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BYDは日本市場で地位を確保できるのか。BYDの本当の黒船「DM-i」技術とは

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今回は、BYDのPHEV技術「DM-i」についてご紹介します。

 

中国のNEV(New Energy Vehicle、新エネルギー車)メーカー「BYD」が日本に進出をして1年半が経ちました。その業績はどうかというと非常に微妙な状況です。2023年のBYDの日本での新車登録台数は1446台でした。日本には「中国製の車になんか怖くて乗れない」という方も多く、それを考えると「よくやっている」という評価になりますが、数としては非常に物足りないものがあります。

▲日本市場でのBYD、フェラーリの販売台数の推移。「その他」は販売台数を公開していないテスラがほぼ全数を占めていると考えられる。

 

これは日本自動車輸入車組合の統計データです。比較のためにフェラーリを点線で入れました。また、「その他」のほぼ全数はテスラであると考えられます。テスラは公式には販売台数を公開していませんが、輸入車登録などのデータから推計をすることができます。また、テスラの月別データが上下をするのは、納車までに時間がかかり、一気に大量の在庫が入り納車が行われるためです。

BYDの販売台数はフェラーリとほぼ同じで、テスラと比べると大きく見劣りをします。

BYDの目的は、日本で台数を売ることではなく、日本のBEV(Battery Electric Vehicle、電気自動車)市場でのシェアを取り、アジア圏での存在感を高めることだとも言われます。しかし、2023年の日本BEV市場でのシェアはわずか3.29%であり、BYDのねらいのためには一桁数字が小さいのではないかと思います。

 

では、BYDは今後、台数を伸ばしていくことができるでしょうか。将来のことは誰にもわかりませんが、私はこのままでは絶望的だと思います。なぜなら、日本ではBEVの普及はまずあり得ないからです。

世界の先進国は、2035年をめどにガソリン車、ディーゼル車などの内燃機関車(ICE=Internal Combustion Engine)の新車販売を禁止します。また、ICEをベースにしたハイブリッドHEV(Hybrid Electric Vehicle)も同様に販売を禁止ます。

▲世界各国の2035年規制。日本はHEVを認めるという先進国では珍しい規制になっている。

 

ところが、日本は「電動車」という不思議なカテゴリーを設定して、HEVの販売を禁止しません。だったら、誰でもHEVを買います。今と変えることは何もなくて、車両価格は燃料車に比べて高くなりますが、その分、燃費が非常にいいので燃料費が節約できます。

日本自動車販売協会連合会の統計でも、すでにHEVが半数以上になっています。ガソリンが高騰するようになって、燃費のいいHEVを選ぶ人が増えています。

▲日本のエネルギー別乗用車の販売台数構成比。ウクライナ戦争が始まり、ガソリン価格が急騰した2022年からHEVが伸びている。

 

「HEVでいいじゃないか、無理してBEVを買うことはない」と考えるのが一般的ではないでしょうか。そのため、BEVのシェアは伸びず、伸びないために充電スポットの数も増えません。充電スポットが増えないからBEVも売れないという悪い循環に陥ってしまっています。

充電スポットとBEVは、よく「タマゴとニワトリ」の関係にあると言われます。充電スポットが増えるのが先か、BEVが増えるのが先かというわけです。しかし、実際には「タマゴとニワトリ」の関係ではなく「種まきと収穫」の関係にあります。

中国の充電スポットの台数とNEVの販売台数の関係を見てください。

▲中国のNEV販売台数とNEV1台あたりの充電設備数の推移。2020年まで充電設備を増やし続けたことにより、2020年暮れからNEVが急激に売れるようになってきた。

 

棒グラフはNEVの販売台数で、折れ線グラフはNEV1台あたりの充電スポット数です。

2019年、中国のEVシフトは失敗したのではないかという見方が広がりました。販売台数が初めて前年割れになり、しかも2014年から始まった中央政府の購入補助金が2019年で終了する予定だったからです。

しかし、2020年にBYDの「漢EV」、五菱の「宏光MINI EV」という大ヒットBEVが登場し、2020年暮れからNEVの販売台数が急増しました。それ以来、NEVの販売台数は成長を続けています。

ここで、NEV1台あたりの充電スポット数を見てください。EVシフトが失敗をしたのではないかと言われた2019年、充電スポット数は1.0を超えます。つまり、NEVの台数以上に充電スポットがあったことになります。中央政府は、NEVの売れ行きが伸びなくても、充電スポットの数を増やし続けていたのです。

これが引き金となって、2020年暮れからNEVが売れ始めます。台数が増えたため、充電スポットの比はいったん落ちますが、再び増強計画を立て、2023年には再び1.0を超えました。

つまり、NEVを本気で普及させるのであれば、まず充電スポットを増やしていくことが必要なのです。充電スポットがNEVの大きな広告塔になるからです。NEVを買うきっかけになるのは、「自宅マンションや勤務先の駐車場に充電設備が導入された」「生活動線の中で充電スポットをよく見かけるようになった」ということです。その体験があれば、車の買い替え時期にようやくNEVが視野に入ってきます。充電スポットという種を広く撒かなければ、NEVが売れることはあり得ないのです。

 

東京都は、2025年4月から新築の建築物(一定面積以上のマンション、オフィスビル、商業施設)では、EV充電設備の設置を義務化します。これで確かに充電設備は増えていくことになるでしょう。しかし、遅すぎました。

充電設備には出力5kW程度の普通充電器、出力50kW程度の急速充電器、さらにはそれ以上のテスラのスーパーチャージャー(350kW)、ファーウェイのウルトラファストチャージャー(600kW)などがあります。普通充電器は家庭用電源でもOKであるため、戸建て住宅などでは10万円程度の資金で設置工事をすることができます。一方、急速充電器は家庭用電源では足りず、三相交流と呼ばれる産業用の電源が必要になります。つまり、電源工事も必要になり、工事設置費は数百万円になります(国や地方自治体の補助などはある)。

建物を建築するデベロッパーは普通充電器を設置するでしょうか、それとも急速充電器を設置するでしょうか。デベロッパーの判断基準は明快です。急速充電器を導入することによって、マンションの成約率やオフィスビルの入居率があがるのであれば躊躇なく急速充電器を導入します。しかし、いい影響がないのであればコストの小さい普通充電器を導入します。

テック企業などの先進的な企業が入居することを想定したオフィスビルでは急速充電器が導入されるかもしれませんが、一般のファミリー向けマンションなどでは普通充電器を導入することになるでしょう。

 

現在のBEVはこの数年で大きく進化をして、満充電の航続距離が500km以上、700km、800kmというのがあたりまえになっています。これは、バッテリーの容量が大きくなったということで、充電にかかる時間も比例をして増えていきます。BYDのエントリー車種「ドルフィン」(363万円から)の場合、普通充電器で満充電にするには7.5時間かかります。これは実用的でしょうか?

自宅に充電設備があり、夜間に駐車している間に充電する使い方であればいいのかもしれませんが、高速道路を使って遠出をした時に途中のサービスエリアで充電する場合、とても待っていられません。これが急速充電器であれば1時間半ほどで済むようになります。

つまり、BEVのバッテリー容量が増えているため、普通充電器では長い時間がかかってしまうようになり、急速充電器が必須になってきているのです。中国の場合は、1秒1km=5分で300km、10分で600kmというウルトラファストチャージャーの普及が始まっているので、自宅に充電器がなくても、食事や休憩の間に充電スポットを利用すれば充電が間に合う環境が整い始めています。

しかし、日本はそもそも充電スポットが少なく、しかも普通充電器がほとんどである中でBEVを購入しても、いつも急速充電器を探すことになり、それでも1時間程度は行動を妨げられることになります。とても環境が整っているとは言えず、今後も整う見込みも大きくありません。その中で、BEVが一定のシェアを取ると考えるのは無理があります。

おそらくBEVは、現在の軽自動車に代わるセカンドカーで、買い物、通勤が主体の1日の走行距離が100km以内の使い方に限られるでしょう。これであれば、数時間で満充電にできるので、自宅に普通充電器を設置すれば実用的に使えます。あとは、配達などの商用車です。使う時間、走行距離が一定をしているので計画的に利用することができます。

そのような特殊な例を除き、BEVが普及をすることはなく、主流はHEVになっていくのではないかと思います。日本は火力発電も温存する政策を取り、原子力発電は本格再稼働の見込みが立ちません。再生可能エネルギー発電では、国土が狭く向いていない太陽光発電を推奨し、むしろ自然破壊を起こしています。日本に向いている地熱発電、潮流発電には冷淡で、わずかな研究費しか投入されず、本格普及にはまだまだ時間がかかります。

2015年の国連気候変動枠組条約締結国会議(COP21)での約束「パリ協定」では、2030年までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを日本は目標として掲げました。この状況で、どうやってこの目標を達成するのか、明快に説明できる人はいないと思います。しかし、政府が「2035年以降もHEVでもいいよ」と言っているのですから、多くの人がHEVを買うことになります。

 

日本ではBEVの割合はきわめて限定的になりますから、BYDの販売台数も小さなものにならざるを得ません。販売台数は小さな数字にとどまることになるでしょう。

では、BYDの日本進出は失敗だったのでしょうか。そうではありません。PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、プラグインハイブリッド)が日本にとって黒船となる可能性があります。BYDはバッテリー技術に強みがある企業ですが、実はエンジンも強いのです。BYDのPHEV技術「DM-i」(Dual Mode Intelligent)を採用した秦L DM-iとシール06 DM-iに採用されている1.5ℓエンジンは熱効率(エネルギー変換率)46.06%という世界最高レベルなのです。

BYDは中国では、BEVも売れていますが、PHEVも売れています。BEVとPHEVの両方が売れているので、NEVのぶっちぎりNo.1メーカーなのです。

このPHEVが入ってくれば、日本のメーカーもうかうかしていられません。自宅などに普通充電器があれば充電ができるし、もしなくてもガソリンエンジンで発電をしてくれるのでHEVと同じ感覚で乗ることもできます。このPHEVがうまくはまると、BEV市場という小さな市場ではなく、乗用車という大きな市場でシェアを獲得することもあり得ます。

BYDは現在、日本ではBEVしか販売してなく、PHEVは販売していません。しかし、PHEVを販売しない理由はどこにもありません。これは黒船になる可能性があります。

そこで今回は、BYDのPHEV技術「DM-i」とはどのようなものであるかをご紹介します。そして、一般的なHEVとどこが異なるのかについてもご紹介します。

 

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