次第に食べられなくなっているカップ麺の業界で、久々の大ヒットが登場した。白象が開発したパクチー麺だ。商品に魅力があるだけでなく、SNSを活用して商品開発をし、情報を拡散することに成功したことがヒットの要因だと潮新聞が報じた。
減少傾向のカップ麺にヒット商品
中国人はカップ麺を食べなくなっている。フードデリバリーの利用が広がったことや、コンビニのイートインコーナーが充実をし始めたこと、健康志向により他の食品に目がいくようになっていることなどが原因として挙げられる。
カップ麺業界の市場シェアは、康師傅が46%、統一が15%、今麦郎市が11%、白象が7%という状況で、2023年の販売額は、康師傅2.84%減、統一が9.65%減と苦しい状況が続いている。
その中で、白象がパクチー麺を開発し、発売初日に2800万個以上が完売になるという大ヒット商品になった。このパクチー麺は、企画から開発までがそれまでもカップ麺とはまったく違っていた。
好きと嫌いの論争に注目した白象
このパクチー麺は、5種類の香菜(シャンツァイ、パクチー)を麺に練り込んだというもの。発売が告知をされると、ショートムービー「抖音」(ドウイン、中国版TikTok)で大きな話題となり、パクチー麺のハッシュタグのついた動画の再生数は40億回を超えた。
人気になった理由は、パクチーを好きな人と嫌いな人にきれいにわかれることだ。好きな人は香りがよく、何にでもパクチーを添えたいと言い、嫌いな人は不快なにおいがするので隣のテーブルで食べられても嫌だという。肯定派、否定派で論争が起きやすい。しかも、食べ物のことなので、とどのつまりは個人の嗜好の問題であることから、論争をしても激昂するようなことはなく、一種のお遊びとして、論争を楽しむことができる安心感がある。このようなことから、話題が拡散しやすかった。
自社のポジションも理解したプロモーション
開発元が白象というカップ麺ではマイナーなブランドであったことも影響をしている。業界トップの康師傅が変わったカップ麺を発売したら困惑をする人も多かったかもしれないが、業界の片隅にいる白象であれば変わったカップ麺を発売しても納得するところがあり、それを素直に面白がれる。
白象はこの感覚をうまく捉えていて、ライブコマースでもMCにパクチーの扮装をさせるなど、面白さで話題になることをねらい、これがうまく消費者の心をつかんだ。
白象の社会貢献活動も好感度を押し上げた
もうひとつは、消費者が白象というブランドに好感を持ち始めていたことがある。2022年の3月15日に放送された「315晩会」で、土坑酸菜の問題が取り上げられた。315晩会は、3月15日の世界消費者権利デーに合わせて放送される特別番組で、消費者の立場に立って、不誠実なことをする企業を告発するという内容だ。その遠慮会釈ない告発ぶりから、多くの市民が注目する番組になっている。
土坑酸菜は、土の中に白菜などを埋めて発酵させる伝統的な漬物で、サイドメニューとして人気がある。315晩会はその製造の現場を取材し、農民たちが土足で食品の上を歩き、さらにはくわえタバコで作業をし、吸い殻を野菜の上に捨てるシーンまで撮影された。衛生状態が酷すぎると、土坑酸菜を買う人はいなくなってしまった。
カップ麺の多くが、この土坑酸菜を使っている。具のひとつとして入れると、味が引き締まり、原価は安く、お腹に溜まるからだ。これにより、カップ麺も避けられるようになった。
ところが、白象は偶然にもこの土坑酸菜を使用していなかった。そこで、白象では、微博(ウェイボー)の公式アカウントで「一言だけ:使ってません、安心して食べてください。健康にいかなる影響もありません」と投稿し、多くの人から好感を得た。他社を非難するわけでもなく、事実だけを伝える姿勢が好ましく思われたのだ。
これに関連して、災害被災地への寄付、障害者の積極雇用などの社会貢献活動を継続していることがSNSで取り上げられ、白象は消費者の目線に立った誠実な企業であるというイメージが定着をしていった。
ユーザーに聞いてつくったパクチー麺
このタイミングで、白象はユニークな「深夜面談」というプロモーションを行った。SNSを使って、どんな味のカップ麺を研究開発すべきかを消費者に尋ねたのだ。これも評判となり、多くの人がSNSで自分の欲しいカップ麺を返答した。
そして、3ヶ月後、パクチー麺が発売される。これには多くの人が驚いた。わずか3ヶ月で商品化をするという早業だったからだ。もともと研究を進めていて、プロモーションでの要望も多かったということかもしれないが、まだ白象に対する好感やプロモーションの記憶が残っている間に発売となった。これが成功をする大きな要因となった。新製品の要望をSNSで消費者に聞くという調査は、多くの企業が行なっているが、最も成功した例としてマーケティングの教科書の事例集に載せられてもおかしくない事例となった。