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流行するマイクロドラマ。大手参入、メディアミックスで、早くも2.0時代に突入

2023年にブームとなったマイクロドラマの産業化が急速に進んでいる。それまでは「低コストでつくって、当たれば大きい」というコンテンツだったが、大手制作会社が参入をしてきて、急速に質があがり、メディアミックス戦略も進められている。マイクロドラマは早くも2.0時代に突入したと南方日報が報じた。

 

娯楽として定着をしたマイクロドラマ

微短劇(ウェイドワンジュー)=「マイクロドラマ」または「ショートドラマ」が、スマートフォンで気軽に見られるエンターテイメントコンテンツとして定着をし始めている。マイクロドラマは1話1分から数分という短いもので、全体で50話から100話程度あるというのが一般的。多くは「最初の10話は無料」であり、続きを見るのには課金が必要になる。全体のボリュームは映画1本分程度であり、トータルの課金額は映画よりも安くなるため、手軽な娯楽として楽しまれるようになっている。

2023年のマイクロドラマ市場は373.9億元(約8000億円)となり、前年から267.65%も増加をした。2024年は500億元を超えると見られている。

 

コロナ禍で仕事を失ったクリエイターが大量流入

マイクロドラマという形式は、以前から存在をしていたが、その多くが広告モデルであった。当時は課金という習慣がまだ定着をしていなかったため、思ったほどの収益があげられずに、マイクロドラマは一度消えてしまった。

再びブームとなったきっかけがコロナ禍だった。コロナ禍により、映画などの制作が減り、映画やドラマのプロたちの仕事が少なくなってしまった。そのようなプロたちが、なんとか仕事をつくろうとして始めたのがマイクロドラマだった。これにより、質の高い作品が登場するようになった。

また、2023年の半ばまでは、過激な暴力表現、性表現を売り物にするアングラ的なマイクロドラマも多かったが、2023年11月から国家広播電視総局は、マイクロドラマの表現ガイドラインを定めるなどして、過激な表現が一掃された。これにより、過激さを売りにするのではなく、ストーリーの面白さで視聴者を惹きつけるしかなくなり、これによりマイクロドラマの質がさらにあがった。

▲マイクロドラマのタイトルを分析したワードクラウド。社長、千金、離婚、前妻、都市、金持ちなど、視聴者の欲望を刺激するような言葉がタイトルによく使われる。

 

過激さから面白さに転換したことでメガヒットに

ヒット作も生まれている。2月12日に公開された「私は80年代の世界で継母になった」は、1日に2000万元(約4.3億円)の課金収入を稼ぐヒット作となった。同じ制作チーム「聴花島」が1月16日に公開した「裴社長は、子どもがいるからこそ意味があると思っている」もつられてヒットし、聴花島は春節期間の間に、この2本のドラマで1億元以上の収入を得たと言われる。

しかし、このヒットに至るまでには試行錯誤があった。聴花島には、ヒットメーカーであるクリエイター「咪蒙」(ミーモン)が参加をしており、咪蒙は以前マイクロドラマ「黒蓮花上級マニュアル」で、1日2000万元を稼ぐというヒットを飛ばした。しかし、暴力表現が過剰であったため、わずか1日でプラットフォームから配信停止処分を受けてしまった。

この失敗から学んだ聴花島は、表現の過激化さで売るのではなく、ストーリーの面白さで売ろうと方針転換をした。「80年代の世界で継母に」は、継母や嫁姑という家庭の中の醜い争いを惹きにしながらも、ドラマそのものは夫の起業を手伝う献身的な妻の姿や、80年代というレトロな舞台設定が見どころになっている。アングラ的な要素で視聴者の興味を誘い、無料分を視聴させるが、そこからはストーリーの魅力で引っ張っていく。これで万人が楽しめるエンターテイメントとなることができ、より大きなヒットにつながった。

▲大ヒットとなった「私は80年代の世界で継母になった」。内容は家庭内の揉め事を描いた刺激的なホームドラマだが、80年代の様子を再現するなど、手間暇をかけたことがヒットにつながった。

▲制作チーム「聴花島」が制作した「裴社長は、子どもがいるからこそ意味があると思っている」はさほどヒットしなかったが、次回作がヒットをしたため、つられてこちらもヒットをすることになった。

 

「チープにつくって大きく儲ける」は過去のものに

マイクロドラマは「数万元の予算で1週間で制作し、収益は数千万元」などと言われるが、実態は競争が激しくなり、コストは上昇をし続けている。最も重要なのは脚本で、優れた脚本が高値での奪い合いが起きている。また、マンションの一室や路上で撮影するというチープな絵づくりでは視聴者が満足をしなくなっているため、スタジオやオープンセットでの撮影も一般的になっている。ヒット作は出るものの、継続して収益をあげることは難しく、どの制作チームも経営は簡単ではない。すでに倒産、解散する制作チームも現れ、早くも淘汰整理の段階に入っている。

 

大手制作会社もマイクロドラマに参入

さらに、このブームを受けて、伝統的な映像制作会社がマイクロドラマの制作に乗り出している。2023年6月からは、ヒットドラマ「愛情公寓」などを制作した華策影視が、12月からは、オンライン小説プラットフォームである閲文集団が、既存の小説のマイクロドラマ化のプロジェクトをスタートさせている。

さらに、大きな話題になっているのが、「少林サッカー」「カンフーハッスル」などのコメディアクション映画で定評のある周星馳チャウ・シンチー)監督が、バイトダンスの抖音(ドウイン、中国版TikTok)と協働して、抖音に「九五二七劇場」という公式アカウントをつくり、5月にはマイクロドラマ「金猪玉葉」を発表すると予告をしている。現在のマイクロドラマは、コメディー映画が手薄になっていることもあり、多くの人がチャウ・シンチーのマイクロドラマに期待をしている。

▲大きな話題になっているのが、「少林サッカー」「カンフーハッスル」などの監督である周星馳チャウ・シンチー)がマイクロドラマ制作に乗り出したこと。再び、チャウ・シンチーのアクションコメディーが見られると、多くの人が期待をしている。

 

映画、ドラマとのメディアミックスも始まる

このような広がりにより、すでにクロスオーバーも盛んに行われるようになっている。映画やドラマの派生エピソードをマイクロドラマ化し、映画を見てからマイクロドラマを見る、マイクロドラマを見てから映画を見るという状況も生まれようとしている。当然ながら、ここに小説、コミック、アニメも絡むメディアミックス戦略が進んでいくことになる。

マイクロドラマは、2023年の間は、少人数の制作チームが低予算でつくって、大きなお金を稼ぐことができる可能性がある夢のある仕事だった。しかし、わずか1年か2年で、プロが参入し、大手が参入し、急速にビジネス化が進んでいる。業界では、マイクロドラマの黎明期はすでに終わり、2.0時代に入ったと認識されている。