中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ユーロ杯中継なのに、なぜか中国語広告だらけ。中継映像のピッチサイド広告を差し替えるDBR技術とは

ユーロ杯の中継を視聴した中国のサッカーファンは喜んだ。ピッチサイド広告が中国企業、中国語だらけだったからだ。しかし、これはリアルタイムで広告を差し替えるDBR技術が使われていることによるものだと体育大生意が報じた。

 

ユーロ杯にも中国企業が続々スポンサーに

サッカーで、ワールドカップの次に大きなイベント「UEFAユーロ2024」が6月15日から7月7日までドイツで開催をされた。欧州最強国を決めるこのトーナメントは、世界中で中継され多くのサッカーファンが視聴する。中国でもさまざまなチャンネルでライブ中継が行われ、中国のサッカーファンを熱狂させた。

UEFA EURO 2024には、中国の5つの企業が後援をしている。EC「アリエクプレス」、スマホ決済「アリペイ」、新エネルギー車「BYD」、家電「ハイセンス」、スマホvivo」だ。2016年にハイセンスが初めてスポンサーとなり、それ以来、中国企業の参加が続いている。

▲中国向け中継ではピッチサイド広告のほとんどが中国企業、中国語のものになった。

 

中国語のピッチサイド広告ばかりの謎

この試合中継を見て、多くの中国人視聴者が驚いた。サッカー場にはピッチサイド広告があるのがもはや常識になっている。しかし、その多くが中国企業で占められ、しかも中国語での広告を掲示したのだ。それだけではない。アディダス、Booking.com、カタール航空などの広告も中国語で掲示されているのだ。「まるで中国のスーパーリーグを見ているようだ」と喜ぶ人もいた。中国のサッカーファンたちは、自分の国がここまで重く見られていることに誇りを感じた。

▲同じ試合の米国向け中継では、中国語の広告はひとつもない。上は同じ試合の中国向け中継、下は米国向け中継

 

中継チャンネルごとに広告を差し替える技術「DBR」

しかし、これは中国のサッカーファンの勘違いだ。UEFA EURO 2024の中継は、ドイツ向け、中国向け、米国向け、国際映像という4種類ある。この異なる中継映像で、広告を差し替えるDBR(Digi Board)と呼ばれる技術が使われ、中国向け映像のピッチサイド広告は、中国企業スポンサーまたは中国語広告に差し替えられているのだ。そのため、現地で肉眼で見る広告と中国で中継に映る広告はまったく別物になっている。

▲まったく同じシーンであっても、中継ごとに広告が差し替えられている。

 

中継は中国語広告だが、スロー再生では現地の広告になる

中国でも注意深い人は、このDBR技術の存在に気がついたかもしれない。中継では中国企業の広告が表示されていたが、同じ場面のスロー再生になると、別の広告が表示されることがある。

これは中継ではDBRを使って中国企業の広告が表示されるが、スロー再生は契約外であるため、広告の差し替えが行われず、現地会場のリアルな広告が表示されるからだ。

さらに注意深い人は、DBRが広告の差し替えに失敗をして、vivoの広告が選手にかぶさるようにして表示された場面を目撃したかもしれない。

▲中国向け中継でもスロー再生などでは中国語広告ではなくなる。契約上、中国企業の広告表示は中継のみに限られているからだ。

▲DBR技術も時に失敗する。変なタイミングで中国のスマホメーカー「vivo」の広告が表示されてしまった。

 

DBR技術により国際大会はより市場を広げることが可能に

このように地域別に広告を差し替える技術が登場したことにより、国際スポーツ大会はより多くのスポンサーを獲得することができるようになる。中国企業も、これまでは海外進出を考えている企業だけが国際スポーツ大会のスポンサーとなってきたが、これからは国内市場をメインターゲットにする企業も国際大会のスポンサーとなり、国内向け中継だけに広告を出すことができるようになっている。このDBR技術は他のスポーツイベントからも注目をされており、短期間で多くの国際スポーツ中継に用いられることになると見られている。