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金品の要求もしてこない不思議なネット水軍。公安が調査して判明した意外な事実

ECなどに大量の悪評を書き込み、削除の代わりに金品を要求するネット水軍行為は以前から存在する。しかし、金品も要求してこない不思議なネット水軍行為が発生し、公安が捜査してみると、発信元はライバル企業だったと法治日報が報じた。

 

企業の炎上案件の背後にいるネット水軍

中国には「ネット水軍」と呼ばれる人たちがいる。特定の偏った情報を集中的に発信する人たちのことで、組織化されてお金をもらって発信をすることもあれば、単に自分の楽しみのためだけに発信をすることもある。近年増えているのは、外資系企業が消費者に不誠実なことをした時に、それが些細なことであっても過剰な攻撃をし炎上させるというパターンだ。国内企業と海外企業が同類の問題を起こしても、海外企業の方が炎上しやすいのは、このようなネット水軍たちが標的にするからだと言われている。問題意識から発信をしている人もいれば、資金を出す人がいてわずかなお金をもらって発信をする人もいる。

このような行為は、一般的な市民の言論活動と境界が曖昧で、防止するうまい策がなかなか見当たらない。水軍もそこはわかっていて、善良な市民を装い、犯罪に問われないようにしている。

 

一線を踏み越え恐喝に走る水軍も

しかし、一線を踏み越える水軍もいる。ECで販売している出品業者に悪評レビューを大量投稿し、削除と引き換えに金品を要求する行為だ。中国のECでは法律により「7日間無理由返品」が義務づけられている。これを利用し、大量に商品を購入し、悪評のレビューを書き、商品は返品をしてしまうというものだ。レビューはそのまま残るため、出品業者としては評価が下がって困った事態になる。

出品業者はプラットフォームに通報をするが、プラットフォームはなかなか解決に乗り出してくれない。水軍たちは、一般消費者の苦情と区別がつかない書き方を心がけているからだ。

水軍がはっきりと金品を要求しているのであれば警察に相談する手もあるが、水軍たちも言質を取られないように、出品業者側が金品の提供を口にするまで辛抱強く待つため、警察も捜査に乗り出すことが難しい。

▲家宅捜索を受ける企業。最初はライバル企業の評判を落とすことが目的だったが、自社の売上が伸びることに気がつき、さまざまな企業に水軍行為をしかけていった。

 

金品の要求をしてこない不思議な水軍たち

浙江省紹興市で雨傘工場を営む宋常青さん(仮名)も、このような水軍の被害に遭った。ECで自社製品の雨傘を販売していたが、ある時、突然1時間に300本以上も売れるということが起きた。宋常青さんは気になったが、過去にそういうこともないわけではなかった。ネットのインフルエンサーが広告ではなく、たまたま自社の雨傘を評価する投稿をしてくれ、それにより突然売れるということがある。

しかし、翌日になると、EC店舗ページのレビュー欄は、悪評が多数投稿され、商品の返品申請も殺到した。

ネット水軍にやられたと宋常青さんは頭を抱えたが、水軍たちは金品を要求してくることもなく、連絡さえ取ってこない。どういうことかと不思議に思っていると、宋常青さんのショップはそれまで雨傘ジャンルで1位の評価だったのが、2位に下がり、3位に下がりと滑り落ちていった。レビュー欄を見て、多くの人が購入を避けるようになったからだ。

同様のことが、2ヶ月の間に3回も起こり、1600個の商品が返品され、悪評が100件以上も書き込まれた。店舗の売上は月に100万元も減少し、得られるはずだった10数万元の利益を失ってしまった。

宋常青さんは売上を回復するために割引販売をした。22元の雨傘を11元に割り引いた。しかし、それでは赤字運営になってしまうために、宋常青さんは紹興市上虞公安に相談することにした。

 

公安が捜査に乗り出し、発信元の企業を突き止めた

上虞公安サイバーセキュリティー大隊は、この事件の捜査を始めた。組織的な業務妨害の可能性があるからだ。

水軍たちは、返品をしてしまうため、お金は使ってないとは言え、いったんは商品代金を支払い、返金をしてもらっている。この口座情報をたどっていくと、温州市のある企業にたどりつた。捜査チームは、この企業が水軍行為を組織的に行なっている可能性があると考え、内偵調査を始めた。

内偵調査をしてみると、捜査チームは驚くことになった。この温州市の企業は、従業員が数千人もいるまともな電子商取引企業で、提携メーカーの商品をECなどで販売をしている。ネット水軍などという犯罪を犯す必要などなかった。

▲水軍行為を行なっていた企業から押収されたPC類。マーケティング部が水軍部に変貌してしまっていた。

 

有能な部下を引き抜かれた恨みからの犯行

捜査を進めてみると、意外な事実が浮かび上がってきた。キーになったのは、被害に遭った雨傘工場の従業員、柳東東さん(仮名)だった。柳東東さんは、もともと問題の温州市の企業で、マーケティングを担当していた。その腕を見込まれて、被害にあった雨傘工場の宋常青さんに請われて転職をし、この雨傘工場の製品をECでの1位の企業に押し上げた。

この転職をする時に、犯行を犯した温州市の企業から、スタッフも引き連れてきていた。このことを、温州市の企業のマーケティング部の元上司が恨みに思ったようだ。有能な柳東東さんに離職をされ、スタッフも引き抜かれている。さらには、温州市の企業が取り扱う雨傘製品は、ランキングを下げてしまった。この上司は社長から管理能力を疑われ叱責をされた。

元上司は、マーケティング部のテクニックを使って、雨傘工場の評価を落とすことを始めた。ネットで、一人8元で人を雇い、購入、返品、悪評レビューを書かせるということを行なった。これにより、温州市の企業の雨傘の売上が伸び、元上司は社長の信頼を取り戻した。

しかし、この元上司は、社長の信頼を勝ち取り、自分の給料をあげる簡単な方法を知ってしまった。雨傘工場だけでなく、自社が扱う製品のライバル企業100社余りに次々と同様の手口で評価を落としていったのだ。マーケティング部がネット水軍部になってしまった。

 

ライバルを妨害するための水軍行為が増えている

捜査チームは証拠固めをした上で、温州だけでなく、関連営業所がある杭州市、義烏市を同時に家宅捜索し、PC17台、スマートフォン16台を押収し、元上司とその部下17人を逮捕した。17人は生産経営破壊罪により起訴をされた。

ECだけでなく、ゲームなどのコンテンツでも競争が厳しくなっている。これにより、ライバル製品の評価を下げるためにもネット水軍が利用されるようになっている。しかし、このような行為は、水軍行為を行った個人も、生産経営破壊罪、商業信用毀損罪、商品信用毀損罪などの実行犯として責任を厳しく追及されることがあるため、わずかなアルバイト料で、気軽に加担をすることのないように法律の専門家は警告をしている。