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ワトソンズの苦境。0元商品問題で炎上し、消費者の信頼を失う

香港を拠点にするドラッグストア「ワトソンズ」の業績が悪化をしている。0元商品を販売するキャンペーンで、消費者に不誠実なことを行い、それで消費者の信頼を失ったことが原因だ。ワトソンズはどのようにして消費者の信頼を取り戻すのかが注目されていると瞰風雲が報じた。

 

ワトソンズの業績が悪化

香港発で若い世代に人気だったヘルス&ビューティー系のドラッグストア「ワトソンズ」が厳しい状況になっている。2023年上半期の業績は売上高が前年比8%の減収となり、中国国内の店舗数は2023年6月末時点で3780店となり、前年から275店舗減少した。しかも、2022年には343店舗を閉鎖しており、閉店の流れが止まらない状況だ。10年前には、気軽に入れるコスメショップとして、若い女性から大人気であった、あの頃のワトソンズはもはや見る影もなくなっている。いったい、ワトソンズに何があったのか。

▲ワトソンズは、香港発の上質なドラッグストアとして、若い女性に人気となった。しかし、2016年以降、業績が悪化をしている。

 

世界最大のコスメドラッグストアとなったワトソンズ

ワトソンズは、1828年広東省で創業された薬局が始まりで200年近い歴史がある。その後、香港に拠点を移し、中国には1989年に北京1号店を開いて再進出をした。2004年になると、中国政府は外資小売企業の規制緩和を行なったため、英国のドラッグストア「Savers」(セイバーズ)、オランダの「Kruidvat」(クラウドファット)など海外の化粧品ブランドやドラッグストアなどを買収していき、製品ラインを充実させていった。2005年には、ワトソンズは世界最大の化粧品小売業者となった。

 

中国人消費者に高品質の製品を提供

ワトソンズが販売している商品は、パーソナルケア製品が30%、医薬品が15%、化粧品が35%、20%が食品という構成で、海外ブランドを買収しているため、中国のパーソナルケア製品の品質がまだ低い時に、海外の高品質の商品を販売することができた。中国では入手が難しい、高品質で安価な海外の商品が買えるというのがワトソンズの最大の魅力となっていた。

さらに、ワトソンズは効率を高め、他店よりも5%程度安く販売をしていた。さらにプライベートブランド商品も多く、同程度の商品に比べ、20%から30%も安く、品質も優れていた。

▲ワトソンズはドラッグストア業態だが、パーソナルケア商品や化粧品に力を入れている。しかも、海外の良質な商品が販売されているため、人気のチェーンとなった。

 

店舗の能力を高めることで成功

さらに、店舗戦略も優れたものだった。大手不動産開発業者と提携することを好み、多くのショッピングモールに出店をした。モールに行けば必ずワトソンズがあるという感覚が広がり、ワトソンズは必ず寄る店のひとつになった。

さらに、専任の薬剤師とブランド担当者を常駐させ、対面で専門的な相談に乗り、スキンケアだけでなく、健康管理、栄養管理、疾病予防などの知識も広めていった。顧客を育てるという戦略を取り、それが成功をした。

2000年代の中国は、製造業から発展が始まり、商品の生産能力はあがっていったが、物流機能と小売機能が不足をしているため、商品は売るほどあるのに売ることができないという問題を抱えていた。そこにワトソンズは、店舗の売る能力を高めていくことで、商品を安く仕入れ、卸や製造に対して強い地位を保つことができ、大きな成功をした。

 

ECとライバルの台頭により競争圧力を受けるようになる

しかし、2016年頃からワトソンズは精彩を欠くようになる。ECによるパーソナルケア製品、化粧品の購入が増えていったことが原因だ。アリババの「淘宝網」(タオバオ)や京東(ジンドン)が台頭をし、ワトソンズが得意としている分野の商品を扱うようになり、ワトソンズの売上が蚕食されるようになっていった。

さらに、完美日記(パーフェクトダイアリー)、花西子、INTO YOUなどの国内のコスメブランドが台頭、さらにはKK、話梅、WOO COLOURなどの小売チェーンも登場してきた。ECとライバルの両方から圧迫を受けることになった。

 

ワトソンズは古い感覚のまま店舗拡大を行った

このような状況に対して、ワトソンズはすぐに対応をすることができず、卸やメーカーに対して強い立場のままの感覚でいた。ワトソンズは店舗拡大をすることで、ECやライバルに対抗しようとして、年間300店舗ペースで拡大をしていった。

しかも、卸に対しては製品価格の20%もの「入場料」を要求していた。ワトソンズが圧倒的な販売力を持っていた時、卸やメーカーにとってその入場料は妥当なものだった。しかし、小売チャンネルが増えた今、それは無駄なコストに見えてくる。ワトソンズはさらにバーコード料金、プロモーション料金、商品棚料金など、さまざまな名目をつけて卸やメーカーから料金を徴収し、それで低価格販売を維持するようになった。さらに、ワトソンズは支払サイトが90日から160日という長いものだった。納品をしても、支払いをしてもらえるのは3ヶ月後から5ヶ月ごというものだ。

次第に、卸やメーカーは「ワトソンズに商品を流すと、数は売れるものの、利益がまったく出ない」と考えるようになった。

 

ワトソンズが起こした「0元ショッピング」の炎上

2022年、ワトソンズは大きな問題を起こした。ミニプログラムで購入し、30分から1時間で宅配する店舗EC、即時小売にも対応したが、ワトソンズは店舗にきてもらい、薬剤師やプロモーション担当が接客をすることにより、さまざまな商品を買ってもらうというのが王道になっている。

そのため、ワトソンズは、店舗にきてもらうために、「0元ショッピング」キャンペーンを行った。これは、ミニプログラムで購入しようとすると、いくつかの商品が0元、つまり無料になっているが、無料で購入できるのは店頭のみというものだった。ワトソンズはこれで店頭に顧客を集めようとした。

しかし、それに惹かれて店頭にいった消費者の多くが、0元の対象商品が売り切れになっていることを知らされて落胆をした。0元だからすぐに売れてしまうのだろうと納得をする人もいたが、納得をしない人もいた。そして、実は、0元対象商品は、売り切れたのではなく、倉庫に商品を置いたたまにして店頭に出していなかったということが、証拠写真つきでSNSで暴露されてしまった。

さらに、ライブコマースでは売り切れているはずの0元対象商品が販売をされている。不快に思った視聴者がチャットで文句を言い、炎上状態になると、ライブコマースの司会者は、それを「狂犬のようだ」と言ってしまい、火に油を注いてしまった。結局、北京市延慶区の市場監督管理局は、ワトソンズが虚偽の価格表示を行ったとして5万元の罰金を課した。

この事件により、ワトソンズは消費者からの信頼を失ってしまった。しかも、問題はこれで終わらなかった。今年2023年になって、ワトソンズの従業員がSNS「小紅書」(シャオホンシュー)で、ワトソンズを告発した。期限切れ商品や不人気商品を従業員に強制的に買い取らせていたという内容だった。

多くのネット民が「二度とワトソンズには買い物に行かない」と投稿した。

▲ワトソンズが行った「0元ショッピング」キャンペーン。主要商品が店頭で購入すれば0元になるというものだったが、倉庫に入れたまま店頭に出さないという不正が発覚をした。

 

「成功体験がじゃまをする」の典型例

ワトソンズの凋落は、「成功体験がじゃまをする」の典型例になっている。ワトソンズはあまりにも成功したため、卸やメーカーに対して強い立場を保つことができ、それを利用して消費者に高品質の商品を低価格で提供をしてきた。しかし、ECやライバルが台頭してきた時に、その考え方を根本から改めなければならなかったが、それができなかった。強い立場を持っていると錯覚をしたまま、対症療法で乗り切ろうとして、状況を悪化させていくだけのことになり、ついには消費者に対する誠実さを失ったプロモーションまで行ってしまった。

しかし、側から「成功体験がじゃまをした」と指摘をするのは簡単だが、内部にいたらそれはなかなか見えてこない。あたりまえのこととして染み込んでしまっているからだ。そのためにも、企業は常に多様性のあるスタッフ構成にしておく必要がある。時代が変わった時、自社のあたりまえが、世間から見たらいかに非常識なものであるかを指摘してくれるのは、企業文化の中心にはいない幅広い多様性を持ったスタッフたちなのだ。

ワトソンズはこれで終わってしまうわけではない。まだ3780店舗もある巨大小売チェーンなのだ。ここからワトソンズが軌道修正をすることができるか、注目をされている。