中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

街の中を走る“低速”リニアモーターカー

中国上海市で、次世代リニアモーターカーの試験走行が始まっている。このリニアは時速120kmという”低速”で走行する。次世代リニアは「低速」が最大の特徴なのだという。早ければ1年後には、路線建設に着手すると新華社大連が報じた。

 

リニア先進国が手がける次世代リニアは「低速」

中国はリニアモーターカーの最先端国だ。上海市郊外の竜陽路と上海浦東国際空港の約30kmを7分20秒で結ぶトランスラピッドは、営業最高時速430km、試験での最高速度は501km。リニアの営業路線は、英国、ドイツ、日本などもにもあるが、いずれも最高速度は100km程度に抑えた運行をしている。超高速での営業運行をしているのは、世界でもこの上海のトランスラピッドのみだ。

当然、さらなる高速を目指したリニアの建設も計画されているが、今回公開されたのは、一転して最高速度120kmの”低速”リニアであるという。なぜ、低速のリニアが必要なのだろうか。

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上海市内と上海浦東国際空港の間30kmを結ぶ超高速リニア。営業最高速度は時速430km。超高速営業運転リニアは、世界でもここにしかない。

 

リニアには、静か、力持ち、安いのメリットがある

中国工程院、西南交通大学の銭清泉(せん・せいせん)教授は、新華社の取材に応えた。「我が国は、リニア技術で世界でも最高水準を誇ってきました。低速リニアは、新しい時代のリニアなのです」。中国工程院では、すでに8年間、低速リニアの開発研究をしてきたという。

銭清泉教授は、低速のリニアの利点は3つあるという。ひとつは低騒音であること。現在、鉄道系ではリニアが最も低騒音であるという。2つ目は、登坂能力が高いこと。地下鉄の場合、30パーミルの登坂が限界だが、リニアであれば100パーミルまで登れるという。また、カーブでの走行速度も早いため、複雑な路線でも走行することができ、トンネルなどを使わない路線計画が立てられる。建設コストが通常の鉄道に比べて大幅に下がる。3つ目は、レールの磨耗がないので、ライフタイムのメンテナンスコストは一般の鉄道に比べて安くなる。

銭清泉教授は、低速リニアは、このような利点を持っているため、都市交通に向いているのだという。

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▲試験走行が開始された低速リニア。最高速度は120kmで、登坂能力も高い。イメージとしてはモノレールのように都市の中を走ることになる。

 

路面電車と同じ運搬力、地下鉄より安い低速リニア

鉄道系都市交通は、従来路面電車と地下鉄が主体だった。低速リニアの建設コストは、路面電車よりは高いが、地下鉄よりは安くなる。運搬能力は、路面電車とほぼ同じで、地下鉄よりは小さいと見積もられている。

都市の場合、高架、地下道などが複雑に絡み合い、鉄道を新設しようとすると頻繁に上り下りをさせなければならなくなる。それを避けようとすれば、深い深度に地下鉄を建設するしかなく、建設費は莫大になり、利用者の利便性も悪くなる。

登坂能力の高い低速リニアは、都市の基本鉄道としてではなく、後付けで建設する補助路線に向いているのだ。

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▲走行音は静かであるため、都市交通に向いている。レールの磨耗もないので、ライフタイムでのメンテナンスコストは一般的な鉄道よりも安くなるという。

 

急激な都市化に追いつけていない公共交通網

中国では今、農村に囲まれた小さな町の人口が急激に増加し、都市化するという現象が起きている。農村から次々と町に人が移り住んでくるからだ。しかし、そのような新興都市は、都市計画をする暇もなく、無秩序に拡張されていっているのが現状だ。

そこで、スマートレールのような新しい公共交通の開発も進められている。この低速リニアもそのような新時代の都市交通のひとつとして考えられている。この低速ニアは、上海だけではなく、北京、天津、武漢成都などさまざまな都市で試験運行が始まっている。2020年には、少なくとも5都市で、低速リニアが開業すると見込まれている。

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エレキット リニアモーターエクスプレス MR-9106

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ぜんぜんWellじゃなかった無人コンビニ体験「Well Go」

中国では、無人コンビニの開業が相次いでいる。今、最も投資資金の集まりやすい分野であるため、先行者利益を狙って、「とにかく開業してしまえばなんとかなる」という空気があるからだ。しかし、中には問題が多い無人コンビニもあると移動支付網が報じた。

 

次々と登場する無線タグ、セルフレジ式の無人コンビニ

移動支付網が体験取材をしたのは、広東省深圳市に開業したWell GOの1号店。南山区の天虹総本部ビルの南西の屋外に設置された。面積は12平米とミニサイズ。この中に約300種類の商品が陳列されている。

入店をするにはアプリから事前登録することが必要で、登録後はドアにあるQRコードを専用アプリで読み取ると、自動ドアが開いて中に入れる。商品にはすべて無線タグがつけられていて、欲しいものを手に取り、出入り口付近のレジに置く。すると、自動計算されるので、スマホ決済をすると、再び自動ドアが開いて、外に出られる。

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広東省深圳市に開業した無人コンビニ「Well GO」。空きスペースをうまく利用したコンテナ型店舗だ。

 

商品補充の頻度が多ければ無人にする意味がない

移動支付網では3人の記者が、早速このWell GOを体験してきたが、それは理想とはかけ離れたひどい体験だったという。

まず、12平米、300種類の商品というバランスがおかしいのではないかと記者は疑問を呈する。狭い中に多くの商品を陳列しているために、1種類あたりの商品の個数が少ない。これではすぐに売り切れてしまう。実際に、売り切れになっていて補充されていない商品が目立ったという。

この販売機会損失を避けるためには、補充スタッフが頻繁にやってきて、商品を補充しなければならない。でも、だったら「無人コンビニにしている意味がないんじゃないの?商品スタッフが常駐したっていいんじゃない?」と記者は疑問を呈している。

 

風が吹いたら閉まらなくなる自動ドア

Well Goの自動ドアは、スライド式ではなく、なぜか一般的なドアと同じ開閉式。これがいったん開くと、風が吹いているためにきちんと閉まらない。本来は、入店するといったん閉まって、清算を済ませないとドアが開かない仕組みになっている。しかし、風で開きっぱなしなので、いくらでも精算をせずに、商品を持って外に出てしまうことができる。

もちろん、監視カメラがあり、個人認証もされているので、そのような違法行為をすれば、会員資格が取り消されて、二度と入ることはできなくなる。しかし、サービスを提供する側はこのような不備を放置すべきではない。本来、万引きなどまったくする気がない人であっても、ドアが開いていることに気がついたら、魔がさすということがある。真っ当な優良顧客を犯罪に誘導してしまうことになるのだ。また、精算が済んだものだと勘違いをして、そのまま商品を持ったまま出てしまう人も出てくるだろう。

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▲移動支付網の記者が描いた解説図。スライド式ではなく開閉式のドアであるため、風が吹くと閉まらなくなる。

 

毎回、清算金額が違ってしまうレジ

さらにひどいのは、レジだったという。3人でまったく同じ商品を同じ個数だけ買ったのに、人によって精算金額が違っていた。認識率が低く、精算ミスがあり得ないほど頻発しているという。

おそらくレジの設計に問題があるのだろう。同じ商品でも置き方によって、認識ができない商品が出てしまうようだ。

レジ横には、どうしても認識ができない商品を返却するボックスが用意されているが、そこにはすでに商品がいくつか入っていた。未精算の商品があると、出口のドアが開かないため、購入をあきらめて、商品を返却しているものだと思われる。

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▲セルフレジの様子。置き方などでも誤認識が発生した。毎回、精算金額が違ってしまう。レジ横には、購入をやめる商品を入れる箱が置かれているが、すでにかなりの数の商品が入れられていた。うまく精算ができず、購入をやめたものだと推測される。

 

無線タグの分、割高になっている商品価格

また、無線タグをつけるには、その無線タグのコストとそれを商品につける人件費コストがかかる。そのため、Well GOの商品は、他のコンビニに比べて0.5元から1元程度割高になっていた。

消費者にとっての無人コンビニの利点は、レジに時間がかからないので、レジ待ちをしなくていいということと、人件費コストの分、他のコンビニもよりも安く買えるということだ。しかし、どちらもWell GOでは実現できていない。

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▲使われているRFID無線タグ。この認識率が悪く、トラブルを起こしている。

 

無人コンビニスタートアップの淘汰の時期は近い

今、中国では無人コンビニ事業には投資資金が集まりやすい。そのため、安易に開業している無人コンビニも登場してきている。Well GOがそのような安易なスタートアップなのかは、今のところまだわからない。

自転車ライドシェアのofoは、開業当時、GPS非搭載、電子鍵も非搭載ということで、かなりの数の自転車が私物化されてしまうという問題を起こしていた。しかし、半年ほどで、問題をひとつひとつ解決していき、現在では自転車ライドシェアのトップリーダーとなっている。

Well GOも、現時点ではあまりにもひどすぎるが、今後の改良次第でどうなるかはわからない。Well GOのスタッフたちが、どこまで努力し、工夫できるかにかかっている。

しかし、全体を見ていると、中国の無人コンビニは、あと数ヶ月で淘汰の季節を迎えそうだ。そこで生き残った無人コンビニが、市民生活に定着していくことになる。

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レールがない公道を走る次世代路面電車「スマートレール」

レールがない公道を、仮想レール上を走行する「スマートレール」の試験車両が、湖南省株洲市で公開された。レールの敷設が必要なく、低コスト、短期間で路面電車を走らせることができる。2018年の営業運行に向けて、着々と試験走行が行われていると中国新聞網が報じた。

 

道路を走る電車「スマートレール」

このスマートレールは、中車株洲電力機車研究所が開発したもの。見た目は、一般的な路面電車と変わらない。しかし、違いは鉄の車輪ではなく、ゴムタイヤの車輪であり、レールではなく、一般的なアスファルト道路の上を走行する。

レールは、道路上に特殊塗料で描き、スマートレール車両はこの塗料を追跡しながら走行するため、運転手がハンドル操作のようなことをする必要はない。特殊塗料でペイントするだけでレールが敷設できるため、路線計画を立てて、営業までが1年以内という短期間で済む。1年かかるのは、路肩に電車と通信するための設備を一定間隔で設置する必要があるのと、一般車両との混合通行になるため、信号機や走行レーンの整備が必要となるためだ。

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湖南省株洲市で公開されたスマートレール試験車両。色と形から、ネット民の間では「大毛虫」と呼ばれ始めている。

 

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▲地面には軌道の代わりとなるペイントが描かれている。このペイントには特殊塗料が使われ、車両はこれを感知しながら走行する。

 

安く、早く開通できるスマートレール

研究所によると、1kmあたりの建設コストは、一般的な路面電車に比べて、1億元(約16億円)以上は安くなるという。中車株洲電力機車研究所の馮江華(ふう・こうか)副社長、エンジニア長は、中国新聞網の取材に応えた。「一般的な地下鉄の建設費は、1kmあたり4億元から7億元(約114億円)です。路面電車では1.5億元から2億元(約32億円)です。スマートレールの場合は、道路や信号機のわずかな改造だけで済みますから、路面電車の1/5のコストで建設ができます」。

また、運行後に乗客の意見を聞いて、路線を変更することが実に簡単になる。あらかじめ、迂回路の設定を行っておけば、渋滞が発生した、道路にトラブルが起きたという場合に臨時に迂回路を走行することも可能だ。

この列車は最高時速70km。1車両で100人が乗車でき、株洲市は3両編成または5両編成での運行を想定している。この車両編成も固定ではなく、乗客数に応じて、弾力的に運用する予定だ。

電力供給も必要なく、バッテリーで駆動する。10分の充電で25kmを走行できる。


虚拟轨道列车 “智轨”

▲公開されているスマートレールのデモ映像。スマートレールの利点がわかりやすくまとめられている。

 

公共交通が追いつかない新興都市に適したスマートレール

株洲市では、2018年の営業運行を目指して、走行試験と計画を進めている。馮江華副社長は言う。「2020年までに、中国はさらに都市化が進み、100万人都市が新たに80都市誕生します。しかし、そのうちの80%は、地下鉄や路面電車の建設が間に合わず、自動車とバスに頼ることにより、深刻な交通渋滞を招くことになります。これは都市の病気です」。

スマートレールは、このような新興都市に狙いを定めて導入をしていくという。さらに、大都市の補助的な公共交通として、また市街地と観光地を結ぶ観光電車としても適しているという。

都市の公共交通課題を解決するものとして、ライトレール(軽量、高速な路面電車)が注目をされているが、スマートレールは、次世代ライトレールとして注目をされている。中国の中都市では、数年で「道路を走る電車」が見られるかもしれない。


中车株洲新型城市交通工具 全球首列虚拟轨道列车发布 可无人驾驶 | 株洲发布

湖南省株洲市で公開された走行試験の取材映像。線路がないだけで、ごく普通の路面電車と変わらない。音も静かだ。

プラレール プラレールをはじめよう! レールベーシックセット

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中国で増殖する“ウェアラブル”なQRコード

中国のスマホ決済の主流となっているのがQRコード方式。QRコードは決済だけでなく、さまざまな目的で使われている。あるレストランで、このQRコードを巡って、来店客とトラブルになったと環球網が報じた。

 

レストランのチップもスマホ決済

中国でのアリペイ、WeChatペイは、対面決済金額の40%以上を占め、都市部ではすでに現金を持たない人の方が多いくらいになっている。そのため、あらゆるものがスマホ決済に対応するようになり、それがますますスマホ決済の利便性を高めていくという好循環が生まれている。

例えば、レストランのスタッフに対するチップだ。中国の伝統的なレストランでは、テーブルごとに担当がつくことが多い。この場合、サービスに納得をすれば、その担当に3元から10元程度のチップを渡す習慣がある。そのようなレストランでは、テーブル会計が一般的なので、お釣りを持ってきたもらった時に、そのお釣りの中からチップを渡す。

しかし、現在では、このテーブル会計もスマホ決済になっている。担当が、レストランのQRコードを印刷したカード、あるいはハンディスキャナーを持ってきて、その場で決済をしてしまう。お釣りが出ないので、チップの渡しようがない。そこで、最近では、ウェイトレス、ウェイターが、自分個人のQRコードを腕などにつけていて、チップもスマホ決済で渡せるようにしているところが増えてきている。

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スマホ決済になり、チップがもらいづらくなったレストランでは、スタッフが腕にチップ用のQRコードをつけている店も登場している。

 

QRコードTシャツをジョークで使ったレストランが炎上

江蘇省南京市のあるレストランでは、QRコードジョークに使ったことで、客とトラブルになってしまった。ホールスタッフが、冗談で「料理が遅いと文句を言うなら、まずは5元をスマホ決済」という文字とQRコードがデザインされたTシャツを着ていたことが問題になった。

中国のレストランで最も多いクレームは「注文した料理が出てこない」というもので、それをジョークにしたTシャツだったが、まずいことに、本当に料理がなかなか出てこなかった。もちろん、料理が出てこないからといって、スマホ決済によるチップの支払いを求めるようなことはしていないが、これを不快に思った客の一人が写真を撮り、「このようなことは工商局に通報すべきだ」とコメントをつけ、SNSで公開したことから、問題が大きくなった。

ネット民たちは、そのレストランを特定し、このジョークに対して、さまざまな意見が飛び交った。レストラン側は「あれはジョークです。まさかこんな誤解を生むとは思っていませんでした」と釈明する事態になった。

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SNSにあげられて炎上した某レストランの写真。Tシャツには「料理を催促するのであれば、先にスマホ決済を」と書いてある。店側ではあくまでもジョークだと主張したが、本当に料理が出てこない客が怒ってSNSにあげた。

 

繁華街や地下鉄に現れるQRコード美女軍団

この他にも、街を歩けば、QRコードを身体につけた人を見かけることができる。QRコードスマホ決済だけに限らず、ウェブサイトへのリンクにも使えるし、SNSのアドレス交換にも使われる。そのため、美女集団を雇い、QRコードのついた服装で街を歩かせ、QRコードをスキャンしてもらうという広告手法もすっかり定着した。QRコードをスキャンすると、その商品のキャンペーンサイトが現れるというものだ。

また、大学生たちは、社会活動の支援者を増やすためにQRコードを利用している。貧困児童を救う活動、公共空間を清潔にする運動などを主宰する大学生たちは、QRコードを持って、地下鉄に乗り、乗客に運動の内容を説明する。同意を得た乗客には、QRコードをスキャンしてもらい、自分たちのSNSアカウントをフォローしてもらったり、あるいはスマホ決済で寄付金を募ったりしている。

このような手法で、実際にQRコードをスキャンしてもらえる人数というのは大した数ではないが、その活動自体が、必ず誰かが面白がり写真を撮って、SNSで拡散する。この効果が大きい。

QRコードは日本ではやや時代遅れになってしまい、あまり使われなくなっているが、中国ではスマホ決済に使われたことによって、QRコードが身近になり、さまざまなことに活用されている。

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▲繁華街には、QRコードをつけた美女軍団が出没する。QRコードをスキャンしてキャンペーンサイトにアクセスできる他、美女の写真を撮ったり、頼めばツーショット写真も撮らせてくれる。

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QRコードは街頭広告にもよく使われる。美女のTシャツにQRコードがプリントされていて、スキャンするとキャンペーンサイトに飛ぶ。話題性があるために、SNSで拡散したり、メディアに取り上げられることが多い。

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QRコードによる宣伝はさらに過激になり、太ももにQRコードをつけた美女軍団も登場する。オタク系男子は、喜んで太もも写真を撮影していく。

ふともも写真館 制服写真部

ふともも写真館 制服写真部

 

 

人工知能が描く萌えキャラ。盗作なのか、創造なのか?で話題沸騰

上海市復旦大学の学生6人が開設したサイトMakeGirls.moeが話題を呼んでいる。二次元萌え美少女キャラを自動生成してくれるというもので、人工知能技術のひとつであるDCGANモデルが使われている。これは与えられたデータ群を学習して、そっくりのデータ群を生成するもの。これは盗作なのか、それとも創造なのか。ネット民の間で大きな話題になっていると雷峰網が報じた。

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▲MakeGirls.moeが生成した美少女キャラ。どれもどこかで見たことがあるような印象を受けるが、人間の手ではなく人工知能が生成したものだ。

 

2つのニューラルネットが対決しながら進化する人工知能

MakeGirls.moeは、二次元の美少女キャラを生成してくれるサイト。髪の色、スタイル、目の色や眼鏡、帽子などの属性を設定すると、人工知能が萌え美少女キャラを生成してくれる。

この人工知能のベースとなっているのは、DCGAN(Deep Convolutional Generative Adversarial Network=深層畳み込み生成対立ネットワーク)モデル。2つのニューラルネットワークが、対決をすることで高速学習をしていく。対決するネットワークとは生成と判別の2つだ。

この学習の仕組みは、偽札造りの例え話でよく説明される。生成ニューラルネットワークは、与えられたデータ群、つまり紙幣とそっくりの画像を生成するように学習していく。ところが、もうひとつの判別ニューラルネットワークは、生成された画像が本物の紙幣なのか、生成された偽の紙幣なのかを見分けるように学習をしていく。つまり、生成側はできるだけ本物そっくりにしようとし、判別側はそれを見破ろうとする。こうして、互いが競い合いながら学習を進めていくため、高速で学習が進んでいくのだ。

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▲MakeGirls.comでは、髪の色などを設定すると、お好みの美少女キャラを生成してくれる。

 

盗作と創造の境目が溶けていく

このGAN(生成対立ネットワーク)は、最終的に判別ネットワークの真贋の判別率が50%に落ち着く。つまり、真贋がつかないレベルまで、高速で学習が進んでいく。

しかし、これは盗作にならないのだろうか。例えば、ある絵師が描くキャラクター群を元のデータとして読み込ませて、このDCGANに学習をさせる。すると、生成されるのはその絵師が描いたキャラクター群とそっくりのキャラクター群だ。誰も、これがその絵師が描いたものか、生成されたものか、区別をすることはできない。しかし、絵師本人は(記憶が確かであれば)「これを描いた記憶がない。私の描いたものではない」と言うことができるだろう。

盗作と創造の境目がなくなってしまうことになり、絵師の権利はどうやったら守れるのかという議論が始まっている。

このDCGANの利用法としては、ゲームなどを開発するときに、主要なキャラクターを人間が描き、それを学習させたDCGANで別のキャラクターを大量生成するという制作プロセスの効率化が考えられる。また、絵師ではないプロデューサーが自分のセンスで選んだ(権利処理された)キャラクター群を学習させ、オリジナルのキャラクターを生成するという使い方も考えられる。

 

2006年以降、流れが変わった萌えキャラの描き方

復旦大学のチームは、まずGetchu.comから、大量の美少女画像を購入して、背景を抜き、これを元データとした。さらにIllustration2Vecを使って、髪の色、服装などの属性を分析させ、分類した。

これをDCGANモデルに学習をさせていったが、チームはその学習中にあることに気がついた。それは、描かれた年が古い画像が含まれていると、学習速度が上がらないのだ。

チームは、元データの画像を制作年ごとに分類をして並べてみた。すると、明らかに2006年以降、萌えキャラの傾向や流行が変わっていることがわかった。そこで、2005年以前の元データ画像を捨てて、2006年以降の3万1255枚の画像のみを使って再学習をさせると、学習速度が上がり、生成結果も満足のいくものになった。

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▲萌えキャラを制作年ごとに分類して見ると、人間の目で見ても、明らかに2006年以降、異なってきていることがわかる。

 

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▲Illustration2Vecは、キャラクター画像を読み込ませると、その属性を確率表示で分類してくれる。

 

人間も人工知能と同じ学習の結果、オリジナルを生み出す

生成された画像を見ると、確かによく見かける萌え美少女キャラだが、誰かが描いたものではない。描いた本人が見れば、確かに自分の絵にそっくりではあるけど、自分のものではないとしか言いようがない。ましてや複数の人が描いた画像群を元データとして学習すれば、誰も自分の絵だとは言えなくなる。

しかし、オリジナルを描いている絵師本人だって、子どもの頃から美少女キャラを”学習”して、模倣から始めて、オリジナルを生み出すようになっているわけで、MakeGirls.moeは、この人間の学習プロセスを、効率よく、素早く行っているだけにすぎないとも言える。MakeGirls.moeが盗作ツールであるなら、人間の絵師すべても盗作絵師ということになってしまう。

MakeGirls.moeは、著作表現という実に人間臭い行為に、人工知能が踏み込むことで、新たな問題を提起しようとしている。

萌えキャラクターの描き方 顔・からだ編

萌えキャラクターの描き方 顔・からだ編

 

 

中国スマホ決済「アリペイ」が、2018年春に日本上陸。普及するか無視されるか

中国で圧倒的なシェアを誇るスマホ決済、アリペイ(アリババ)が、2018年春に、日本に本格上陸をすることになった。訪日中国人観光客用ではなく、日本人が日本国内で利用できるアリペイになる。3年で1000万人のユーザー獲得を目指すと中新経緯が報じた。

 

中国の電子決済額は日本の40倍以上

アリババが運営するスマホ決済「アリペイ」は、現在中国でのスマホ決済の55%のシェアを握っている。もうひとつ有力なWeChatペイが37%で、このふたつでスマホ決済の92%を握っている。

そのアリペイが、2018年春に本格的に日本上陸をする。野村総合研究所の調査では、日本の2017年の電子決済額は5.6兆円と見込まれているが、中国の2017年のスマホ決済額は15兆元と見込まれていて、これは約247兆円になる。つまり、中国のスマホ決済額は、日本の電子決済額すべての44倍の規模なのだ。

アリババは、日本の電子決済の額は、日本の経済規模に比べて低すぎると感じていて、アリペイが成長する空間が豊富にあると考えているという。

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▲アリペイはスマホ決済の55%を握っている。対面決済の40%以上がすでにスマホ決済になっていて、人口の半数が住む農村部ではほとんどスマホ決済が普及していないことを考えると、都市部では70%以上がスマホ決済になっていると推測される。

 

日本人が日本国内で使えるアリペイを投入

すでに、日本にも、訪日中国人観光客のためのアリペイは普及をし始めている。2017年末には加盟店が5万店に達する見込みだ。しかし、これはあくまでも中国人のためのもので、日本人は利用できない。

2018年春にスタートさせるのは、日本人のためのアリペイで、当面は日本国内でしか利用できないが、順次、中国のアリペイと統合し、中国をはじめとするアリペイ普及国で利用できるようにしていくとしている。

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導入ハードルが極めて低いQRコード方式

アリペイが日本で普及するかどうかは、今のところ、各専門家とも沈黙していて、まったくわからない。爆発的に普及をして、日本の現在のおサイフケータイ電子マネーを駆逐してしまう可能性もあるし、まったく普及せずに数年で撤退することになる可能性もある。

ポジティブな要因としては、QRコード方式のスマホ決済であるということがある。スマホに表示したQRコードを読み取って決済する方式なので、店舗側にはカードリーダーなどの新たな機器がいらない。導入のハードルは極めて低い。

また、従来のカード決済の場合、利用客のパスワードを含めたカード情報を、いったん店舗側が預かってカード認証をする仕組みであるため、店舗側のネットワークにも高いセキュリティが求められる。小規模店舗にとってはこの負担も大きい。

一方で、アリペイは、店舗側に渡されるのは利用客のIDのみで、パスワードは自分のスマホ回線を使ってサーバー認証する仕組みであるため、店舗側のセキュリティレベルは無関係だ。そのため、店舗側はごく普通のネット回線を用意するだけでかまわない。

 

審査不要のアリペイ

もうひとつ大きいのが、アリペイは中国の分類によると第三方支払い、従来のクレジットカードなどは第四方支払いとされ、仕組みのそのものが異なっていることだ。第三方というのは、当事者が3人いるという意味で、消費者、店舗、アリペイの3者だ。クレジットカードなどの第四方は、消費者、店舗、カード会社、銀行の4者が関わる。

ポイントは、従来の第四方方式は、厳密に言うと「立替払い」であるということだ。消費者が店舗でカード決済をすると、カード会社は”立替払い”をして、店舗に支払いをする。その後、消費者の口座がある銀行に支払いを要求する。このタイムラグがあるために、消費者、店舗ともに審査が必要になる。立替払いをした段階で、逃げられてしまったら、カード会社は取りっぱぐれてしまうので、信用のある人しか会員や加盟店にできない。

ところが、アリペイの第三方は、消費者が支払いをすると、アリペイは消費者の口座の資金を店舗の口座に移動させるだけで、立替払いのようなことはしない。このため、信用度のない人、加盟店であっても、まったく問題なく、審査をする必要がない。

事実、アリペイを使うには、スマホにアプリをダウンロードして、他のネットサービスと同じようにユーザー登録をするだけで、数分後には利用できるようになる。支払いをするには、銀行口座などから資金を移動させる必要があるが、店舗のように受け取るだけなら、ユーザー登録だけですぐに利用できるようになるのだ。

 

「使えるかどうかを事前に確認」が最悪のユーザー体験

よく「電子決済は現金よりも圧倒的にスムース」という人がいるが、それはレジでの体験だけを考えた場合の話で、「支払い手段として利用する」という視点で見ると、電子決済は決して使いやすいツールとは言えない。

最大の問題は、「使う前に、この店で使えるかどうかを確認しなければならない」という面倒くささだ。もうひとつ、プラスティクカードの場合、「枠残高がはっきりとわからない」という問題もある。このユーザー体験が悪すぎるので、必ず決済することができ、財布を開けば残高が一目瞭然の現金を好む人が日本では多い。

だから、カードにしても電子マネーにしても、使うのは「よく利用する店」という人が多いのではないか。この「事前確認」という悪いユーザー体験をしなくて済むからだ。また、「少額決済は現金、高額決済はカード」という人が多いのも、少額決済の店ではカードに対応していない確率が高いが、高額決済の店ではだいたいカードに対応しているからだ。

「現金が好き」と言われる日本人でも、交通カードのSuicaやコンビニの電子マネーが比較的普及をしているのは、「使えるかどうかを事前に確認」する必要がないことと、万が一残高不足であってもすぐにチャージできる環境が整っているからだ。

 

「ほぼ100%対応」が電子決済普及の鍵になる

アリペイが中国で爆発的に普及をしたのは、店舗の導入ハードルが極めて低いため、ほぼ100%の店舗が対応をしているため、「事前確認」をしなくて済むからであり、残高はアリペイアプリをひらけば一目瞭然だからだ。

実際、導入の簡単なアリペイは、路上で営業している屋台でも対応をしている。よく中国人は「スターバックス以外、すべてのお店が対応している」と言う(スターバックスは、クレジットカードやApplePayには対応しているが、スマホ決済には頑なに対応しない)。

つまり、日本で、アリペイが普及するかどうかは、中国と同じように「ほぼ100%の店舗が対応する」状況を作り出せるかどうかにかかっている。

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▲アリペイは導入しやすいために、中国では露店でもほぼ100%対応をしている。この「ほぼ100%」の状況を作れるかどうかが普及の鍵になる。

 

中国ブランドに対する信頼性が課題になる

しかし、一方で、日本人は電子決済に対して高い信頼性を求める。クレジットカードが普及したのも、国際的なカードブランドがあったからだし、電子マネーが普及をしたのも鉄道会社やコンビニチェーンといった社会的な信頼を得ている企業が運営をしているからだ。

一方で、アリババは国際的に著名な企業になっているものの、日本での知名度は低く、しかも中国という国に対して不安感を持っている人も多い。「だいじょうぶだとは思うけど、なにか不安」という気持ちが残っている限り、日本人はアリペイを積極的に使おうとは考えないだろう。その壁をどうやって乗り越えるかが最大の課題だ。

 

どのような形の進出になるかが今後の課題

アリペイの海外進出業務を担っているアリ金服では、3つの戦略を立てている。ひとつは、海外旅行をする中国人と一緒に海外進出をする。もうひとつは、インドのPaytmのように、技術提供をして、ブランドは現地のものを利用する。3つ目は銀行サービスを受けられない金融弱者を中心に普及をさせていくというものだ。

現在の報道では、日本進出はこの3つの戦略のどれとも違っていて、アリペイのブランドで、一般の人への普及を狙っているように読める。しかし、今後、アリババが日本市場をより深く研究することで、日本の決済ブランドに技術提供をするインド型、あるいは金融弱者に狙いを定める東南アジア型にシフトしていく可能性もないわけではない。

2018年春までにはまだ時間がある。おそらく今年末ぐらいには、具体的な日本版アリペイの形が見えてくることになるだろう。

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中国宅配スタッフのあまりにも厳しすぎる現実

中国では、ECサイト「京東」と宅配企業「順豊」が、協働して、ドローンによる無人宅配システムに転換していくことを表明した。日本人にとって、ドローンによる宅配というのはやや突飛すぎる印象を持ってしまうかもしれない。しかし、中国宅配の厳しい現実を見れば、無人配送にも納得がいくようになる。中国日報網が、そのような中国宅配の厳しすぎる現実を同行取材した。

 

車で2時間、さらに歩いて2時間の無料配送

中国では、ECサイト「京東」と宅配企業「順豊」が、協働して、ドローンによる無人宅配システムに転換していくことを表明した。各省にドローン専用飛行場を建設し、そこを拠点にドローンで宅配を行う。10年以内に「中国全土で24時間以内配送」を実現する。

ドローン配送の場合、最も懸念される問題は、市街地への墜落事故だ。そのため、日本のように人口密度が高い国には、ドローン配送は向かない。しかし、中国の農村部のような地域では、ドローン配送が適しているのだ。

中国日報網は、今年3月、雲南省巧家県の鸚哥村の農家が注文をした冷蔵庫1台と洗濯機2台を配送する京東スタッフに同行取材をした。

鸚哥村は、近くの町から100km以上の距離があり、車では途中までしか行けない。そこから歩いて2時間の距離にあるという場所だ。それでも、国の政策により衛星テレビが整備されていて、テレビを通じて都市の生活を知ることができるようになった。ECサイト「京東」としては、注文された以上、なんとしても利用者の家のドアまで届けなければならないのだ。

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落石、ケーブル、山道。配送スタッフに降りかかる困難。

午前9時、5人の配送スタッフが、街から車で出発をした。鸚哥村に向かう道は、当然ながら未舗装道路だ。しかも、途中で落石が道路を塞いでいるため、大きな石をスタッフがどかさなければならなかった。

午前11時、鸚哥村の対岸までたどり着いた。ここから先は車ではいけない。ケーブルを使って対岸に渡るしか方法がないのだ。金沙江にかかるケーブルで、全長470m、水面からの高さは260mもある。アジアで最も高いケーブルだという。ケーブルに乗ること6分で対岸に着くが、ここからは徒歩しか方法がない。冷蔵庫と2台の洗濯機は、5人のスタッフが交代で担いで歩いていくしかないのだ。

山道を登ること2時間、ようやく鸚哥村に着いて、注文した家を訪ねて、配送が完了する。購入した楊さんは、中国日報網の取材に応えた。「何軒もの電気店を調べましたが、どこも鸚哥村への配送を断ってきました。家まで届けてくれるのは、京東商城だけだったのです。これからもお願いしたいと思っています」。

配送スタッフは言う。「確かに鸚哥村への配送は大変です。でも、ここの村の人は温かいご飯とお湯を飲むことも大変で、カップ麺やミネラルウォーターもほとんどの人が口にしたことがありません。それが、今ではネットで注文できるようになったのです。大変ですけど、とても意義のある仕事だと思っています」。

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▲鸚哥村までは、2時間の未舗装道路しかない。途中落石などがあり、それをどかしながら前に進む。3台の家電を配送するのに、5人のスタッフが必要になる。

 

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▲車では途中までしか行けない。金沙江が土地を深く分断しているからだ。ここは川面から260mの高さを走るケーブルで対岸に渡るしかない。

 

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▲さらに2時間を徒歩で行く。配送品はいくら重くても人が交代で担いで行くしかない。

 

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▲道はほとんどが登りで、村に近づくと急な階段が多くなる。ここは、1人では無理で、手の空いている配送スタッフがサポートしながら、前に進む。

 

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▲ようやく購入者の家が見えてきた。中国の農村部でも、政府の政策により、水力、風力などの発電設備が備えられていて、電気は豊富に使えるところが多い。そのため、家電製品に対する需要は意外に強い。

 

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▲ようやく到着。あとは梱包を解いて、設置をしたら、すぐに帰らないと日没までに街に戻れなくなってしまう。これだけの労力をかけるぐらいであれば、ドローンによる無人配送にしようという発想は自然に出てくる。

 

都市と農村のデバイドを解消するために、無料配送をする京東

昨年4月に、京東は、この地区をカバーする京東幇服務店を開店した。ECサイト「京東商城」の商品を代理購入してくれる店舗だ。京東では、この店舗はネット時代の小売革命を進めるための社会的責任を担っているとして、配送料は無料で注文を受け付けている。月に100件程度の注文があるという。

中国は、ITにより国が2つにデバイドされてしまっている。都市部では、ほとんどのサービスがスマートフォンを通じて利用するようになり、支払いは現金ではなくスマホ決済というのがごく当たり前になっている。しかし、農村部ではまだまだ現金決済が主流で、実体店舗はコスト高を嫌って撤退を始めている。都市はますます便利になっているが、農村はますます不便になっているのだ。

京東幇服務店は、この不公平を解消しようとする社会起業の側面も持っている。しかし、それにしても3台の家電を配送するのに、5人のスタッフが5時間をかけて配送する。スタッフは村でゆっくりしていたら、その日のうちに街に戻ることも難しくなる。

このような地域に、ドローン配送を導入しようというのはごく自然で切実な発想なのだ。

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