中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の宅配件数は300億件を突破。ドローンによる無人配送時代へ

日本でも宅配業務が限界に達していると問題になっているが、中国はすでに限界値を突破してさまざまな問題が発生している。ECサイト大手「京東」と宅配大手「順豊」は、協働して、無人宅配時代への転換を図るという宣言をしたと亜洲週刊雑誌が報じた。

 

世界の4割の荷物は中国で配達されている

中国の宅配便件数は毎年数10%の伸びで増えていて、2016年には313.5億件となり、限界と呼ばれていた300億件を突破した。日本の宅配便件数が37.5億件程度であることを考えると、いかに膨大な数かが想像つくだろう。世界での宅配便件数は700億件と言われ、その4割が中国ということになる。

しかし、取扱件数の伸びに比例して、宅配企業の収益は伸びていない。労働集約産業である宅配は、取扱件数が増えれば、比例して人件費コストも増えていくからだ。それだけでなく、宅配スタッフの質を維持することが難しくなり、遅配、不達、破損といった問題が増加している。

さらには、宅配スタッフが配達先の個人情報を外部に販売する、配達先の女性宅に不法侵入するなどの違法行為すら発生している。宅配スタッフの労働負荷は限界を超えていて、ビルの警備員から配送車の違法駐車を咎められた宅配スタッフ数人が、警備員数人と乱闘するという事件も起きている。

日本だけでなく、中国の宅配も限界に達しているのだ。

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▲自動化が進んでいない仕分けセンターでは、荷物がすぐに山積みになってしまう。すでに宅配件数は限界と呼ばれた300億件を超えている。

 

人工知能が仕分けて、ドローンが運ぶ時代へ

ECサイト大手「京東商城」と宅配大手「順豊」は、協働して、この問題に取り組み、いよいよ無人宅配時代への転換をしていくと宣言をした。転換が完了すれば、100万人の宅配スタッフがリストラ対象になるという大掛かりなものだ。

無人宅配のインフラ整備として、京東の創業者である劉強東(りゅう・きょうとう)氏は、ドローン専用の飛行場を、四川省に185ヶ所、陝西省に100ヶ所を建設することを発表した。その後も、各省にドローン専用飛行場を建設していていき、10年以内に「中国全土で24時間以内配送」を実現するという。また、これとは別に205億元(約3400億円)を投資して、人工知能による物流管理システムを開発するという。

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▲京東と順豊の共同開発による各種宅配ドローン。宅配パッケージのサイズに合わせて数種類が開発されている。すでに飛行試験は終わり、法的整備がクリアされるのを待っている状態だ。

 

12年後には出荷件数は10倍、社員数は1/3

あまりに遠大な計画に思えるが、線で開発をしなければならない道路、鉄道と異なり、点で開発をすればいい飛行場網は意外に早く建設が完了するのではないかと見られている。

ドローンの操縦技術開発のハードルも、自動運転自動車に比べれば低い。懸念されるのは、市街地への墜落事故だが、中国の場合、飛行ルートを考慮することで、市街地を避けた飛行も可能で、リスクは最小限にできる。多くのメディアが、この計画の実現は前倒しで行われるのではないかと見ている。

劉強東氏は、この計画を実現することで、ECサイト「京東商城」が出荷する商品件数は、12年後に10倍になり、さらに、現在12万人の社員数も、12年後には4万人になっているという予測を述べた。

 

既存空港からドローン空港へ中継、各戸に配送

ドローンは、宅配企業の順豊が2012年から研究開発をしていたもので、すでに151の関連特許を保有している。現在の試験機は、積載量が5kgから25kg。飛行距離は15kmから100km。すでに試験飛行の正式許可を取得し、試験が続いている。

さらに、飛行場と水上の両方で離着できる大型ドローンも開発中だ。

京東と順豊は、3段方式の配送計画を構想している。基幹路線は、既存の空港を利用し、有人貨物飛行機で大量輸送をする。空港から、各地に整備されたドローン専用飛行場までを大型ドローンで中継をする。各地の飛行場からは、小型ドローンで各家庭に配送をするというものだ。

順豊には、現在配送スタッフとして35万人が働いている。計画が実現すれば、この35万人すべてが不要になってしまうことになる。

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▲宅配ドローンは、すでに飛行試験が何度も行われ、すぐにでも実戦投入できる状態になっている。ただし、市街地の墜落事故が不安視され、実戦投入は、人口の少ない農村、郊外からということになりそうだ。

 

仕分けの自動化はすでに始まっている

荷物の仕分けをする配送センターは、すでに無人化が進んでいる。広東省東莞市にある京東華南区麻涌仕分けセンターでは、すべての荷物が1200平米のプラッフォームの上で仕分けされている。働いているのは人間ではなく、300台の仕分けロボットだ。1時間に1万数千件の荷物を仕分けする能力がある。

このプラットフォームには、穴が空いていて、穴の下には配送用のバスケットが置かれている。ロボットは、荷物につけられたQRコードに従って、適切な穴に荷物を入れていく。下部のバスケットがいっぱいになると、ランプが点灯し、これを人が見て、満杯になったバスケットを配送用に回し、新しいバスケットをセットする。

この仕分けセンターでは、ロボット導入以前は300人が働いていたが、導入後はわずか20人が働くだけになった。

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▲京東華南区麻涌仕分けセンターの様子。荷物のバーコードを読み取り、配送先のバスケットが用意されている穴に、荷物を入れていく。

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▲プラットフォームの下部には、配送先別のバスケットが置かれている。荷物がいっぱいになるとアラートが点灯するので、それを外して、配送トラックなどに回す。

 

配送スタッフ200万人の仕事がなくなる時代へ

劉強東氏は、このような無人飛行機、ロボット仕分けを活用することで、現在の10倍の荷物を、1件あたりの配送コストを3割減少させ、なおかつ中国全土で24時間以内に配送できることになると語った。

しかし、配送業界では現在配送スタッフが200万人働いている。今後、10年で多くが別の仕事を探さなければならなくなる。それが社会全体にとっていいことなのか悪いことなのか。我々は時代に淘汰されないような人生設計をしていかなければならないと亜洲習慣雑誌は結んでいる。

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▲宅配スタッフは、今日も荷物を届けている。彼らが中国の真小売革命を支えているが、無人配送時代になれば失業してしまうことになる。