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銀聯カードの時代は終わるのか。スマホ決済の最終決戦が始まった

アリペイ、WeChatペイの登場で、あっという間に中国の電子決済の主流になったQRコード方式。デビットカードで一時は主役になった銀聯カードは急速にシェアを落としているが、ここにきて、銀聯QRコード方式のスマホ決済に対応して巻き返しを狙っている。スマホ決済の最終決戦の行方はどうなるのか。界面が報じた。

 

今やシェア1%になってしまった、かつての主役「銀聯

銀聯は、中国の40数行の銀行が連合したデビットカードで、クレジットカードの普及が進まなかった中国で、電子決済の主役になった。いわゆる海外で“爆買い”をする中国人旅行者の決済手段は銀聯カードで、日本の商店も続々と銀聯に対応するほどだった。

しかし、現在、中国国内の銀聯の電子決済シェアは1%程度に急落してしまい、海外でもスマホ決済であるアリペイ、WeChatペイの対応が進むにつれて、シェアを爆下げ中だ。以前の輝きはまったく失われている。

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▲すでに懐かしい爆買いの風景。日本製品は優秀、日本製品は安い、日本製品は美しい。来日した中国人観光客は大量の日本製品を購入していた。その時の決済の主役は銀聯カードだった。しかし、銀聯はもはや主役の座から転落し、通行人エキストラ程度の影響力しかなくなっている。

 

NFCQRコードか。ApplePayか独自アプリか。迷走する銀聯

銀聯は、完全に迷走をしている。一昨年にはNFCに対応し、非接触カードを配布し始め、さらにはApplePayにも対応。NFC技術を使って、次世代カード、スマホ決済に移行するのかと思えば、昨年末にはアリペイ、WeChatペイと同じQRコード方式を発表した。

しかし、すでにアリペイとWeChatペイで、スマホ決済市場の93%を握られているという中国で、銀聯はシェアを伸ばすことはできないままでいる。

今年、3月末になって、銀聯の時文朝(じ・ぶんちょう)総裁は、43%としていた2017年の成長目標を20%に下方修正すると発表した。

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▲以前は、日本でも見かけた銀聯ユニオンペイのロゴ。最近は、あまり見かけなくなっていることにお気づきだろうか。

 

不発に終わった独自キャンペーン、ApplePayキャンペーン

その後も、銀聯の施策はパッとしない。6月8日の児童節(子どもの日)を中心にした1週間、「68活動」キャンペーンを実施した。銀聯カードを使って提携店舗で決済をすると、商品が68%の価格で購入できる(つまり32%オフ)、新たに銀聯に加入すると16元(約260円)のキャッシュバックなど、今ひとつインパクトに欠けるキャンペーンだった。

銀聯では、この期間中に、新規加入者が通常の402%になり、決済数は通常の308%になったと発表した。多くのメディアから「比率ではなく、実数を公開してほしい」と注文がついたが、銀聯は未だに具体的な数字を公表していない。想像に難くないのは、加入者や決済数の元の数字が、公開できないほど惨めな数字になっているのではないかということだ。

さらに、銀聯が提携している7月のアップルのApplePay夏の大キャンペーンに期待をしたが、こちらも多くのメディアが完全な不発に終わったと見ている。

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最初にQRコード方式を研究したのは銀聯だった

銀聯の凋落が、アリペイの爆発的な躍進にあることは間違いないが、銀聯の底力は侮れない。

米フォーブズ誌が発表した「世界有力企業2000社」ランキングでは、第1位「中国工商銀行」、第2位「中国建設銀行」、第6位「中国農業銀行」、第8位「中国銀行」と、中国の銀行がトップテンに4行もランクインし、アップル(9位)やトヨタ自動車(10位)を抑えている。銀聯は、このような銀行集団をバックにしているため、体力の面では、いくらアリババとは言え、正面から消耗戦を仕掛けることは難しい。

皮肉なことに、一世を風靡しているQRコード決済を最初に研究開発したのは、銀聯だった。磁気ストライプ型カード、接触型ICカード(カードリーダーに差し込んで、テンキーで暗証番号を入力する方式)として始まった銀聯カードは、次世代の非接触型カードとしてNFCスマホ決済としてQRコードの研究開発を進めていたが、世界の趨勢がNFC非接触カードやNFCを利用したスマホ決済に向かうのを見て、NFCに一本化することを決断した。この判断は、決して間違っていたとは言えない。金融業界としては、当然の判断でもあった。

 

タオバオの詐欺防止のために導入されたアリペイ

アリペイは、元々、アリババが運営するECサイトタオバオ」内で使えるポイント通貨にすぎなかった。タオバオは、個人でも自由に出店できる個人間取引を重視したECサイトであったため、詐欺事件が多発していた。しかし、当時は、商品を注文したら、先に銀行振込やカード決済で支払いを済ませ、商品が到着するのを待つという方式なので、消費者は詐欺被害を防ぐ方法がなかった。

そこで、タオバオは独自のポイント通貨「アリペイ」を導入した。口座の管理は、アリババが行うので、凍結や没収ということが自由にできる。消費者は、アリペイのポイントを購入し、それで商品を購入する。もし、商品に問題がある場合は、顧客センターに通報をすれば、問題のある業者の口座をすぐに凍結してしまい、消費者にはアリペイで返金をする。そもそもは、タオバオの利用者を保護するために始めたのだ。

このアリペイは、アリババが運営、提携する旅行サイト、航空機チケット販売サイト、ゲームサイトなどに広がっていたが、ネットの外に出ることはなかった。

 

銀行が変わろうとしないのだったら、私が銀行を変える

アリババのジャック・マー会長は、当時から銀行に大きな不満を抱いていた。消費者が気軽に送金をできる仕組みになっていない。銀行振込は、届くのが1日ほどかかることもあった。銀聯カードは、商店側は手数料が5%(現在は競争により大幅に下がり0.38%が標準)も取られ、なおかつ支払いサイトは1ヶ月に1回(現在は最短3日)だった。1ヶ月分の収入を月締めで計算され、まとめて振り込まれる。これでは、毎日食材を現金仕入れしなければならない飲食店などでは、資金がショートしてしまい、経営が成り立たない。

そして、2008年、リーマンショックに端を発した金融危機が起こる。中国経済も大きな打撃を受けた。ジャック・マー会長はあらゆる場所で、銀行の旧態依然としたやり方が、ビジネスの発展の大きな足かせになっていると発言して、銀行のサービスを改善するように促したが、体力がある銀行は何も変えようとせず、金融危機が頭の上を通り過ぎるのをただじっと待つだけだった。

ジャック・マー会長は「銀行が自分で変わろうとしないのだったら、私が銀行を変える」と宣言して、アリペイを、外部の商店にも普及させる活動を始めた。

 

手数料、支払いサイト、初期投資で圧倒したアリペイ

圧倒的だった。手数料は0.1%から。支払いサイトは即時。導入時に必要なものは、アリペイのアカウントとスマートフォンだけ。審査も不要。一方で、銀聯を導入するには、専用のカードリーダーと認定済みのPOSレジが必要で、さらには店舗ネットワークのセキュリティ基準をパスしなければならない。個人商店には費用的にも人的資源的にも無理な話だ。

ある銀行関係者は、界面の取材に応えた。「銀行業界は、決済効率と安全性を天秤にかけると、安全性をなによりも優先せざるを得ません。銀聯は、監督官庁の厳しい監督のもと新しい技術を投入していきますが、スマホ決済は新しい手法であるため、監督官庁の体制が整うまでの空白期間がありました。この空白期間の間に、スマホ決済はシェアを大きく伸ばしてしまったのです」。

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銀聯NFCQRコードに対応し、スマホ決済に進出する。しかし、銀聯専用リーダーを販売しているあたり、先行きは不安だ。アリペイ、WeChatペイは、QRコードを紙に印刷するだけでも対応できるという手軽さが商店に歓迎されたのだ。

 

第二創業。勝負をかける銀聯総裁

銀聯の時文朝総裁は、銀聯内部でこう語ったと言われる。「資金力があり、高度なシステムがあり、リスク対応能力も高い金融機関が、このスマホ決済時代にリーダーの地位を占められないわけがない」。

そして、時文朝総裁は「第二創業」と称して、銀聯内部、さらには金融機関の大改革に挑む姿勢を明らかにした。

銀聯は、QRコードスマホ決済で、アリペイ、WeChatペイと真正面から対決する。しかし、界面を始めとする各メディアは「遅すぎた。もう93%のシェアを崩すことはできない」と論評している。

つい最近まで、来日する中国人旅行客の誰もが手にしていた銀聯カード。“爆買い”の象徴だった銀聯カード。あの輝きは過去のものになってしまうのだろうか。