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百度の復活の兆し。ロボタクシーと対話型AI。完全復活に超えなければならない3つの壁とは

百度の2023年度の決済が好調だ。純利益は前年から39%も増加をした。ロボタクシーと対話型AI「文心一言」が収入をあげ始めているからだ。しかし、本格的な成長には3つの壁を乗り越える必要があると虎嗅が報じた。

 

百度の決算が好調。ロボタクシーと対話型AI

百度バイドゥ)の2023年の決算が発表され、その好調ぶりが明らかとなり、百度の復活を印象づけた。営業収入は1345.98億元となり、純利益は287億元、成長率は39%となった。

好調の要因のひとつはロボタクシーの営業開始だ。2023年、乗車件数は500万回を突破、第四四半期には前年同期比49%もの増加を示した。

百度の復活に大きく貢献したのが、対話型AI「文心一言」だ。創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)CEOはこう述べている。「私たちは文心一言からの収益を増やし始めました。2024年は、AIクラウドとその広告から数十億元にのぼると予想しています」。

決算説明会では、李彦宏CEOは、2023年第四四半期のクラウド事業の営業収入が84億元であり、文心一言が6.5億元の増収をもたらしたと述べた。文心一言による収入はクラウド事業の8%にあたる。

百度の2023年の決算は、純利益が前年比39%増加した。ロボタクシーと対話型AIからの収入が増え始めている。

 

対話型AIをサムスンやオナーなどにも提供

文心一言のマネタイズでは、課金の他に広告モデルを考えている。どのような形になるかは社内で議論が進んでいるが、文心一言アプリにバナー広告を出すという基本的なスタイルから始まるようだ。一部の報道によると、すでに百度はさまざまな企業に広告出稿の営業活動を始めているという。

百度によると、文心一言の1日あたりの利用件数は第四四半期には5000万件を超え、前期から190%の増加となった。企業利用も2023年末で2万6000社に達している。

さらに、百度が進めているのが文心一言のスマートフォンへの搭載で、すでにサムスン、栄耀(オナー)などが搭載をしている。サムスンフラグシップ機であるGalaxy S24に搭載をし、カスタマイズをした上でGalaxy AIという名称で、AIスマートフォンをウリにしている。アップルも中国向けiPhoneに文心一言の搭載に向けて協議を始めている。

 

百度が乗り越えなければならない3つの壁

百度は対話型AI「文心一言」を中心に、企業利用への課金、他社への提供、消費者に向けた広告という3つのマネタイズ方法を模索しているが、大きな収益になるのが百度クラウドだ。文心一言を利用するには自動的に百度クラウドを利用することになる。このクラウド利用料も大きな収益源となる。

しかし、百度はまだ乗り越えなければならない壁が3つある。

ひとつは、文心一言の性能そのものだ。中国では非常に評価が高く、李彦宏CEOも「中国語利用では、ChatGPT-4の性能を上回っている」と述べているが、国際的な評価は決して高くない。カリフォルニア大学バークレー校による対話型AIランキング「LMSYS Chatbot Arena Leaderboard」(https://huggingface.co/spaces/lmsys/chatbot-arena-leaderboard)では、アリババの「通義」(トンイー)はランキングされているものの、文心一言はランキングすらされていない。つまり、中国語では非常に高い性能を示すものの、英語など外国語では性能があまりよくないようなのだ。中国の一般消費者向けには中国語だけでもじゅうぶんかもしれないが、企業では翻訳や外国語利用もある。さらには海外企業に提供をする必要もある。この点で、文心一言は弱みを持っている。

アリババの「通義」はオープンソースにしているため、海外の研究者が研究をしたり、追加開発を行うことがあり、国際的な大規模言語モデルに育ってきている。しかし、文心一言はソースコードを公開していないため、海外の研究者が触れることができない。これにより、中国語だけで高い性能を示すということになっているようだ。

▲カリフォルニア大学による対話型AIの性能ランキング。百度の文心一言はランキングされていない。中国語での性能は高いという評価を得ているが、英語ベースだと性能が発揮できないようだ。

 

GPUの調達に対する懸念

2つ目の問題がGPU不足だ。百度ソースコードを公開せず、社内での開発を中心にするのであれば、百度は大量のGPU保有していなければならない。百度は以前から「じゅうぶんな量を保有している」としているが、NVIDIAのA100以降の高性能GPUの販売が中国に対して禁止されるなど、供給の道が絶たれている。国内生産のGPUもあるが、性能面ではNVIDIAを追いかけている状態だ。

いずれ、百度GPU不足に悩まされることになる。

 

百度クラウドの業務利用の開拓

3つ目の問題が、クラウド事業はAIだけではないということだ。百度クラウドは文心一言が利用できることが大きなセールスポイントになっているとはいうものの、一般の企業がクラウドを使う主な目的は通常の業務システムをクラウドで動作させることだ。IDCの2023上半期の調査では、トップシェアを持っているのはアリババで、百度は「その他」に含まれてしまうほどシェアが小さい。AIだけでなく、業務システムの利用がしやすいクラウドサービスの基本品質を向上させる必要がある。

一方、百度がAIクラウドの構想を掲げると、アリババのアリクラウドは価格改定を行い値下げした。このような中で、百度クラウドが上位に食い込んでいけるかどうかはまだまだ不透明だ。

▲中国のクラウドの収入シェア。百度は上位に食い込むことができていない。業務系利用を開拓していく必要がある。

 

百度のAIはマネタイズのステージに入った

百度の創業者、李彦宏CEOは百度の創業時から、AIへの強い関心を示しており、ネットでは「AI先生」と呼ばれるようになっている。それはからかいの意味もあるが、同時に尊敬の念も入っている。百度は、検索広告で大きく成長した企業だが、自動運転ロボタクシー、大規模言語モデルと、大型のAIプロダクトを開発し、それが実り始めようとしている。

しかし、実際にビジネス化をして、お金を稼ぐことは簡単ではない。中国の大規模言語モデルは、開発の段階から商用化の段階に入ろうとしている。