中華IT最新事情

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中国宅配スタッフのあまりにも厳しすぎる現実

中国では、ECサイト「京東」と宅配企業「順豊」が、協働して、ドローンによる無人宅配システムに転換していくことを表明した。日本人にとって、ドローンによる宅配というのはやや突飛すぎる印象を持ってしまうかもしれない。しかし、中国宅配の厳しい現実を見れば、無人配送にも納得がいくようになる。中国日報網が、そのような中国宅配の厳しすぎる現実を同行取材した。

 

車で2時間、さらに歩いて2時間の無料配送

中国では、ECサイト「京東」と宅配企業「順豊」が、協働して、ドローンによる無人宅配システムに転換していくことを表明した。各省にドローン専用飛行場を建設し、そこを拠点にドローンで宅配を行う。10年以内に「中国全土で24時間以内配送」を実現する。

ドローン配送の場合、最も懸念される問題は、市街地への墜落事故だ。そのため、日本のように人口密度が高い国には、ドローン配送は向かない。しかし、中国の農村部のような地域では、ドローン配送が適しているのだ。

中国日報網は、今年3月、雲南省巧家県の鸚哥村の農家が注文をした冷蔵庫1台と洗濯機2台を配送する京東スタッフに同行取材をした。

鸚哥村は、近くの町から100km以上の距離があり、車では途中までしか行けない。そこから歩いて2時間の距離にあるという場所だ。それでも、国の政策により衛星テレビが整備されていて、テレビを通じて都市の生活を知ることができるようになった。ECサイト「京東」としては、注文された以上、なんとしても利用者の家のドアまで届けなければならないのだ。

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落石、ケーブル、山道。配送スタッフに降りかかる困難。

午前9時、5人の配送スタッフが、街から車で出発をした。鸚哥村に向かう道は、当然ながら未舗装道路だ。しかも、途中で落石が道路を塞いでいるため、大きな石をスタッフがどかさなければならなかった。

午前11時、鸚哥村の対岸までたどり着いた。ここから先は車ではいけない。ケーブルを使って対岸に渡るしか方法がないのだ。金沙江にかかるケーブルで、全長470m、水面からの高さは260mもある。アジアで最も高いケーブルだという。ケーブルに乗ること6分で対岸に着くが、ここからは徒歩しか方法がない。冷蔵庫と2台の洗濯機は、5人のスタッフが交代で担いで歩いていくしかないのだ。

山道を登ること2時間、ようやく鸚哥村に着いて、注文した家を訪ねて、配送が完了する。購入した楊さんは、中国日報網の取材に応えた。「何軒もの電気店を調べましたが、どこも鸚哥村への配送を断ってきました。家まで届けてくれるのは、京東商城だけだったのです。これからもお願いしたいと思っています」。

配送スタッフは言う。「確かに鸚哥村への配送は大変です。でも、ここの村の人は温かいご飯とお湯を飲むことも大変で、カップ麺やミネラルウォーターもほとんどの人が口にしたことがありません。それが、今ではネットで注文できるようになったのです。大変ですけど、とても意義のある仕事だと思っています」。

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▲鸚哥村までは、2時間の未舗装道路しかない。途中落石などがあり、それをどかしながら前に進む。3台の家電を配送するのに、5人のスタッフが必要になる。

 

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▲車では途中までしか行けない。金沙江が土地を深く分断しているからだ。ここは川面から260mの高さを走るケーブルで対岸に渡るしかない。

 

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▲さらに2時間を徒歩で行く。配送品はいくら重くても人が交代で担いで行くしかない。

 

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▲道はほとんどが登りで、村に近づくと急な階段が多くなる。ここは、1人では無理で、手の空いている配送スタッフがサポートしながら、前に進む。

 

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▲ようやく購入者の家が見えてきた。中国の農村部でも、政府の政策により、水力、風力などの発電設備が備えられていて、電気は豊富に使えるところが多い。そのため、家電製品に対する需要は意外に強い。

 

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▲ようやく到着。あとは梱包を解いて、設置をしたら、すぐに帰らないと日没までに街に戻れなくなってしまう。これだけの労力をかけるぐらいであれば、ドローンによる無人配送にしようという発想は自然に出てくる。

 

都市と農村のデバイドを解消するために、無料配送をする京東

昨年4月に、京東は、この地区をカバーする京東幇服務店を開店した。ECサイト「京東商城」の商品を代理購入してくれる店舗だ。京東では、この店舗はネット時代の小売革命を進めるための社会的責任を担っているとして、配送料は無料で注文を受け付けている。月に100件程度の注文があるという。

中国は、ITにより国が2つにデバイドされてしまっている。都市部では、ほとんどのサービスがスマートフォンを通じて利用するようになり、支払いは現金ではなくスマホ決済というのがごく当たり前になっている。しかし、農村部ではまだまだ現金決済が主流で、実体店舗はコスト高を嫌って撤退を始めている。都市はますます便利になっているが、農村はますます不便になっているのだ。

京東幇服務店は、この不公平を解消しようとする社会起業の側面も持っている。しかし、それにしても3台の家電を配送するのに、5人のスタッフが5時間をかけて配送する。スタッフは村でゆっくりしていたら、その日のうちに街に戻ることも難しくなる。

このような地域に、ドローン配送を導入しようというのはごく自然で切実な発想なのだ。

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