中国で圧倒的なシェアを誇るスマホ決済、アリペイ(アリババ)が、2018年春に、日本に本格上陸をすることになった。訪日中国人観光客用ではなく、日本人が日本国内で利用できるアリペイになる。3年で1000万人のユーザー獲得を目指すと中新経緯が報じた。
中国の電子決済額は日本の40倍以上
アリババが運営するスマホ決済「アリペイ」は、現在中国でのスマホ決済の55%のシェアを握っている。もうひとつ有力なWeChatペイが37%で、このふたつでスマホ決済の92%を握っている。
そのアリペイが、2018年春に本格的に日本上陸をする。野村総合研究所の調査では、日本の2017年の電子決済額は5.6兆円と見込まれているが、中国の2017年のスマホ決済額は15兆元と見込まれていて、これは約247兆円になる。つまり、中国のスマホ決済額は、日本の電子決済額すべての44倍の規模なのだ。
アリババは、日本の電子決済の額は、日本の経済規模に比べて低すぎると感じていて、アリペイが成長する空間が豊富にあると考えているという。
▲アリペイはスマホ決済の55%を握っている。対面決済の40%以上がすでにスマホ決済になっていて、人口の半数が住む農村部ではほとんどスマホ決済が普及していないことを考えると、都市部では70%以上がスマホ決済になっていると推測される。
日本人が日本国内で使えるアリペイを投入
すでに、日本にも、訪日中国人観光客のためのアリペイは普及をし始めている。2017年末には加盟店が5万店に達する見込みだ。しかし、これはあくまでも中国人のためのもので、日本人は利用できない。
2018年春にスタートさせるのは、日本人のためのアリペイで、当面は日本国内でしか利用できないが、順次、中国のアリペイと統合し、中国をはじめとするアリペイ普及国で利用できるようにしていくとしている。
導入ハードルが極めて低いQRコード方式
アリペイが日本で普及するかどうかは、今のところ、各専門家とも沈黙していて、まったくわからない。爆発的に普及をして、日本の現在のおサイフケータイや電子マネーを駆逐してしまう可能性もあるし、まったく普及せずに数年で撤退することになる可能性もある。
ポジティブな要因としては、QRコード方式のスマホ決済であるということがある。スマホに表示したQRコードを読み取って決済する方式なので、店舗側にはカードリーダーなどの新たな機器がいらない。導入のハードルは極めて低い。
また、従来のカード決済の場合、利用客のパスワードを含めたカード情報を、いったん店舗側が預かってカード認証をする仕組みであるため、店舗側のネットワークにも高いセキュリティが求められる。小規模店舗にとってはこの負担も大きい。
一方で、アリペイは、店舗側に渡されるのは利用客のIDのみで、パスワードは自分のスマホ回線を使ってサーバー認証する仕組みであるため、店舗側のセキュリティレベルは無関係だ。そのため、店舗側はごく普通のネット回線を用意するだけでかまわない。
審査不要のアリペイ
もうひとつ大きいのが、アリペイは中国の分類によると第三方支払い、従来のクレジットカードなどは第四方支払いとされ、仕組みのそのものが異なっていることだ。第三方というのは、当事者が3人いるという意味で、消費者、店舗、アリペイの3者だ。クレジットカードなどの第四方は、消費者、店舗、カード会社、銀行の4者が関わる。
ポイントは、従来の第四方方式は、厳密に言うと「立替払い」であるということだ。消費者が店舗でカード決済をすると、カード会社は”立替払い”をして、店舗に支払いをする。その後、消費者の口座がある銀行に支払いを要求する。このタイムラグがあるために、消費者、店舗ともに審査が必要になる。立替払いをした段階で、逃げられてしまったら、カード会社は取りっぱぐれてしまうので、信用のある人しか会員や加盟店にできない。
ところが、アリペイの第三方は、消費者が支払いをすると、アリペイは消費者の口座の資金を店舗の口座に移動させるだけで、立替払いのようなことはしない。このため、信用度のない人、加盟店であっても、まったく問題なく、審査をする必要がない。
事実、アリペイを使うには、スマホにアプリをダウンロードして、他のネットサービスと同じようにユーザー登録をするだけで、数分後には利用できるようになる。支払いをするには、銀行口座などから資金を移動させる必要があるが、店舗のように受け取るだけなら、ユーザー登録だけですぐに利用できるようになるのだ。
「使えるかどうかを事前に確認」が最悪のユーザー体験
よく「電子決済は現金よりも圧倒的にスムース」という人がいるが、それはレジでの体験だけを考えた場合の話で、「支払い手段として利用する」という視点で見ると、電子決済は決して使いやすいツールとは言えない。
最大の問題は、「使う前に、この店で使えるかどうかを確認しなければならない」という面倒くささだ。もうひとつ、プラスティクカードの場合、「枠残高がはっきりとわからない」という問題もある。このユーザー体験が悪すぎるので、必ず決済することができ、財布を開けば残高が一目瞭然の現金を好む人が日本では多い。
だから、カードにしても電子マネーにしても、使うのは「よく利用する店」という人が多いのではないか。この「事前確認」という悪いユーザー体験をしなくて済むからだ。また、「少額決済は現金、高額決済はカード」という人が多いのも、少額決済の店ではカードに対応していない確率が高いが、高額決済の店ではだいたいカードに対応しているからだ。
「現金が好き」と言われる日本人でも、交通カードのSuicaやコンビニの電子マネーが比較的普及をしているのは、「使えるかどうかを事前に確認」する必要がないことと、万が一残高不足であってもすぐにチャージできる環境が整っているからだ。
「ほぼ100%対応」が電子決済普及の鍵になる
アリペイが中国で爆発的に普及をしたのは、店舗の導入ハードルが極めて低いため、ほぼ100%の店舗が対応をしているため、「事前確認」をしなくて済むからであり、残高はアリペイアプリをひらけば一目瞭然だからだ。
実際、導入の簡単なアリペイは、路上で営業している屋台でも対応をしている。よく中国人は「スターバックス以外、すべてのお店が対応している」と言う(スターバックスは、クレジットカードやApplePayには対応しているが、スマホ決済には頑なに対応しない)。
つまり、日本で、アリペイが普及するかどうかは、中国と同じように「ほぼ100%の店舗が対応する」状況を作り出せるかどうかにかかっている。
▲アリペイは導入しやすいために、中国では露店でもほぼ100%対応をしている。この「ほぼ100%」の状況を作れるかどうかが普及の鍵になる。
中国ブランドに対する信頼性が課題になる
しかし、一方で、日本人は電子決済に対して高い信頼性を求める。クレジットカードが普及したのも、国際的なカードブランドがあったからだし、電子マネーが普及をしたのも鉄道会社やコンビニチェーンといった社会的な信頼を得ている企業が運営をしているからだ。
一方で、アリババは国際的に著名な企業になっているものの、日本での知名度は低く、しかも中国という国に対して不安感を持っている人も多い。「だいじょうぶだとは思うけど、なにか不安」という気持ちが残っている限り、日本人はアリペイを積極的に使おうとは考えないだろう。その壁をどうやって乗り越えるかが最大の課題だ。
どのような形の進出になるかが今後の課題
アリペイの海外進出業務を担っているアリ金服では、3つの戦略を立てている。ひとつは、海外旅行をする中国人と一緒に海外進出をする。もうひとつは、インドのPaytmのように、技術提供をして、ブランドは現地のものを利用する。3つ目は銀行サービスを受けられない金融弱者を中心に普及をさせていくというものだ。
現在の報道では、日本進出はこの3つの戦略のどれとも違っていて、アリペイのブランドで、一般の人への普及を狙っているように読める。しかし、今後、アリババが日本市場をより深く研究することで、日本の決済ブランドに技術提供をするインド型、あるいは金融弱者に狙いを定める東南アジア型にシフトしていく可能性もないわけではない。
2018年春までにはまだ時間がある。おそらく今年末ぐらいには、具体的な日本版アリペイの形が見えてくることになるだろう。