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ドローンが飛行しながらリアルタイムで3D地図を生成。従来手法に比べて10倍上の効率のドローン測量技術

武漢大学の学生チームが、リアルタイムのドローン測量技術を開発した。2022年9月5日に発生した四川省瀘定地震で、開発チームは被災地に入り、リアルタイムでデジタル3D地図の作成を行った。このプロジェクトは、第8回中国国際「インターネット+」大学生イノベーション創業コンテストで金賞を受賞したと極目新聞が報じた。

 

課題になっていたリアルタイムドローン測量技術

ドローン測量により地図を作成するフォトグラメトリー(写真測量法)は、すでに土木や都市計画などの分野で基本的な手法になっているが、リアルタイム処理が難しいという問題がある。武漢大学測量リモートセンシング情報プロジェクト国家重点ラボの肖雄武研究員は、この問題を解決しようとした。ドローンを飛ばし、手元のタブレットに測量の終わった部分の地図がリアルタイムで描かれていくリアルタイム写真測量法を確立しようとした。

それが可能になれば、産業応用の分野では業務効率が大きくあがることになり、さらに専門家でない人でも測量ができるようになり、ドローン測量の応用範囲が大きく拡大をする。

▲リアルタイムドローン測量技術を開発した武漢大学チーム。四川省瀘定地震では、わずか1日で被災状況の3D地図を制作し、救援活動に大きく貢献した。右から2人目がリーダーの肖雄武研究員。

 

リアルタイム測量なら効率は10倍以上

肖雄武研究員は、武漢大学の学生を集めて「及時図」プロジェクトを2016年に開始し、リアルタイムドローン測量システムDirectMapの開発を始めた。

従来のドローン測量の手法は、まず測量地域に複数の制御点を設置しなければならない。そして、ドローンが撮影をしながら飛行をした後、映像データを取り出してコンピューターで処理をし、「4つのD」と呼ばれるDEM(Digital Elevation Model、標高モデル)、DOM(Digital Orthophoto Map、補正映像マップ)、DLG(Digital Line Graphic、ベクトルデータ)、DRG(Digital gRid Map、グリッドマップ)のを生成して、処理をしなければ3Dモデル地図が完成しない。

肖雄武研究員は、仮に武漢市全域を測量するとすると、従来の手法では数百人のチームで1ヶ月ほどかかるという。これでもアナログな測量法に比べれば大きく省力化できることになるが、及時図のDirectMapを使うと、10数人のチームで1週間から2週間で可能になる。「効率は10倍以上向上します」という。

▲DirectMapによる作成された武漢大学キャンパスの3Dマップ。ドローンが飛行しながら3D地図をリアルタイムでつくっていく。

 

武漢大学チームが突破した3つの手法

しかし、このDirectMapの開発は簡単ではなかったという。解決をしなければならない問題は大きなものでも20以上にも及んだ。その手法は3つに分類することができる。

ひとつは北斗による測位衛星信号による測位を高精度化する技術だ。これにより、測量地域に制御点を設置しなくて済むようになる。

2つ目は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術の開発だ。自律的に自分の位置を補足しながら、地図を生成していく技術だ。一般にはお掃除ロボットや探索車など2DでのSLAM技術には成熟をしているが、及時図チームは3次元空間の中でのSLAM技術を確立する必要があった。

3つ目は3次元でのリアルタイムテクスチャマッピング技術だ。飛行をしながら、地形の3Dモデルを生成し、これに撮影した映像をマッピングしていく必要がある。

さらには飛行制御、リアルタイム通信技術、クラウドコンピューティングなどの技術開発も必要になった。

これらの開発により、「飛行・測量・処理・伝送・地図」という5つの工程が、ひとつの工程が終わってから次の処理に進むバッチ処理ではなく、飛行しながら完成した地図を次々に出力できるパイプライン処理が可能になり、測量効率を大幅に向上させた。

▲学部生を中心メンバーにしたため、教育効果も高かった。メンバーも学部のうちから高度な研究開発プロジェクトに参加することができるため、意欲的にプロジェクトを進めた。

 

四川省瀘定地震で被災マップを迅速に作成

及時図チームは、武漢、北京などでテスト測量を行ったのち、四川省瀘定地震が発生したため、9月8日に現地に入り、翌日の9日には20平方キロのデジタル地図と3Dモデルを完成させ、四川省緊急指揮センターに提供をした。

▲及時図プロジェクトの開発チーム。学部生が中心となり、夏休み返上で開発をした。

 

教育効果も考え、学部生中心のチームに

及時図チームのメンバーは15人だが、その多くが学部生で占められている。測量リモートセンシング情報工学ラボの学生の他、コンピューター学院、測量学院からも学生が参加している。

及時図プロジェクトは、大詰めの段階を迎えており、学生はこの8ヶ月ほどは授業以外のすべての時間をこのプロジェクトに注ぎ、夏休みも実家に帰らず、2023年の春節になってしばらくぶりに帰ることができたという。

肖雄武研究員は、大学院生ではなく、意図的に学部生を集めたという。教育的効果が大きいからだ。ただし、学部生にとって難易度は高く、途中で脱落をしてしまった学部生もいたという。

それも、イノベーション創業コンテストで金賞を得たことで報われた。今後は、起業をして商業化することが次の目標となる。