中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

偽物iPhoneをアップルストアに修理依頼。1400万円を荒稼ぎ

2人の中国人留学生が、中国国内で大量の偽iPhoneを調達し、米国のアップルストアに持ち込み「起動できない」として、1500台の新品のiPhoneに交換をしてもらい、90万ドルを荒稼ぎしたと捜狐が報じた。

 

その場で交換してくれるアップルストア

アップルストアのサポートは、以前、即時交換を基本にしていた。iPhone(SIMアンロック製品、キャリア経由で購入したものは除く)、iPadMacBookなどの保証修理を依頼すると、多くの場合、リビルド品にその場で交換してくれていた。リビルド品は、故障した製品を再生したものだが、外装部などの人の手が触る部分やバッテリーは新品で、品質検査を経た上で3ヶ月保証がつくというもの。

これを中古品としてみるか、新品同様と見るかは人それぞれだが、特にiPhoneの場合、その場ですぐに交換してくれるというのはとてもありがたい。しかも、原則的にどこの国のアップルストアでもいいのだ。日本で購入したアップル製品を米国のアップルストアに持ち込んでも、その場で交換してくれる。

 

二度手間になる現品修理方式

ユーザーの利便性を最大限に考えた素晴らしい仕組みだが、2013年に中国でこの仕組みが問題になり、次第にアップルストアは即時交換をやめ、可能な限り現品修理をするようになった。ユーザーからしてみれば、保証修理を依頼した後に、受け取りのために再度アップルストアを訪れなければならず、二度手間になってしまった。しかも、修理に数日かかる場合は、その間、iPhoneが使えない。

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▲中国のアップルストアは、すでに42店舗ある。以前は保証修理が異常に多い国だった。

 

問題となった中国でのiPhone修理方式

中国の消費者保護関係法では、携帯電話の保証修理は「新品交換」か「現品修理」のいずれかをしなければならないと定められている。しかし、アップルストアのリビルド品交換は、再生品であり、新品ではないため、法令に触れる可能性がある。

そこで、2013年当時、多くの中国iPhone修理店では、当時のiPhone 4、4Sのガラス製のバックパネルを外し、それをリビルド品に装着して、修理依頼者に渡していた。つまり、「バックパネル以外のすべての部品を交換するという修理」を行ったという建てつけにしたのだ。

ところが、これが消費者の権利をテーマにした番組「3.15晩会」(世界消費者権利デーに放送される生番組。さまざまな企業の悪徳ぶりを暴き出すことで人気がある)で問題にされた。本来は新品交換すべきところを、「バックパネル以外の部品の全交換」と偽って、リビルド品(中国人には中古品に見える)を渡していたと指摘されたのだ。

リビルト品を新品同等品と見るか、中古品と見るかは議論の余地があるが、当時のアップルが、中国の法律から見れば、かなりグレーなサポートを行っていたことは事実。そのため、アップルのティム・クックCEOはすぐに中国語での謝罪文を公表し、改善することを約束した。

その改善とは、リビルド品交換を中止して、問題のある部品を交換する現品修理方式にしたことだ。故障品を持ってアップルストアに行き、さらに受け取りにもう一度行かなければならず、ユーザーの利便性はかえって下がってしまった。

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▲蒋全と周陽陽の2人が修理詐欺で得た本物のiPhone。1493台のiPhoneを手にし、約1400万円分の利益を得た。

 

狙われた米国アップルストアの即時交換方式

しかし、米国のアップルストアでは、いまだにリビルド品への即時交換を行っている。米国の消費者は、二度手間になり、数日間iPhoneが使えないというデメリットを受けるぐらいなら、品質検査を経たリビルド品をすぐに渡してくれた方がありがたいと考えているのだろう。この修理ポリシーの違いが狙われた。

このポリシーの違いを悪用したのは、蒋全と周陽陽という2人の中学人留学生カップル。蒋全はオレゴン州立大学の学生で、香港で3000台の精巧なiPhoneの偽物を買い求め、これを米国に持ち込み、米国内のアップルストアで「起動しない」と言って保証修理を要求した。起動しない保証修理の場合、米国ではほとんどリビルド品に交換されることになる。

対応したアップルストアのスタッフの中には、偽物のiPhoneであることに気が付いたり、ユーザー登録情報に不備があることから、保証修理を拒否したケースもあるが、それでも2人は1493台の本物のiPhoneを手に入れ、金額に換算すると89.6万ドル(約1400万円)の利益を得た。

 

中国ではポピュラーな手口「換機師」

この手口は、中国では珍しいものではない。正規ショップに偽物を持ち込み、正規品に交換させようとする犯罪者たちは「換機師」と呼ばれる。2人が買い求めたのは、偽物のiPhoneと言っても、いわゆるコピー品ではなく、この犯罪のために用意されたものだ。

中古の価格が安くなったり、故障してタダ同然になったiPhoneを大量購入し、中の基盤を抜き取り、ガラクタ同然の基盤に差し替える。中の基盤は、闇市場に売却をする。中身はガラクタでも、見た目は正規品に見えるiPhoneを使った。中を開けなければ、偽物だとは気づかれない。

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▲深圳の電子街「華強北」で販売されているiPhoneの外装部品。このような外装部品に適当なガラクタ基板を入れれば、「故障して起動しないiPhone」が出来上がる。

 

保証修理の6割が換機師によるものとの報道も

米国のウェブメディア「The Information」によると、2013年以前、中国国内ではこの詐欺行為が蔓延し、中国国内でのiPhone保証修理の60%もがこのような換機師による詐欺行為だったという驚くような内容が報じられている。

実際、アップルは2013年のグローバルでの修理にかかる費用を13億ドル(約1400億円)と見積もっていたが、現実には37億ドル(約4000億円)もかかってしまっていた。

当時の中国のアップルストアでは、各店舗で毎週2000件の保証修理(即時交換)が行われていて、これはニューヨークの五番街アップルストアの3倍であり、中国は世界で最もiPhoneの修理が多い国になっていた。

ティム・クックCEOが謝罪をして、中国での保証修理ポリシーを即時交換から現品修理に改めたのは、中国国内の法律を遵守するためということもあっただろうが、このような詐欺を防ぐ意味もあったのかもしれない。

また、アップルではバッテリーや基板上のチップに特定波長の光に反応する顔料を塗布するようになっていて、特殊ライトを当てるだけで、正規品であるかどうかを判別できるようにしている。

このような対策をするようになってからは、詐欺の割合は10%以下になったという。

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▲蒋全と周陽陽の2人が住んでいた部屋。大量の偽物iPhoneが押収された。

 

主犯には2億円の罰金と30年の禁固刑が求刑

蒋全と周陽陽の2人は、米国内でFBIに逮捕をされ、2019年3月に起訴された。主犯の蒋全は、ネット詐欺、偽造商品販売などの罪で、200万ドル(約2.2億円)の罰金と、20年+10年の禁固刑、従犯の周陽陽は1万ドルの罰金と5年の禁固刑が求刑されている。

日本のアップルストアの修理ポリシーも即時交換から修理に変わっている。大方の見方は「日本人もリビルド品を中古品と考え、嫌うから」というものだが、リビルド品は人の手が触れる外装部分は新品であり、3ヶ月または購入品の1年保証のいずれかの長い方の保証期間が適用される。ひょっとしたら、2013年以降、中国の換機師が日本のアップルストアに偽iPhoneを持ち込むようなことが起きていたのかもしれない。

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