スマホだけでなく、家電製品などの製造もてがける「小米」(シャオミ)。この企業は、KPIやノルマというものが存在しない超フラット組織であることでも知られる。なぜそのような組織で結果を出せるのか。創業者の雷軍が、管理しないでもいい組織をつくるには、管理しなくてもいい人を集めればいいと語ったと和牛商業が報じた。
KPIが存在しない超フラット組織「小米」
2008年、金山軟件(キングソフト)を退職した雷軍(レイ・ジュン)は、Google中国研究院の林斌(リン・ビン)副院長と知り合い、雷軍のスマートフォンに対する情熱と林斌の起業に対する情熱が結びついて、2010年、小米(シャオミ)が誕生した。
小米が成功できた最大の理由は、雷軍の独特な組織管理の考え方にあるかもしれない。KPI(重要業績評価指標)のようなものは存在しない。組織は超フラット型だ。しかし、それでどうやって大きな集団を動かしていくのか。その秘密を、雷軍自身が講演で語っている。
世の中を擬似信号で理解をする
私は完璧主義者で、他人に対する要求も厳しいと思います。今では多くの人が私と会うと、話がしやすく、心が広い人だと感じてくれます。しかし、それは社会人になってから身につけたもので、私の本質はあらゆることに対して厳格です。
私はITエンジニアなので、世界を0か1かで見ています。正しいか間違っているかで見ています。しかし、これでは世間とうまくやっていくことができません。そこで、私は世界は疑似信号でできていると考えるようにしたのです。「0に偏った信号」「1に偏った信号」から世界は構成されていると考えることで、私はものごとを柔軟に見ることができるようになり、世の中を受け入れることができるようになりました。
誰からも反対された小米の創業
小米を創業する時に、最大の問題だったのは、周囲の誰もが反対をしたことでした。その頃、私に会った人は、必ず3つの質問をします。「あなたはスマートフォンを製造するというけれど、メーカーの社長に知り合いはいますか?」。私は「いません」と答えます。「あなたはスマホを売るというけれど、小売業の社長に知り合いはいますか?」。私は「いません」と答えます。「あなたはスマホをつくった経験があるのですか?」。私は「ありません」と答えます。
最初に10人のエンジニアを誘いましたが、結局誰もきてくれませんでした。それから100人の人に声をかけましたが、2/3はその場で断られます。特にハードウェアエンジニアはまったくきてもらえませんでした。
あまりに誰もきてくれないので、私は優秀そうな人の名前を聞くと、自分で電話をかけて「会って話を聞いてほしい」と交渉しました。実を言うと、電話営業のようなことをしたのは20年ぶりのことです。
管理をしなくても動く組織をつくる
私は、キングソフト時代、数千人の組織を率いていました。その時、体得したのは、組織というのは過剰に管理してはならないということです。ですので、小米を創業する時には、どうしたら管理をできるだけしないですむかを考えました。理想はまったく管理などしていないのに、目標に向かって動く組織をつくることです。特に、この進歩が速い時代には、管理しない組織というのが重要になってきます。
この問題を考え始め、管理しないでいい組織をつくるには、管理しないでいい人を集めればいいのだということに思い至りました。ですので、4つの特性を持っている人を小米に誘うことにしました。
ひとつは当然ですが、能力がある人です。2つ目は高い責任感を持っている人です。成果がまだ現れない段階では、本人の責任感だけが原動力になります。ですので、小米が要求する責任感のレベルは非常に高いと思います。責任感がある人が集まることにより、管理というのはほとんど必要がなくなります。
強い駆動力を持ち、志を共有する
3つ目は、強い駆動力を持っている人です。この駆動力とは目標を共有する力です。組織の利益と個人の利益が一致をすることで、組織は駆動をしていきます。簡単に言えば、志を同じくすれば同じ道を歩むということです。
小米を創業した最初の1年間、私は自分の時間の80%を面接に費やしました。その中で、あるハードウェアエンジニアの方と合い、その人は実績もあり、能力も高く、私はぜひ小米にきてほしいと思い、1週間に5回も会いました。しかも、毎回10時間ほど一緒に食事をして酒を飲み話をしました。3ヶ月の間に17、8回は会ったと思います。そして最終的にその人は小米に転職することに応じてくれました。
その最後に、私は「小米の株式をどれほど欲しいか?」と訪ねました。その人は「気にしていない」と答えました。この一言で、私はこの人は小米には合わないのではないかと思い直しました。
創業メンバーになるのであれば、株式を要求するのは当然のことです。株式を持つということは組織に対して責任感を持つということです。小米が利益を出すことで、個人の報酬も増えます。この、組織と個人の利益が一致をすることが強い駆動力となるのです。株式のことを考えていないというのは、会社に対して責任を持とうとしないし、組織と個人の利益が一致をしないため、組織の目標と個人の目標がずれてしまうことも起こります。
この人の面接には膨大な時間をかけましたが、時間の無駄になってしまったとは思いません。人を見極めるのにどれだけ時間をかけてもかまわないのです。「三顧の礼」という言葉がありますが、私は人を採用するには「三十顧の礼」でも足りないぐらいだと思っています。
優秀な人でも価値観が合わなければ断る
4つの特性の最後は価値観が共有できる人です。2015年に、ある経営層に入る人を面接したことがあります。素晴らしい経歴の持ち主でした。しかし、私は採用しませんでした。
面接の時、彼はメーカーの重要なポジションにいて、900万ドルだった売り上げを4年で2億ドルに成長させた経験を話してくれました。麦わらを金の延べ棒に変えたという話で、それは素晴らしいものです。きっとどこの企業でも欲しい人材でしょう。でも、小米の価値観には合いません。
私たちはデジタルの世界での農民で、毎日少しずつ田畑を耕し、少しずつ収穫をします。その積み重ねによって成長していくのです。これは価値観の問題であり、どちらが正しいということではありません。しかし、小米はそういう集団であり、異なる価値観を持つ人は能力を発揮できないでしょう。
優れた組織をつくるには、人選びがすべて
このような4つの特性を持った人が集まり、超フラットな組織で、小さなチームに分かれて仕事を進めていきます。そのチームの中では、細部にわたって情報が共有できている。そういう組織であれば、会議、プレゼン、報告の多くは省くことができるようになり、業務が前に進んでいくようになります。
ですので、小米は他の企業に比べて、報告書、会議が少なく、KPIも必要としていません。KPIなどなくても、仕事を進める人の集まりだからです。強い組織をつくるには、組織の形や仕組みではなく、どのような人を集めるかがすべてです。