中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

海老料理を出す本屋さん。北京のITエンジニアの間で大人気に

北京で、「書香門」(シューシャンメン)という書店が話題になっている。会員制書店で、テーブルやソファがあり、店内では本を読み放題。気に入った本は買うことができる。さらに、コーヒーなどの飲み物も販売されているだけでなく、本格的な海老料理やアワビ料理まで提供される。現在、11店舗を展開し、年商は1億元(約16億4000万円)を超えている。北京のITエンジニアの間で愛好者が増えていると職業餐飲網が報じた。

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▲書香門の店内。店内は広く、ゆったりとしている。ITエンジニア御用達の店になっているが、MacBookを開いて仕事をするような無粋な人はいない。みな紙の本を楽しみ、本について語り合うことを楽しんでいる。

 

本格料理を出す書店というコンセプトで成功した書香門

書店で、立ち読みを自由にさせるところが増え始めている。テーブルやソファを用意して、立ち読みを推奨する書店もある。カフェが併設されていて、コーヒーを飲みながら読める書店もある。しかし、海老料理やアワビ料理といった本格的な食事まで提供する書店はそうは多くない。黒竜江省ハルビン市で11店舗を展開していた書香門は、この手法で年商1億元を達成した。

その書香門が北京に初めての出店をした。場所は北京市の北東部にある798芸術区。1950年代に東ドイツの技術支援を受けて設立された機関車などの製造工場(第798工場)だったが、改革解放以後、廃工場となっていた。家賃が格安なことから現代芸術の芸術家たちが住み始めた。この場所から、世界的に有名な現代芸術家が何人も登場して、798芸術区は世界的にも有名な地域となった。現在は、観光地化してしまったと嘆く人もいるが、画廊や展示ホール、カフェ、雑貨店が軒を連ねる芸術の街になっている。北京でも、感度の高い人が集まる瀟洒な場所だ。

この立地に、書香門が出店をすると、早速、北京のITエンジニアたちが熱心なファンとなり、話題になっている。

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▲北京にある798芸術区。廃工場の建築をそのまま利用した画廊、美術館が人気を呼んでいる。観光地になってしまったと嘆く人もいるが、北京でも感度の高い人々が集まる地域になっている。

 

会員カードの最低チャージ金額は3万円から

書香門は、どの店も1000平米以上と、店内は広い。そこにテーブルが用意され、壁際には書架があり、本が並んでいる。本を購入することもできるが、基本は、訪れて居心地のいい場所で、本を読む。会員制で、会員カードに現金をチャージし、店内ではこのカードで、買取の本や食事、コーヒーなどの支払いをする。

ただし、このカードへのチャージの最低金額は2000元(約3万2000円)と敷居は高い。3ヶ月経てば、現金に払い戻すことができるようになるが、それをする会員はほとんどいない。

これで、すでに1万5000人の会員がいる。全員のカードに最低2000元はチャージされるのだから、これだけでも3000万元(約5億円)だ。

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▲店内に併設されているカフェ。飲み物は9.9元均一。160円ほどで、周囲のカフェと比べても1/3から1/4程度の値段。

 

本を読まない中国人に、本を読んでもらいたい

書香門の成り立ちは、当時、黒竜江省の衛星テレビ局に勤めていた創業者の田久岭(でん・きゅうれい)氏が、2013年に『本を読まない中国人』というエッセイを読んで、衝撃を受けたことに始まる。

「これはなんとかしなければいけない」と感じた田久岭氏は、2013年8月に、テレビ局を辞職して、書香門を設立した。

当時は、現在の業態とは違っていて、会員制の読書サロンだった。本を読む習慣を少しでも広げようとした。当初は友人などが参加して、経営状態も悪くなかったが、半年もすると、最初の熱が冷め、次第に会員が減り、経営状態は悪化していった。

 

軽食では中国人の胃袋は満足しない

田久岭氏は当時を振り返る。「あの頃は、最初の読書交流会が午前9時半から始まり、10時半に終わっていました。この時間に参加する人の多くが、朝食を食べずに交流会に参加していたのです。みな、お腹が空いて、読書どころではなかったわけです」。

そこで、田久岭氏は簡単につくれる軽食を提供しようと、さまざまなレストランを訪れて、メニューのアイディアを探った。「しかし、簡単に作れる軽食というのは、サンドイッチやパンなど、中国人の胃袋を満足させるようなものではなかったのです」。

そこで、田久岭氏は、まったく大胆な発想をする。読書よりも食欲が重大事であるならば、読書スペースよりもキッチンスペースを大きくすべきだと考えた。本屋の中にキッチンを作るのではなく、レストランに本を置けばいい。胃袋を満足させれば、落ち着いて本が読めるはずだと考えた。

 

市価700元の海老料理が99元。本当の味を格安で提供

田久岭氏は、どうせ料理を提供するなら、最高の料理を提供したいと考えた。海老、アワビ、フカヒレなどの高級食材をふんだんに使った料理を提供したい。しかし、本が好きな人というのは学生や若者が多く、そのような高級料理を注文できるほどお金を持っていない。

そこで考えたのが会員制だった。会員になってもらい、2000元をまずチャージしてもらい、それを飲食に使ってもらう。先にお金をもらうので、その資金を投資などに回し、配当金や利子で利益をあげる。この収入があるために、会員には料理を格安で提供ができる。

市内では、700元(約1万1500円)ほどはする海老料理は99元(約1600円)で提供する。人気のアワビフカヒレ牛スジ麺は19.9元(約320円)、コーヒーなどの飲み物はすべて9.9元(約160円)という格安で提供している。

「格安で高級料理が食べられて、何時間でも本を読んで過ごすことができる」と感度の高い人たちの間で話題になり、2000元チャージという高い敷居があるにもかかわらず、人気の書店となった。

食事を提供するようになって、書香門の経営は好転し、1年で利益が6倍に増え、現在でも利益率15%台を維持している。この利益を元に、店舗を増やし、読書習慣を中国人に根付かそうとしている。

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▲書香門で提供される海老料理。本格的な高級料理で、普通のレストランであれば700元ほどする料理が99元で提供されている。

 

デジタル世代に新鮮な「紙の本」体験

北京798店が開店すると、早速感度の高いITエンジニアたちが押し寄せた。しかし、エンジニアにありがちな、テーブルでコーヒーを飲みながら、MacBookを開くという人は皆無だ。普段は、スマホとPCが手放せない彼らも、書香門に来た時だけは、紙の本を読む。

田久岭氏は言う。「私たちの商品は、本でも料理でもありません。会員カードです。その会員カードを使って、書香門で過ごす体験が私たちの本当の商品なのです。海老料理を提供する書店というのはまったく奇妙でもなんでもありません」。

デジタル世代にとっては、書香門での体験は新鮮で、心地がいいようだ。田久岭氏は、デジタル世代の多い地域を中心に、さらなる出店計画を進めている。

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▲オーガニックなインテリアの店内で、じっくりと紙の本を読む。デジタル世代には新鮮な体験で、ITエンジニアの間で愛好者が増えている。