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今回は、中国のEVシフトの過程を振り返ります。
こういう仕事をしているため、中国のメディアは毎日読みます。一方、日本人ですから日本のニュースも毎日読んでいます。すると、中国の報道と日本の報道がまったく違いすぎて、まるでパラレルワールドの間に落ち込んだような気分になることがあります。
日本のメディアでは「世界的なEVの失速」が毎日のように報道されています。しかし、中国ではどこ吹く風で、4月上旬には新車販売に占める新エネルギー車(NEV)販売台数が50%を初めて超え、重要なティッピングポイントを超えたと報道されています。中国は2035年までに新車販売に占めるNEV割合を100%にする目標を立てていますが、その中間目標が2030年にNEV50%でした。今回50%を超えたのは瞬間風速のようなものなので、まだ上下することがあるかと思います。しかし、年内には50%を超えることがほぼ確実となり、中間目標を6年も前倒しで達成したことになります。
この50%が重要なのは、これ以降はNEVが主流となり、燃料車(ICE)とハイブリッド車(HEV)が非主流となり、自然にNEVが増えていくことになるからです。「重要な里程を通過した」とメディアは書き、中には「燃料車の末日が見えてきた」と書いているメディアもあります。
中国の報道がおかしいのでしょうか。それとも、日本の報道がおかしいのでしょうか。
国際エネルギー機関(IEA)では、毎年EVの販売見込みを予測するOutlook(見込み)レポートを発行しています。そのOutlookを紹介する記事「The world’s electric car fleet continues to grow strongly, with 2024 sales set to reach 17 million」(世界の電気自動車拡大は引き続き強く成長する。2024年は1700万台販売に達する見込み、https://www.iea.org/news/the-worlds-electric-car-fleet-continues-to-grow-strongly-with-2024-sales-set-to-reach-17-million)では、EVの普及台数がかつてないほど増加すると予測をしています。
この記事の中で、IEA上級ディレクターのファティ・ビロル氏はこう語っています。「EVの背後にある継続的な勢いは、私たちのデータから明らかだ…停滞をしているのではなく、グローバルなEV革命が新たな成長のステージに入るギアチェンジをしている」。
日本のメディアが報じている「EVの失速」「EVのオワコン」状況を、この記事はこう表現しています。「米国では、新車販売の9台に1台がEVになると予測される。欧州では、乗用車全体の販売見通しが暗く、一部の国ではEV補助金が段階的に廃止されているのにも関わらず、EVは依然として新車販売の4台に1台を占めると予測される」。
まるで、コップの中に水が半分入っている状態を「もう半分しかない」「まだ半分もある」と見る話そのままです。どちらが正しいのでしょうか。
「世界的なEVの失速」報道は一面の真実を伝えています。特に米国では、ドナルド・トランプ候補がEVには否定的であり、バイデン大統領も自動車産業の票が必要なのか、新エネルギー車に対する目標値を引き下げたりしています。そのような中で、トヨタを中心にしたハイブリッド車(HEV)が人気となり、EVのテスラが販売数を落としています。
また、欧州は非常に高い目標を立てていますが、中国EVの攻勢に苦慮し、補助金を国内EVに限定するなどの対応を始め、プラグインハイブリッド(PHEV)が伸びています。
しかし、なぜか「中国でもEVが失速」という報道が出始めていることに驚きました。他の特定の記事を批判するつもりはないのですが「中国の2024年2月のNEV販売台数は37.6万台であり、前月比で43.4%もの減少、大失速!」と書いてある記事までありました。
数字は合っていますが、解釈がまったく誤っています。これは、単なる季節変動なのです。中国の企業のボーナスは年1回のところが多く12月に支給されます。そのため、毎年11月、12月にはNEVだけでなく、乗用車全体がよく売れます。掻き入れ時なのです。一方、1月になるとその反動で売れ行きが鈍る上、春節休みで販売店がまるまる1週間休業しますから、売上が大きく落ちます。2024年は暦の関係で春節休みが2月にずれ込みましたので、2月の売れ行きが大きく落ちています。
▲2020年12月から現在までの月ごとのNEV販売台数。毎年12月には大量に売れ、1月2月は落ち込むという季節変動をしている。乗用車市場情報聯席分会(CPCA)の統計データより作成。
この季節変動は毎年のことで、不思議でもなんでもありません。中国の自動車販売関係者で1月2月の売れ行きが悪いことに頭を抱えている人はいません。仕事も暇になるので、春節の長期休暇を楽しんでいます。
5月の連休になって、コンビニのおでんが売れなくなることを「おでんの失速!日本人はなぜおでんを食べなくなったのか」という記事をつくるのと同じことをやっています。
もうひとつは「ハイブリッドの伸び率がEVの伸び率を上回った。EVは失速して、中国の消費者はハイブリッドを選んでいる」というものです。
これには2つの問題が潜んでいます。
ひとつは、「ハイブリッド」という言葉の使い方が実に曖昧になっているということです。ハイブリッドと言われれば、プリウスに代表されるハイブリッド(HEV)を日本人は想像しがちですが、その他にも異なる方式のものがあります。プラグインハイブリッド(PHEV)がその代表例です。中国で伸びているのはPHEVです。HEVも伸びていますが、厳寒になる北部での販売が中心で、販売台数はPHEVの半分程度です。
PHEVは政府目標の新エネルギー車NEVに含まれますが、HEVは燃料車に含まれます。ここを曖昧に書いていて、中国でもHEVが売れているのだと誤解を与えかねないことになっています。中国の統計ではHEVという項目を立てているものは少なく、多くの統計では燃料車に含めてしまっています。
また、あたかも“ハイブリッド”が、最近になって、BEV(Battery EV、純EV)の伸び率を上回って、消費者の嗜好が変わったかのように書いている記事もありますが、中国でPHEVの伸び率がBEVを上回ったのは2021年の夏頃で、それ以来、ずっとPHEVの伸び率はBEVを上回っています。最近のことではなく、かなり以前からそうなのです。
▲BEVとPHEVの前年同月比伸び率の推移。2021年半ば以降、PHEVはBEVよりも伸び率が高い状態が続いている。2021年2月の極端なピークは、前年の2020年2月に、コロナ禍による都市封鎖の影響で、多くの販売店が長期休業をした反動による外れ値になる。また、伸び率がマイナスになることがあるのは、前年の同じ月が春節ではないのに、当年の同じ月が春節にあたった場合。
なぜこうなっているのかについては、後ほど詳しく説明します。中国のEVシフトは、まず小型のBEVから始まりました。それに遅れて、中型、大型のPHEVが売れ始めています。つまり、PHEVは遅れて普及が始まっているのです。最後にBEVとPHEVの伸び率の逆転が起こった2021年9月のBEVとPHEVの販売台数はそれぞれ27.0万台と5.7万台です。2024年1月でも37.5万台と29.3万台と差があります。
つまり、「BEVが失速をしてPHEVが伸びている」のではなく、「BEVに遅れてPHEVが伸びてきて、追いつこうとしている過程にある」と見るのが自然なのです。つまりは、BEVを買う層は順調に増えていて、さらにこれまで興味を持たなかった燃料車ユーザーすらPHEVへの買い替えを始め、それでNEV全体の販売台数が増加をしているということなのです。
このあたりの事情は、今回のメルマガの目的のひとつである「NEVはどのようなシナリオで売れていくのか」を説明するために、後ほど詳しく解説します。
ここのところ、新エネルギー車関連の話が続いて恐縮ですが、このまま「中国のEVも失速しているのか、中国でもハイブリッド車(HEV)が売れているのか」と誤解をしてしまうと、大きな過ちを犯すことになります。
ハイブリッド(HEV)は、EU、中国、米国(カリフォルニア州など)では2035年以降、販売禁止になります。プラグインハイブリッド(PHEV)はEUでは禁止、米国では割合制限、中国ではOK(ただし、国務院は2035年にはBEVを100%近い主流にするとしている)という状況です。HEVとPHEVは名前は似ていますが、各国の扱いは、かなり異なる乗り物なのです。PHEVを2035年以降も販売できるかどうかは国によって対応が異なりますが、HEVも販売できる先進国は、1国を除いてありません。それが日本なのです(米国にも割合制限の上、販売可能な州は残る見込み)。
そこで、今回は、まずハイブリッドにどんな種類のものがあるのかを復習します。よくお分かりの方は、確認するつもりで目を通されてください。そして、中国のNEVのうち、BEVとPHEVはどのような使いわけがされて、どのように普及をしてきたのかを振り返ります。中国はNEVが欧州よりも早く普及をしたため、NEVの普及がどのようなシナリオで進んでいくのか、その参考になるかと思います。他国でも中国と同じシナリオでNEVが普及していくわけではありませんが、さまざまな見通しをつける上で大きな参考になるかと思います。
今回は、ハイブリッドと呼ばれる車種を復習し、中国でNEVがどのように普及をしてきたのかをご紹介します。
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