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若者はもうiPhoneは買えない?値引き、分割など、買いやすさの競争を始めたアップル

若い世代にとって、iPhoneの価格が高くなりすぎたことが中国でも話題になっている。そのため、アップルは値引き、分割などの買いやすさの競争を始めていると九派新聞が報じた。

 

iPhoneを使っているから不採用?

上海のある23歳の女性が、就職活動で企業側の担当者と起こしたトラブルが大きな話題になっている。「あなたは23歳でiPhoneを使っているのではないか?」と採用担当者から責められたという話だ。

この女性は、就活アプリを通じて複数の企業に履歴書を送付していた。ある企業の採用担当者からチャットに「こんにちは、あなたの履歴書を見てお話ができればと思います」という連絡があったが、女性はすぐに返答することができなかった。

すると、採用担当者は無視されたと思ったのか、「あなたは礼儀を知らないのですか?」と言ってきた。ここから二人は口論となってしまった。

その中で、採用担当者が不思議なことを言った。「あなたは23歳なのにiPhoneを使っているのでは?」という不思議な質問と言うか、詰問をしてきたのだ。どうやら、採用担当者は、23歳で職探しをしている女性が高価なiPhoneを変えるはずがないと決めつけているようだった。言外に、正しくない方法でお金を稼いでiPhoneを購入したのではないかと言いたげだった。

▲話題のきっかけになった求職者と採用担当者のチャットでの口論。採用担当者は「23歳でiPhoneを使っているのではないか?」と詰問し、求職者は「それが何の関係があるのだ」と反発をし、そのやりとりをネットに公開した。

 

若者はiPhoneが高すぎて買えないのか?

しかし、女性にしてみれば、職探しをしているからといって無職であるとは限らず、確かにiPhoneは高価だが、高級ブランド品というわけでもない。女性はiPhoneを使っているかどうかということよりも、侮辱をされたと感じて、この顛末をネットで公開した。この投稿がさまざまな議論を呼んだ。

その多くは、採用担当者が、弱い立場にある求職者に高圧的な態度を取ることに対する批判だったが、それとは別に「今の若者はiPhoneが高くて買えないのか?」という議論が起きたのだ。

 

特別なスマホではなくなっているiPhone

アップルストアのある北京、上海などの人たちは、数年前までのiPhoneに対する熱い人気が消えたことに気づいている。それまでは、iPhoneの新製品が発売になると、アップルストアには長い行列ができていた。しかし、この3年ほどはその行列は長くはならず、落ち着いて購入ができるようになっている。特にiPhone14シリーズは、13シリーズと機能的に大きな進化がなかったために、かつてないほど、熱狂ぶりは低調だった。もはや、iPhoneは特別なスマホではなく、人気ブランドの中のひとつになっている。

▲アップルの出荷シェア。新製品が発売になるQ4にはトップシェアとなるが、次の新製品の話題が出始めるQ2、Q3にはシェアが大きく落ちる。

 

実質的な値下げ策を打っているアップル

それでもiPhoneのシェアが大きく落ちていないのは、アップルが市場に対して積極的に策を打っていったからだ。2019年には、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が「100億補助」という大規模キャンペーンを行なった。これは販売する商品に拼多多が補助金を出して、実質的な割引価格で販売するというもので、その目玉商品がiPhone11で、5000円から1万円も安く販売をし、40万台のiPhoneが売れた。

アップルは市場価格を維持するために、販売業者に対する納入価格を高く設定し、割引がほとんどできない仕組みをとっている。これによりブランドの高級感を保っている。割引ではなく補助金だという体裁とは言え、実質2割以上になる割引販売を認めるというのは異例のことだった。

さらに、今年2023年3月には、iPhone14の新色であるイエローが追加発売になったが、これに合わせて価格改定を行い、その値下げ幅は600元ほどにもなる。さらに、Proシリーズもキャンペーンを行い、700元の割引販売を行った。価格に関しては、「いつ買っても同じ価格」を維持してきたアップルとしては異例の取り組みとなった。

これにより、iPhoneに対する熱狂は薄くなっても、iPhoneを買う人が増え、以前と同じようなシェアを維持している。

▲アップルは中国でも金利0%ローンを行なっている。それだけでなく、数度にわたる価格改定を行い、値下げを行なっている。

 

若者はやはりiPhoneの価格の高さを気にしている

九派新聞が大学生にインタビューをしてみると、意外にも大学生たちはiPhoneを冷静に見て、欠点も理解をしている。

欠点の1つはやはり高いということだ。中国メーカーのエントリーモデルであれば3台ほど買える価格になる。iPhoneの品質が高いことは理解をしていても、3倍の価値があるのかと考えると判断がわかれるようになる。価値があると考えiPhoneを選ぶ人もいれば、節約をして、お金を他の趣味に使いたいと考える人もいる。

また、若い世代ほど、2年以内に新しいスマートフォンに次から次へと買い替えたい、あるいは複数台を持って気分によって使い分けたいと考える人が多く、そのような人にとって高価なiPhoneは手を出しづらくなっている。

 

中国の暑さ、寒さに弱いという評価も

また、iPhoneは中国には合わないと感じている人もいる。まず、電波のつかみが悪く、他のスマホは使える場所でもiPhoneは電波がつかめないということがよくあるという。

さらに、iPhoneは中国の暑さと寒さの厳しい気候に耐えられない。夏の屋外で使うとすぐに本体温度があがり使用ができなくなってしまう。これはiPhone12から起こっている問題だが、iPhone14になっても同様の問題が生じているという。多くの人が、内部温度の測定方法か放熱機構に何らかの問題があるのではないかと感じている。一方、冬の東北地区では零下20度を下回ることは珍しくはない。ここでもiPhoneは起動をしなくなることがある。

同様のことは中国メーカーのスマホにも起こることだが、対策をとっている機種もあり、iPhoneよりはタフに使えることができる。

▲中国の気候は暑さ、寒さとも厳しく、屋外では使えなくなることがしばしばある。

 

若者はブランドよりもコスパを重視するようになっている

九派新聞では、大学生だけではなく、南昌大学経済管理学院の羅浩教授にも経済専門家としての意見を聞いた。

羅浩教授も、iPhoneは革新的なスマートフォンで、常にリーダーであり続けてきたことを認めた上で、それでも最近では他のスマホとの差が縮まってきていると見ている。特にiPhone14シリーズは、13シリーズからの進化の幅が小さく、買い換え需要は獲得できたものの、新規需要を上乗せすることができていないのではないかと言う。

羅浩教授がもうひとつ指摘するのは、現在の中国の若者世代の消費性向の変化だ。特に00后(2000年代生まれ、10代)の価値観は、90后や80后と大きく違っているという。00后の間には、ブランドに対する憧れや忠誠心のようなものは薄れ、実用性の観点から選ぶ傾向がある。しかも、「いいものを選びたい」よりも「性能対価格比=コスパ」が重視される。コスパという点では、多くの若者にとって、iPhoneはもはや第一の選択肢にはなっていないのではないかと言う。

 

製品だけでなく、買いやすさの競争が始まっている

若い世代だだけでなく、中高年世代の間でも、iPhoneの新製品を買わずに、中古を買い、中古から中古へと乗り換えていく人も増えている。このような中古の販売数は、販売統計には出てこないため、アップルは下取り、最長24ヶ月の無利息ローン、価格改定による値下げといった買いやすくする施策を中国でも次々と打っている。中古市場に流れている顧客を取り戻す策だ。

スマホの価格が高くなっているのはiPhoneだけでなく、中国メーカーも同じだ。原材料費の高騰が大きく響いている。そのため、品質競争、機能競争とともに、買いやすさ競争も進み始めている。アップルもこの買いやすさ競争に力を入れるようになっている。