深圳市の巨大電気街「華強北」が停滞をしている。以前は、電子産業関連で起業をしようとするものはまずは華強北に行くことが常識だった。しかし、華強北とは別の場所で成功するAnkerのような企業が登場し、華強北は必ずしも中心地ではなくなり始めていると巨潮WAVEが報じた。
華強北の流れを変えたAnker
深圳市の巨大電気街「華強北」(ホワチャンベイ)。中国の輸入がほぼ香港経由に限られていた時代、深圳市は輸入品の窓口として発展をし、特に電化製品、電子製品の扱いが成長をした。それとともに華強北は成長をし、さまざまな伝説を生んでいる。「400種類のパーツを揃えるのに、シリコンバレーでは2ヶ月かかるが、華強北では1日で揃う」「華強北のビルを屋上から1階に降りてくる間に、iPhoneのパーツがすべて揃う」などのジョークも生まれた。
華強北では、幅1mしかないカウンターの店を開き、商売で成功をし、これまでに50人以上の億万長者を生んでいると言われる。電子部品が必要な若者は華強北に行き、テック企業は華強北の近くで創業し、お金持ちになりたい若者は華強北を目指す。
しかし、その流れが変わろうとしている。最も大きいのはAnker(アンカー)の成功だ。
華強北で仕入れて米国で売る
2011年7月、グーグルを退職した陽萌(ヤン・モン)は、生まれ育った湖南省に戻って起業することを考えた。グーグルで働いていたある日、ノートPCのバッテリーが故障をして交換をしようと考えた。当時の同性能のバッテリーの相場は20ドルほどだったが、純正品のバッテリーは80元もする。しかし、アマゾンでのレビュー評価は星3.5で、非常に手を出しづらい感じになっていた。ということは、互換バッテリーでも品質は大きくは変わらないのではないか。この気づきが、起業のきっかけとなった。そこで、グーグルでの同僚であった趙東平とともに、湖南省に戻って互換バッテリーやモバイルバッテリーを販売するビジネスを始めた。
この時のビジネスは、華強北でバッテリーを買い付けて、米国でネット販売するというものだった。2人はバッテリーの品質を評価することはできたので、品質の高いバッテリーだけを販売した。それでも、純正品はもちろん、その他の互換バッテリーよりも安く販売できる。このビジネスはあたって、大きな資金を獲得することができた。
華強北仕入れから自社製造に切り替えて成功したAnker
1年後、湖南省長沙市で開発拠点を立ち上げ、華強北の商品を買い付けるのではなく、自分たちで独自開発をする方針に切り替えた。さらに、製品をアマゾンで販売することで世界中に売れるようになり、Ankerの本格的な成長が始まった。Ankerは最初は華強北に頼ったものの、わずか1年で独自の道を歩み始めたのだ。
2022年末には、華強北には10万社の小さな企業、店舗があり、その合計売り上げは1340億元になっている。しかし、Ankerは1社で142.51億元の売り上げがあり、1社で華強北の1/10以上を稼いでいることになる。
アマゾンに特化したことが成功の鍵
共同創業者の趙東平は、グーグル中国のオンライン販売の総経理やデルのグレーターチャイナ・韓国の販売責任者を務めたことがあり、ECビジネスに精通をしていた。趙東平がアマゾンを利用する戦略を定めたことも、Ankerの大きな成長の鍵になっている。中国でオンライン販売をするには、淘宝網(タオバオ)、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)の3大ECに出店する必要があり、さらには抖音(ドウイン)、快手(クワイショウ)でも販売をし、このようなチャンネルのすべてでプロモーションを行い、管理をしなければならない。非常に業務が複雑になるのだ。
一方、アマゾンでの販売に特化をすると、中国での売上に関してはあきらめることになるが、世界に対して売ることができる。アマゾンのチャンネルだけを管理すればよくなるので、業務がシンプルになり、その分、サポートなどの品質をあげることができる。
この選択をしたことがAnkerの成長の大きな分岐点になった。しかも、ひとつの国の景気に影響されない成長が可能になった。
ユーザーの苦情を直接聞けば高速成長ができる
さらに、大きいのが世界の消費者とアマゾンを通じてつながることができ、クレームが直接Ankerに届くようになったことだ。初期の頃、モバイルバッテリーでは充電が遅いという苦情があった。モバイルバッテリー側の電圧と、デバイスの必要とする電圧が合わないためだ。これを解決するために、電圧を自動調整するPowerIQテクノロジーを自社開発した。さらに、アップルのMFi認証も取得し、どのようなデバイスであっても最適な充電が可能になる環境を整えた。
また、ケーブルがすぐに破ける、損傷するという苦情もあった。そのため、Ankerは軍事用の防弾服に使われているケプラー素材を採用し、荒く扱っても破けないケーブルを開発した。
創業者の陽萌は言う。「収入や社会階級などをベースにビジネスを組み立てようとは思いません。デモグラフィック統計に基づいて商品を設計するより、ユーザーのニーズから出発する方がはるかに高速です」。
中国のテック関係のビジネスは、深圳市、華強北が外せないというのが常識だった。特にデバイスなどのハードウェア関連では、華強北と関わらわずにビジネスを進めるのは無理に近い。それが華強北の繁栄の源泉となっていた。しかし、Ankerのように華強北とは別のところで、大きなビジネスに成功する企業が現れ始めている。