中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

私域流量の獲得に成功しているワイン、果物、眼鏡の小売3社の事例。成功の鍵はそれ以前の基盤づくりにあり

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今回は、私域流量の獲得に成功した3つの企業の事例をご紹介します。

 

私域流量(プライベートトラフィック)とは、簡単に言うと、自分の手で客流を獲得してビジネスを展開することです。対語になる公域流量(パブリックトラフィック)というのは、検索エンジンや大手ECなどからの送客のことです。

例えば、オンライン小売をしようと思ったら、日本では楽天やアマゾン、中国では淘宝網タオバオ)などのECに出店をするのが一般的です。お客さんはECプラットフォームが集めてくれます。その集めてくれたお客さんを獲得してビジネスをするというのが公域流量に頼ったビジネスです。商店街やショッピングモールと同じ仕組みです。運営する商店会、モール運営者がさまざまなキャンペーンや宣伝を行ってお客を集めてくれます。

このような手法は一見合理的に見えますが、楽してお客さんをつかめるわけではありません。ECの中で競争があるからです。例えば、タオバオでは、同じ商品を売っているライバルの販売業者がたくさんいて、商品名で検索をした時に上位に表示されるのは、タオバオが主催するキャンペーンなどに積極的に参加をする販売業者です。それには費用がかかります。あるいは買ってもらうには価格をライバルよりも安くしなければなりません。これも利益を圧迫します。

 

ところが、中国ではすでにECの利用者拡大が頭打ちになり、これ以上の伸びが期待できなくなっています。2021年のアリババの財務報告書から、新規顧客獲得コスト=営業費用支出/新規増加顧客数で計算してみると477元(約9500円)になります。数年前は200元程度であり、新興ECとも言えるピンドードーでは現在でも100元以下です。新しいお客さんを獲得するのに大きなコストがかかるようになっています。

アリババのビジネスは、このようにして獲得した客流を各販売業者に分配することで、分配するときに利益が発生します。つまり、アリババは客を捕まえて、それを販売業者に送客するビジネスをしているわけで、新規顧客獲得コストが上がるということは原材料費や仕入れ価格が高騰することに等しく、販売業者が支払うキャンペーン参加費用や広告出稿料なども上げていかざるを得ません。

しかし、そうなると、販売業者の視点では、アリババの流量に頼るよりも自分たちでお客を集めた方がいいと考えるようになります。これが現在、中国で私域流量が注目される最大の理由になっています。

この辺りの事情は、過去、本メルマガでも複数回にわたってご紹介しています。併せてお読みいただくと理解がしやすくなるかと思います。

vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

vol.127:WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み

vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か

 

私域流量に頼ったビジネスをものすごく大雑把に言うと、

1)SNSやショートムービーで発信をしてファンをつかむ

2)WeChatで会員管理をし、商品情報を拡散してもらう

3)SNS、ショートムービーに種草を行い、商品を販売する

ということになります。

このような私域流量の獲得に成功した事例を集め、ご紹介するというのは、読者のみなさんともお約束をしていますし、私自身も強い興味があり、事例を収集中です。その過程であることに気がつきました。それは、私域流量の獲得に成功した企業というのは、SNSでの発信の仕方やショートムービーのつくり方がうまいことはもちろんなのですが、それ以前から着実にデジタル化を進めてきているということです。むしろ、こちらの方が重要なのではないかと思うようになりました。

つまり、私域流量というのは、もっと大きなデジタル化(DX=デジタルトランスフォーメーション)のひとつであって、デジタル化をきちんと進めてきていない企業が、上辺だけ真似をして、流行りのダンスを取り入れたショートムービーを発信したところで、それだけで終わってしまいます。偶然話題になることはあっても、一時的なもので、安定したビジネスに着地させることができません。

今回、ご紹介する事例のひとつである宝島眼鏡の王智民会長は、「DXは万里の長城のようなもので、一朝一夕にできることではない」と述べています。また、「10年観察して、3年考え、1年で実行する」とも述べていて、これがDXのキモなのではないかと思います。長い時間をかけて自社をどう変革していくかをよく観察し、立案した上で、実行するときは一気呵成に短時間で行うという意味です。

さまざまな事例紹介というのは、この「10年観察をして、3年考え」の部分は省かれてしまうのが一般的で、「1年で実行する」の部分だけ語られます。ですから、だいたいの事例紹介は、「新顧客の獲得コストが上昇するという課題を解決するため、自社でクリエイティブチームを結成し、ショートムービーの配信を始めました。わずか1年でファン数が7倍に増え、業績にも好ましい影響が出ると期待しています」というようなことになりがちです。そのまま真似をしてみたところで、うまくいくとは限りません。

しかし、本当に重要なのは、この話の前の段階で何をしてきたかなのです。それまで積み上げたことがあれば、具体的な私域流量獲得の技法はほぼ自動的に決まると言っても過言ではありません。

 

そこで、今回は、私域流量の獲得に成功した企業として「酔鵝娘」「百果園」「宝島眼鏡」の3社の事例をご紹介します。いずれの場合も、どのSNSやプラットフォームを使っているとか、どのような内容を発信しているかという技法ではなく、私域流量の獲得を実行するまでにどのような改革を行い、どのような準備をしてきたかに注目してお読みください。

今回は、私域流量の獲得に必要となる改革についてご紹介します。

 

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vol.135:急速に変化する東南アジア消費者の意識。アジアの食品市場で起きている6つの変化

vol.136:株価低迷の生鮮EC。問題は前置倉モデルの黒字化の可能性。財務報告書からの試算で検証する