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発売後27分で完売をした小米初のEV「SU7」。創業者、雷軍のしたたかなプレゼン術

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今回は、小米(シャオミ)の雷軍CEOのプレゼン術についてご紹介します。

 

3月30日から予約受付が開始された小米のEV「SU7」の売れ行きが絶好調です。予約開始後わずか27分で予定台数の5万台が完売となりました。まるでスマートフォンのような売れ方です。

ただし、ネガティブな報道もあります。小米は予約方法を従来手法とは変えました。一般的なネット予約では予約をすると、原則キャンセルすることはできません。キャンセルをした場合は、予約手付金が戻ってこないのが一般的です。しかし、小米では7日間はキャンセルを受け付け、手付金の返金もするというスタイルにしました。このことから、とりあえず予約をして後で考えるという人、または予約の権利を転売することを考えている人も参加をして、予約が殺到したという見方もあります。

すでに一部で納車が始まっていて、SNSにはSU7のオーナーからさまざまな投稿がされるようになりました。中には、ハンドルについているロゴが剥がれ落ちてきたと訴えている人もいました。しかし、今のところ、大きな問題は報告されていないようです。自動車メディアも最も一般的な評価は「初めての車にしては驚くべき完成度」というもので、細かい問題はいろいろあるものの、まずは合格点+αは与えられるというところではないでしょうか。

 

なぜ、小米という非自動車メーカーがつくった自動車がここまで話題となったのでしょうか。それにはさまざまな理由がありますが、大きく貢献をしたのが、雷軍CEOのプレゼン術です。

雷軍氏と言えば、2011年の小米1の発売の時は、「中国のスティーブ・ジョブズのそっくりさん」として話題になりました。当時の日本では「中国は日本の技術をパクったニセモノしかつくれない」という感覚でしたから、雷軍氏もスティーブ・ジョブズのパチもんと見られたのです。

雷軍氏が、ジョブズ氏のプレゼン術を徹底研究したのは確かです。しかし、当時は、雷軍氏だけでなく、世界中の人がジョブズ氏のプレゼンスタイルを研究しました。ジョブズ氏が世界を変えたことはいくつもありますが、プレゼンのスタイルを変えたこともそのひとつです。ジョブズ氏以前は、ステージの端に演台があり、そこに原稿を置いて、それを読み上げるというのが一般的なプレゼンスタイルでした。しかし、ジョブズ氏は、ステージの中央に立って、原稿ではなく、自分の言葉で語りかけていきます。もちろん、原稿は用意されているのですが、それを読んでいるのではなく、語っていくように進めていきます。そのスタイルには誰もが雷に打たれたかのように模倣し始めました。現在では、このスタイルが標準になっています。

 

雷軍氏はジョブズのプレゼン術を真似ただけではありません。そこから出発をして、独特のプレゼンスタイルを確立しています。最大の特徴は、製品発表会の前から雷軍氏のプレゼン、プロモーションは始まっているということです。あるいは開発プロセスそのものをエンターテイメントにしていると言ってもかまいません。開発の最中から情報発信をし、そのプロセスを知ることになります。最終的に製品が発売されると、それまでの物語を知っている人は買いたくなってしまうのです。お金のやり取りはありませんが、クラウドファンディングに近い味わいがあります。

雷軍氏のプレゼン術には3つの特徴があります。

1)自分自身をIP化していく

2)ユーザーとのコミュニティをつくっていく

3)心理的アンカリングを設定する

それぞれについて、2011年の小米1、2024年のSU7それぞれについて、具体例をご紹介していきます。

 

1の自分自身のIP化は、自身のパブリックイメージを浸透させていくというものです。パブリックイメージといっても、装ったりせず、自分自身を包み隠さず出していくというやり方です。

「vol.192:小米創業者・雷軍の年度講演「成長」。認知の突破のみが人を成長させる」では、2023年8月14日に開催された雷軍氏の年度講演「成長」の抄訳をご紹介しました。この日は、年に一度の大規模な小米新製品発表会で、その前に雷軍氏は年度講演を行います。現在のところ、4回開催され、内容は次のようになっています。

第1回

2020年8月11日「自分を信じ、前に進み続ける」

第2回

2021年8月10日「私の夢、私の選択」

第3回

2022年8月11日「素晴らしいことが起きると信じ続ける」

第4回

2023年8月14日「成長」

 

いずれも自分の人生を振り返り、成功も失敗も赤裸々に語り、そこから教訓を引き出して、学生や起業を目指す若者に伝えるというものです。最新回の「成長」では、「認知の突破だけが成長をもたらす」がテーマになりました。自分の限界は自分で定めてしまっている。その認知の壁を突破することだけが成長をもたらすという意味です。小米ファンだけでなく、多くの人がこの年度講演を楽しみにしています。

 

若者はなぜ雷軍氏の講演に惹かれるのでしょうか。中国には他にもたくさん成功した起業家がいて、特にアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は教訓や金言の宝庫と言ってもいいぐらいです。もちろん、ジャック・マーを尊敬する人もたくさんいます。しかし、ジャック・マーやファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は、企業家として人間の器が大きすぎて、仰ぎ見るような遠い存在なのです。誰もがジャック・マーになれるわけではありません。

一方、百度バイドゥ)の創業者、李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)のように海外留学をし、米国テック企業で活躍し、帰国をして創業、短期間にIPOを果たすというスーパーエリートもいます。これも簡単に真似ができることではありません。

もちろん、雷軍氏も高考(共通入試)では710点満点で700点を取り、湖北省でトップの成績をとったエリートです。しかし、清華大学でも北京大学でもどこでも好きな大学を選べるのに、地元の武漢大学を選びます。小米を創業する前は、個人投資家として大成功をしていて、胡潤百富によると、中国第34位の富豪で、その資産は940億元(約2.0兆円)になっています。しかし、お金持ちの嫌な雰囲気はまったくありません。着ている服は、自分が出資をしているカジュアルブランド「凡客誠品」の商品です。

さらに、年度講演では自分は「社恐」(シャーコン)であったことを告白しています。社恐とは社交恐怖症のことで、人とうまくコミュニケーションをとることができず、数々の失敗をして、落ち込んでしまう人のことです。現在の大学生は、ほとんどの人が自分は社恐であることを自認し、それに悩んでもいます。

つまり、雷軍氏は、能力としては高いものを持っているものの、どこか身近な存在なのです。周りの友人にもいそうな人が、夢を実現しようとして努力をし、成果を出しているということから、尊敬されると同時に愛される人でもあるのです。ここが、若者が雷軍氏に惹かれてしまう大きな要因になっています。

今回は、雷軍氏のプレゼン術の3つのキモをご紹介します。

 

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