違法となる。電力供給を継続した場合は、ネットワークから切断し、処罰をする」と記載されている。現状で、採掘ははっきりと違法と定められていないが、事実上違法行為とみなされているようだ。

 

消費行動をすべて把握しようとしている中国政府

もうひとつは、中国政府は通貨の取引記録のすべてを把握しようとしていることだ。取引のすべてを把握できるようになれば、脱税、汚職などが取り締まれるようになるだけでなく、消費行動から犯罪者、テロリストの追跡、特定ができるようになる。中国政府は、匿名性の高い決済手段である現金決済割合を減らしていく政策をとっている。当然、匿名性が高く国際決済ができてしまうビットコインは、あってはならないものなのだ。

すでに、中国ではビットコインの取引所が違法化され、個人間でのビットコイン取引も「法的根拠がない取引だ」として、将来取り締まりの対象になると予想されている。

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上に政策あれば、下に対策あり

現在のところ、ビットコインの採掘ビジネスを違法化することはできないものの、電力供給を断つことで、兵糧攻めにして、ビットコイン撲滅に動き出しているのだと思われる。

しかし、採掘場もしたたかだ。中には電力供給を絶たれて閉鎖してしまった採掘場もあるが、川沿いに自力で水力発電所を建設して、電力を自前で供給するところも出て来ている。また、排熱を熱交換器などを導入することで効率化し、エアコンやファンの使用を抑え、小さな電力で採掘場を運営できるようにしているところも現れている。

しかし、正確な統計はないものの、全世界のビットコインの70%は中国で採掘されていると言われ、この採掘量が大きく下がるのは間違いない。このところの、ビットコイン価格の乱高下は、このような事情も絡んでいるものと見られている。

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四川省にある採掘場の一棟。屋根が空いているのは排熱のため。見た目は、なんの工場だかわからない。