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防犯カメラがない無人コンビニ。万引き0件のその理由は

中国では無人コンビニ、無人スーパーの開設が相次いでいる。無人店舗の場合、いかに万引きなどの悪意を排除するかが運営の鍵になる。しかし、重慶に開設された一七閃店は、出店を半公共空間に限定することで、防犯コストをかけずに、無人店舗ビジネスを軌道に乗せたと猟雲網が報じた。

 

無人コンビニでもスタッフ0人ではない

無人スーパー、無人コンビニなどの無人店舗の場合、問題になるのは万引き防止とトラブル対応だ。

そのため、アリババ無人販売店では、カフェを併設して、そこには人間のスタッフが常駐をしている。人がいることで、悪意のある行為に対する抑止効果になっている。また、精算通路付近には、顧客センターと通話ができるインターフォンが用意されていて、精算などのトラブルが発生した場合、やり方がわからないという場合は、担当の人間と会話を交わして解決することができる。

無人コンビニBingoboxでは、将来は人工知能に移行する予定だが、現在のところは、監視カメラによる有人監視をしている。そのことは、店舗にも掲示があり、これが抑止効果となっている。また、トラブルなどに対しても、監視スタッフがインターフォンを通じて対応する。

結局、無人店舗といっても、完全に人の手から離れるということはできていないのだ。

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出店場所を選ぶことで、防犯コストをかけずに済む

重慶市のスタートアップが開設したミニコンビニ「一七閃店」は、少し変わったコンセプトで、この「最後の人の手」の役割をさらに減らした。店内に、360度カメラが1台あるが、これは来店客の監視目的ではなく、映像を監視するスタッフもいない。来店客の行動を記録し、マーケティングデータを取得するのが目的だ。

トラブル対応のためのインターフォンのようなものもない。万が一、なにかあった場合は、来店客は自分のスマホで顧客センターに電話をする。精算のためにスマホを使うのだから、電話すればいいという考え方だ。

さらに、商品にRFID(無線タグ)をつけるということもしていない。商品に最初からつけられている流通用のバーコードを利用している。来店客は、購入する商品のバーコードを自分のスマホの専用アプリで読み込んで精算する。

一七閃店は、入店する時に改札にWeChatペイのQRコードで本人確認し、店内でバーコードを読み込み、退店する時に改札にQRコードをもう一度読み込ませると、精算が行われる。つまり、意図的にバーコードを読み込ませなければ、商品を外に持ち出してしまうこともできる。

これでどうして万引きされないのだろうか。その理由は、一七閃店の出店場所にある。一般の路面に出店するのではなく、オフィスビルや小区(居住関係者以外は出入りできない高級マンション)に出店を進めているのだ。要は、公共空間ではなく、半公共空間への出店を狙っている。質の高い顧客しかいない場所だから、顧客を信用できるというわけだ。

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▲入店するには、改札にQRコードをかざす。商品は、自分でバーコードを読み取り、退店する時にQRコードをかざすと自動精算される。オフィスであるため、多くの人が購入する商品点数は1点か2点。このやり方でもユーザー体験は悪くはならない。

 

 

シェア冷蔵庫として利用される一七閃店

一七閃店の1号店が出店したのは、重慶市の両江新区にあるテンセントコワーキングスペース。大手IT企業であるテンセントが、低価格で提供するコワーキングスペースで、いわば「意識の高い人」が集まる場所。つまり、不特定多数の人に利用してもらおうと考えるから、防犯コストをかける必要が出てくるわけで、特定の、それも質の高い消費者だけに限定して利用してもらう前提であれば、防犯コストをかける必要性は薄れてくる。

一七閃店の前面はガラス張りになっており、店内の様子が外からもわかる。また、販売されている商品は、仕事中に必要となる飲料と軽食といった低価格のものが中心。これを万引きして喜ぶような人は、このコワーキングスペースにはいない。

自分で商品のバーコードを読み込まなければならないのが面倒にも思えるが、利用のほとんどは仕事中に飲む飲料で、購入商品点数は1点または2点がほとんどだ。レジ袋のようなものもなく、商品はそのまま手に持って外に出る。

つまり、コンビニというよりも、シェアリング冷蔵庫といった感覚で使われている。

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重慶市コワーキングスペースに開店した一七閃店の1号店。コンビニというよりもシェア冷蔵庫といった感覚だ。

 

売上数字は、コンビニとしては平均的なもの

猟雲網は、一七閃店のCMO(最高マーケティング責任者)エバ氏に取材した。開店1ヶ月の営業数字は、登録者数1244人、来店人数6804人、総売上2万871元(約34万4000円)、販売点数5886点となった。粗利率は27%程度で、これは通常のコンビニとほぼ同じだという。また、中国のコンビニの平均売上額は1月11万1000元(約180万円)前後で、店舗規模を考えると、売上もほぼ平均的なものになるという。

登録者は一月に平均5.5回来店し、0.86個の商品を購入し、平均単価3.5元の買い物をしている計算になる。この数字からも、ごく限られた顧客がリピートして複数回利用し、1点または2点という少数の商品を購入していることがわかる。実際、販売数が多いのは圧倒的に飲料だという。利用する側の感覚としては、日本の自動販売機に近いのだろう。

 

無人コンビニは、PB商品を展開するための拠点

無人にして人件費を省いているのに、コンビニとしては平均的な売上、平均的な粗利率で、無人コンビニにする意味はあるのか。猟雲網の問いにエバCMOは応えた。「今は試験運用の段階で、商品は既存ブランドのものだけを並べています。私たちが目標としているのはプライベートブランドの飲料、軽食を一七閃店を通じて販売することです。そうなれば、売上も粗利率も上がってくるでしょう。現在の段階で、平均的なコンビニと同等の成果をあげられたということは、今後に向けて、いいシグナルだと受け止めています」。

 

アンテナショップとしての無人コンビニ

現在、一七閃店の社員数は50人で、半数以上がエンジニアだという。直営の一七閃店を増やしていくが、一般のコンビニチェーンにも、一七閃店で使用したシステムの販売をしていく。

一七閃店は、今年600万元(約9800万円)のエンジェルラウンド投資資金を調達することに成功した。今後、2000万元(約3億2700万円)の資金調達を目指し、事業を展開したいとしている。

エバCMOは、プライベートブランドがどのようなものであるかには触れなかったが、おそらくは、高価格帯の機能性飲料、機能性食品なのだろう。一般流通よりも、一七閃店の方が安い価格設定ができるのであれば、十分に採算が取れるビジネスになる可能性がある。

日本でも、飲料流通業者が、オフィスに冷蔵庫を設置し、代金は箱の中に各自入れるという仕組みがある。あれをミニコンビニサイズに拡大したと考えると理解しやすい。コンビニは、実にさまざまな営業形態が考案できる。