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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の新小売革命を阻む農村という大きな壁

大手ECサイト企業、アリババと京東商城は、それぞれに農村地区に実店舗を出店する大規模な計画を進めている。しかし、利用率が上がらず、その計画に支障が出かねない状況になっていると、今日頭条が報じた。

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▲農村で見かける農村タオバオの広告。改革開放以前の社会主義スローガンが壁に描かれているのと同じセンスの広告。農村には、まだ50年前の時間が流れていることを象徴する写真として、中国国内で話題になった。

 

 

新たに生まれている都市と農村の電子決済デバイド

中国の都市部では、スマートフォンの普及率が95%越え、ほぼすべての商店、サービスがアリペイ、WeChatペイのスマホ決済に対応するという無現金都市になっている。一方で、農村地区は未だに現金が主流の社会で、農村と都市のテクノロジー格差は、急速に拡大している。

2016年、中国のスマホ決済額は58.8兆元(約964兆円)で、これは全体の消費支出額の42.2%。しかし、スマホ決済加入者は約5億人で、中国の人口14億人の35%でしかない。つまり、無現金都市、新小売革命は大都市で突出して起きていることで、農村には無縁の現象であることが推測される。

一概に比較をすることはできないが、総務省の家計消費状況調査年報(平成28年)によると、日本の2016年の電子マネー保有世帯は48.7%、平均利用額は月1万6133円。これは平均消費支出額24万円の7%程度にすぎない(この他に、クレジットカードや銀行引き落としもある)。

中国に比べてあまりに低い数字だが、日本の電子マネーの利用の特徴は、都市部と地方の格差が小さいことだ。利用者の年代も比較的高い。もっとも利用額が大きいのは50歳代で、70歳以上も平均で月1万3124円を消費している。日本の電子マネーが、全国津々浦々に出店し、地域の日用品供給の重要な拠点になっているコンビニを中心に普及をしていることを考えると納得がいく。日本の電子決済は、数字だけを見ると、中国に大きく立ち遅れてしまっているが、平均的に健康的な成長をしていると言える。

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▲京東商城が運営する京東便利店。ECサイト「京東商城」の商品の代理購入をしてくれる。5年で100万店舗出店の計画が立てられているが、実現が難しくなってきている。

 

農村の新小売革命の拠点となる農村コンビニ

一方で、中国の農村は、電子決済比率は低いものの、スマホ普及率は意外に高く、中国全体で65%ほどがスマホユーザーだ。農村部では、インターネット回線が少なく、PCも手軽には利用できないため、スマホを利用する人が結構多い。数百元(約5000円程度)の格安スマホも市場に出回っていて、農民にとっては「最もお金のかからないインターネット」になっているからだ。

ここに目をつけ、都市と農村の新小売革命格差を解消しようと、アリババは「農村タオバオ」、京東商城は「京東便利店」の出店を進めている。主な業務は代理購入だ。農民が店を訪れて、タオバオや京東商城のECサイトを閲覧し、購入したいものを選ぶ。その商品を店舗が代理購入をし、配送も店舗に行われる。購入者は連絡を受けて、店舗に取りに行き、代金を現金で支払うというものだ。

アリババは、2014年から「農村タオバオ」の出店を進め、すでに10万店舗を開設している。京東商城は今年から出店を始めたが、5年で100万店舗の計画を打ち出している。農村と呼ばれる地区は200万あるとされ、その半分をカバーする計画だ。

アリババや京東商城が狙っているのは、ECサイトの販路拡大だけではない。農村への物流拠点として活用することも狙っている。ECサイトの商品だけでなく、通常の宅配荷物も配送し、農村店から各戸へ配送することを計画している。アリババのジャック・マー会長は「7年以内に、中国全土での24時間配送を実現する」と発言している。また、この店舗を拠点にアリペイなどのスマホ決済の普及も狙っている。つまり、単なるECサイトの農村店ではなく、都市部で起きている新小売革命を農村に広げる拠点にしようとしているのだ。

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▲農村タオバオECサイトタオバオ」の商品を代理購入してくれる。農村の新小売革命の拠点にしようと、すでに10万店舗が営業している。

 

農村の消費行動を変えるのは簡単ではない

しかし、京東商城の出店計画の責任者が今年6月に辞職をした。今年の出店目標である50万店が達成できそうもないというのが原因だと推測されている。出店は直営方式ではなく、地元の有志によるフランチャイズ方式だ。そのため、運営コストは各店舗の経営者が負担をする。売り上げが上がらずに、コストだけかかり、経営に行き詰まってしまう店舗経営者も現れ始めている。

記者は、農村の店舗経営がうまくいかない原因を3つあげている。ひとつは消費者の年代の問題だ。農村では、50歳以下の人は都市部に出稼ぎに行っていて、農村にいるのは年寄りと子どもばかり。年寄りは、農村の公共市場である小売部に商品を買いに行く習慣があり、それを変えようとしない。小売部の店員と顔なじみになっていて、買い物をするときにおしゃべりも楽しむという余暇のひとつになっているからだ。

二つ目は消費習慣の問題だ。農民は「なくなったら買いに行く」という消費行動パターンを持っている。例えば、食用油を使おうと思って、なくなっていることに気がついたら、それから小売部に行って買ってくるのだ。夜など、購入できない時間帯の場合は、隣の家から借りたりする。それでじゅうぶん間に合っていた。

しかし、農村タオバオなどの場合、商品を注文してから、到着するまでに数日かかる。その間は、我慢をしなくてはならず、農村の消費行動とうまく噛み合わないのだ。事前になくなることを予測して、注文をするという行動に変えるには、まだまだ時間が必要だ。

もうひとつは配送コストによる価格の問題だ。確かに農村タオバオを利用すれば、自分の好きな商品を買うことができる。テレビであれば、「この機種」という指名買いができる。しかし、1台のテレビをわざわざ店舗に配送するために、配送コストがかかり、その価格は販売価格に転嫁されている。そのため、どうしても価格が高くなりがちなのだ。

一方で、農村にある実店舗では、一括して商品を仕入れるので、1商品あたりの配送コストは安く済む。農民は、店舗が仕入れた数種類の商品の中から選ぶしかなく、選択肢はとても少ないのだが、そこに不満を持つ農民はまださほど多くない。「テレビならどこのでもかまわない」「洗濯機ならなんでもいい」といった買い方が多く、それよりも店舗の主人との人間関係の中で、「店主が薦めるものを買う」という買い方がまだまだ多い。

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▲閉店された京東便利店。農民の消費行動を変えるのは簡単ではなく、経営に行き詰まる店舗も現れている。

 

農村の格差を解消して、無現金国家を実現できるか

アリババ、京東商城とも、今の施策のままで、計画目標が達成できるとは考えてなく、さらなる工夫が必要だとしている。需要予測システムを構築して、店舗がある程度の在庫を持つようにする、既存の小売部と業務提携をするなどの工夫が始まり、また、出かける足のない老人や遠方に住んでいる人たちのために、日用品を積んだワゴン車の移動店舗をつくり、配送と巡回店舗を兼ねるなどの試みも始まっている。政府もこの出店計画を後押ししている。なぜなら、農村タオバオや京東便利店を核にスマホ決済が普及をすれば、中国全体を電子マネー社会に進化させることができるからだ。それは、政府がすべての金の流れを把握できるということであり、金融犯罪や脱税といった問題を解決することができるからだ。

世界でも最先端を走る無現金都市だけでなく、中国は無現金国家となることができるだろうか。この農村店の計画の成功いかんによって、無現金国家への道が見えてくる。

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▲農村タオバオの店内。店主が、利用者に変わって、ECサイトの商品を注文。荷物の受け取りを行う。利用者はアカウントがなくても利用でき、支払いも現金で行える。