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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アップルの生産拠点は中国からインドへ。そして再び中国へ。アップルが描くアジアサプライチェーンの布陣

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今回は、iPhoneの生産拠点についてご紹介します。

 

アップルのスマートフォンiPhoneの生産拠点がインドから中国に戻ることが決まりました。すでに生産拠点は河南省鄭州市に戻り、iPhone16を中心とした生産が始まっています。

インドで生産されたiPhon15は全体の7%程度で、インド、そして中国と欧州にも出荷されていました。しかし、返品率がかつてないほど大きくなったと言われます。このような問題から、ティム・クックCEOが中国に飛び、サプライチェーンを直接見直しし、慣れている中国生産に戻すことにしたと報道されています。

特にiPhone16では、カメラレンズの配置がそれまでの対角線から直列配置に変わります。これは外装だけでなく、内部の基盤レイアウトも変わるということで、そのままインドでの生産を続けるとさらに返品が起きてしまうことを懸念したとも言われています。

そもそも、アップルはなぜ生産を中国からインドに移そうとしたのでしょうか。そして、なぜわずか数年で中国に戻すことになったのでしょうか。よく、「生産拠点は人件費の安いところに移っていく」と言われ、これは一面の真実ですが、その比重は時代とともに小さくなっています。なぜなら、現代の生産工場は高度に自動化が進んでおり、必ずしも大量の人員を必要とするとは限らないからです。人件費の単価が下がっても大きなコストダウンにはならなくなっています。もはや工場の移転は、人件費以外の理由の方が大きくなっています。

この、アップルの中国からインドへ、そして再び中国へという顛末を見ることで、今後の世界の工場がどのような要因で動いていくのかを理解することができます。また、インドの生産拠点としての問題点と可能性も知ることができます。

 

日本のメディアは良心があるため報道をしていませんが、中国、台湾、香港などのメディアでは、アップルのインド撤退に関して、ちょっと信じられないニュースが報道されました。断定的に書いているメディアはないものの、「~という話もある」という書き方で報道されています。

それは、インドのフォクスコン生産工場では良品率が50%でしかないというもので、さらには欧州市場で基準を超える大腸菌が検出されたという内容です。ちょっと信じられない話なので、出所がどこなのかを調べてみました。その発信源を突き止めることまではできませんでしたが、最も早くこの話を報じているのは、チェコのGizChinaというメディアです。

 

https://www.gizchina.com/2024/07/24/apples-shifting-supply-chain-strategy-a-return-to-china/

▲「アップルのサプライチェーンの再編成:インドでは課題に直面し、中国に生産を回帰」という記事。チェコで中国のガジェットを中心に発信するメディアの記事。

 

中国製のガジェットとその関連ニュースを紹介するメディアのようです。

この7月24日の記事「アップルがサプライチェーンを再編成」に次のような記述が出てきます。

 

Despite these efforts, Indian factories still face many problems. They rely heavily on parts from mainland China, which affects both quality and efficiency. Also, Indian factories have low iPhone yield rates (only about 50%) and hygiene issues, including high E. coli levels. These problems hurt product exports to Europe and mainland China, impacting sales.

(このような努力にもかかわらず、インド工場は多くの問題に直面している。中国からの部品供給に深く依存をしているため、品質と効率の両方に影響を与えている。さらに、インド工場はiPhoneの低い歩留率(50%前後しかない)や、高い大腸菌レベルという衛生問題を抱えている。このような問題は、欧州と中国に輸出される製品に損害を与え、セールスにも影響している)。

 

というものです。このGizChinaの記事が出所なのかどうかまではわかりませんが、これ以降、香港メディアがこの問題を報じ始め、台湾メディアが追いかけ、それから一気に中国メディアが取り上げるようになりました。

さすがにこの内容は理屈に合いません。フォクスコンなどのEMS企業は、アップルなどの発注元企業とは「1台納品していくら」という契約をします。つまり、不合格品を出してもかまわないけど、その無駄になった製品は自腹で処理をしなければなりません。そのため、フォクスコンに限らず、どのような生産工場であっても、まずテスト生産を行い、そこで普通は良品率が90%とか95%に達しない限り、本格生産には入りません。生産を始める前に、テスト生産で問題を徹底的に洗い出すということをします。

また、大腸菌云々もちょっと常識ではあり得ない話です。iPhoneのような精密機器を製造する工場は、クリーンルームとまではいきませんが、チリやホコリの類でも製品に影響を与えるため、外気フィルターを設置し、作業者は清潔な作業着を着て、帽子をかぶることになっています。フォクスコンは、中国でこのような運営を散々やってきているわけで、インドでも同じスタイルでやっています。

 

報道が広がったこともあって、フォクスコンの親会社である鴻海の劉揚偉会長が、メディアからの質問に答える形で、このような報道を否定しました。

 

https://money.udn.com/money/story/5612/8181538?from=edn_search_result

▲台湾「経済日報」の記事。

 

劉揚偉会長は次のように語っています。

「インドでの製造と中国での製造には大きな違いはありません。いろいろ言われていることの多くは事実ではありません。もし、歩留率が50%であったらもっと早くに撤退しています。私たち鴻海が撤退を考えるだけでなく、クライアント(※アップル)からも撤退しろと迫られるでしょう」。

 

このような話が出てくる理由はなんとくなくわかります。なぜなら、フォクスコンがインドで生産を始めたばかりの頃、外装部品をインドのタタグループ系のサプライヤーが製造をしていましたが、ここが問題を抱えていて、フォクスコンに納品される外装部品の50%が不合格になり、テスト生産がなかなか進まないということがありました。その後、本格生産に入っているのですから、この問題は解決されたはずです。この話が、歪んで業界を伝わり、このような話になったのではないかと思います。

また、大腸菌の話にも思いあたるフシがあります。2023年8月に、ニューヨークポストがちょっと気になる記事を報じているのです。

 

https://nypost.com/2023/08/17/apple-watch-fitbit-wristbands-carry-shocking-levels-of-bacteria-experts/

Apple Watch, Fitbit wristbands carry shocking levels of bacteria: experts

(アップルウォッチ、フィットビットなどのリストバンドには、衝撃的なレベルのバクテリアがいる:専門家)

 

確かに気をつけた方がいいことなのかもしれませんが、これはアップルウォッチやフィットビットだけに限ったことではなく、どのような時計のリストバンドでも同じことです。

ただし、スマートウォッチは、睡眠トラッキングのために24時間ほとんどつけたままになることや、アクティビティトラッキングのために汗をかく状況でもつけるため、腕時計よりもより気をつけて衛生を保つべきだということは確かです。また、記事によると、バクテリアが繁殖しやすいのは「布>プラスティック>ゴム>革>金属」の順だったそうです。また、一般的な消毒に使われる70%アルコールを吹きつけることで多くのバクテリアを除去できるそうです。

それ以来、除菌機能のあるリストバンドなども人気になったりしているので、この話が回り回って、インド産iPhone大腸菌話になっているのではないかと思います。

 

このような話は確度の低い噂話の類ですが、欧州と中国でiPhone15の返品が多かったことは事実です。セールスにも悪い影響を与えたことは間違いありません。

「vol.232:中国市場でiPhoneのシェアが急減。2世代遅れのファーウェイが性能でiPhoneと肩を並べることができている秘密」(https://tamakino.hatenablog.com/entry/2024/06/09/080000)でもご紹介したように、iPhone15の中国での売れ行きは、ファーウェイが復活したことも重なって、アップルが初めて経験する前年比-19.1%(2024Q1)という悲惨なものでした。

ところが、数はもちろん少なくなりますが、上位機種のiPhone 15 Proの販売台数は前年とあまり変わっていないのです。私は、Proを購入するような人は、アップルの熱心なファンであり、ビデオ撮影に必要など用途が明確にあるからだと解釈しましたが、今考えてみると、iPhoneノーマルはインド製、Proは中国製ということもあったのかもしれません。

アップルは2000元前後の大幅値下げをすることにより、なんとかiPhoneの販売を例年並みに戻すことができましたが、大きな挫折を味わうことになりました。

 

では、そもそもアップルはなぜインドで生産をしようと考えたのでしょうか。これが第1の疑問です。そして、なぜインド生産は失敗(一部は残る)したのでしょうか。これが第2の疑問です。

この2つの疑問について理解をすると、今、東アジアのサプライチェーンがどのような力学で動こうとしているのかがわかってきます。

今回は、アップルのインド撤退、中国回帰についてご紹介します。

 

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