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再生回数40億回越えの「土味三国」。村人総出の手づくり三国志ドラマがここまで受ける理由

中国のショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン)で話題になっている連続ドラマがある。それは「土味三国」と呼ばれるもので、約60本の5分程度のエピソードが公開され、再生数は40億回を超えるという大ヒットになっていると澎湃新聞が報じた。

 

鎧は麻雀牌、馬は電動自転車の手づくり三国志ドラマ

「土味三国」とは田舎味の三国志という意味。安徽省阜陽市新建村で撮影され、出演者はすべて村人、小道具はすべて身の回りのものを利用した手づくりというものだ。槍や刀などの武器は、農機具や枯れた桑の木を使い、鎧は麻雀牌を糸で繋ぎ合わせたもの、兜はペットボトルに色を塗ったもの、盾は大釜の蓋という状況だ。戦闘シーンでは馬など調達できないので、みな自転車や電動自転車に乗って登場する。将軍が乗る車もリヤカーだ。

「中国史上最も安上がりな三国志ドラマ」と呼ばれている。撮影器具は、スマートフォン1台だけで、1話は、役者の出演の日当を含め、平均して400元程度で製作されている。

▲土味三国で最も人気になっている戦闘シーン。旧三国の効果音、アングルなどを使っているため、チープな道具立てながら迫力がある。


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▲土味三国。手づくり感たっぷりのチープなつくりだが、戦闘シーンでは旧三国の効果音、アングルなどを使い、迫力がある。

 

熱量では大手スタジオに負けていない

出演者たちはみな素人の村人であるため、セリフも安徽省の方言がそのまま出ている。この手作り感満載のチープなドラマがなぜ受けているのか。ひとつは役者たちが大真面目で真剣であるということだ。小道具も手づくりだが、ありもので間に合わすというのではなく、身近なものをうまく使って本物に近づけようとする努力の跡が見られる。熱量は大手スタジオ制作のドラマに負けていない。

▲撮影の様子。撮影はスマートフォンで行われている。

▲従姉妹の盧紅玲さん。手づくりの小道具を用意してくれたり、村人に話をして出演者を集めたりしている。

▲撮影の準備をする鮑小光さん。従姉妹の盧紅玲さんが全面協力をしている。

 

三国志ドラマへの熱いリスペクト

そして、受けている最大の理由が迫力のある戦闘シーンだ。中国で放映された三国志のドラマは、2010年に東方恒和が製作した「三国志Three Kingdoms」の質が高く、決定版になっているが、実は1994年に中央電子台が製作した「三国演義」も人気がある。当初は制作費もないため、少人数でスタジオ撮影されていたが、回を追うごとに人気が出て、制作費も増え、どんどん大掛かりになっていった。それでも時代が時代であるため、チープな部分も多く、役者の演技力でカバーをしていたようなドラマだ。この通称「旧三国」は、中央電子台などで繰り返し再放送されるため、多くの人が子ども時代に見ていた。

制作費の少ない旧三国は、効果音に力を入れた。音楽や効果音をうまく使い、チープな映像を迫力あるシーンに変えていた。また、アングルやカットも独特のリズムを出そうと工夫をしていた。

土味三国は、この旧三国の効果音をそのまま使い、独特のアングルも取り入れ、再現をしようとしている。両者に共通するのは、制作費がなく、限界がある中で、視聴者を楽しませようとする熱量だ。子どもの頃見た旧三国のパロディあるいはオマージュになっており、なおかつ同じレベルの熱量を持っている。これが土味三国が受けている理由だ。

日本で言えば、素人が仮面ライダーのドラマをつくっているが、その熱量が素晴らしいために、最初はチープさに笑ってしまうものの、次第に熱中してしまうのに似ている。つまり、土味三国は「シン三国演義」なのだ。


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▲2010年に東方恒和が製作した「三国志Three Kingdoms」。質の高いドラマで、三国志ファンの定番となっている。


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▲1994年に中央電子台が製作した「三国演義」。通称「旧三国」。限られた予算の中で、役者やスタッフがさまざまな工夫をして魅せるドラマにしている。戦闘シーンの迫力が人気となり、出演者はケガが絶えなかったという。

 

三国志ドラマに憧れた若者が故郷に戻る

このドラマシリーズの監督、演出、主演、編集を一人でこなしているのは、鮑小光(バオ・シャオグアン)さん。子どもの頃から旧三国に夢中になっていた。ある時、北京の会社がテレビドラマのエキストラを募集しているという広告を見て、たまらずに応募をしてしまった。しかし、これは詐欺だった。登録料を何度も取られるだけで、ドラマ出演などさせてもらえない。お金がなくなり、故郷の新建村に帰るしかなくなってしまった。

故郷の村でリフォーム工事の仕事に就いた鮑小光さんは、子どもの頃からの夢を捨てることができなかった。そこに抖音が登場してきたため、鮑小光さんはスマホでドラマを撮影して投稿しようと思いついた。そして生まれたのが、土味三国だった。

▲土味三国を始めた鮑小光さん。尊敬するクリエイターは「少林サッカー」のチャウ・シンチー。土味三国にもあちこちにギャグが織り込まれている。

親戚から村人まで面白がって協力

村人も協力的だった。鮑小光が友人たちとテスト版の撮影を始めると、村人たちは何をしているのか面白がって集まってくる。ドラマをつくりたいと言うと、従姉妹の盧紅玲さんが、自分の友人をたくさん連れてきてくれた。さらに、叔父の李華東さんも70歳を超えていたが、出演を承諾してくれて、多くの村人が自宅や農地を撮影場所として提供してくれ、必要なセットの製作を手伝ってくれる。

▲撮影中の村人たち。わずかながら出演料も出るため、多くの村人が面白がって参加をしている。

▲土味三国で最も有名な出演者となった叔父の李華東さん。安徽省方言丸出しの演技が受けている。

 

投げ銭だけで回っている低予算コンテンツ

鮑小光さんは、クリエイターとしては「少林サッカー」の主演、監督を務めたチャウ・シンチーを尊敬している。土味三国が評判になると、自宅を改造して「三国鮑小光映画基地」を設立した。

ところが、鮑小光さんは広告案件をすべて断っている。広告案件を受けると、さまざまな制約が生まれてしまい、ドラマの味が損なわれてしまうかもしれないからだ。その代わり、劇中をよく見ていると、壁などに「広告募集スペース」と書かれた掲示が見つかることがある。ドラマの邪魔にならない部分に広告を出稿しませんかという誘いだ。

三国鮑小光映画基地は、再生回数40億回を超えるというテレビドラマ以上の成功を収めている。あとはマネタイズだけだが、鮑小光さんは1話400元の製作費でじゅうぶんつくれているため、投げ銭以上の収入を得る道を考えるつもりはないようだ。新しいタイプの人気コンテンツが登場した。

▲鮑小光さんは自宅を三国鮑小光映画基地という名称のスタジオに改造をした。