中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

重慶が人気の観光地になった理由。SNSで拡散し、ネット民が新たな観光スポットを発見する連鎖反応

中国で人気の観光都市となっている重慶市。そのきっかけは、洪崖洞の夜景がSNSで拡散をしたことだが、訪れた人が次々と新しい観光スポットを発見していくという連鎖反応が人気の観光都市にしたと尋常観が報じた。

 

人気になっている重慶観光

中国人の間で、今、最も人気のある観光都市は間違いなく重慶だ。重慶を象徴する観光名所は「洪崖洞」(ホンヤードン)で、長江沿いの崖に、重慶独特の吊脚楼という伝統建築手法を再現した商業施設で、中国人の間では「「千と千尋の神隠し」のモデルになったとも言われている(日本では台湾の九份と言う人が多い)。

夜景が独特の景観であるため、週末になると多くの人が押し寄せる。連休中には人が多すぎて、多くの人が近くの千厮門大橋から写真を撮りたがるため、重慶市では危険があるとして、自動車の通行を制限し、歩行者天国にすることもあるほどだ。

▲電飾を入れることで夜景が美しくなり、この映像が抖音で拡散することにより、多くの人が訪れる観光スポットになった。

 

8D魔幻都市と呼ばれる重慶市

この他、重慶軌道交通2号線の李子壩駅は、李子壩正街というビルの6階から8階になっており、モノレールがビルの中に吸い込まれていく様子が見られる。さらに、解放碑左営街には地上40mの高さの歩道橋があり、全長112mの皇冠エスカレーターもある。

重慶の中心部は傾斜地にあるため、都市の構造が複雑で、あるビルの6階から外に出ると、違うビルの1階になっているなど、都市全体が立体迷路になっているようで、「8D魔幻都市」とも呼ばれる。

重慶観光で有名な李子壩駅。駅がビルの中にあり、モノレールがビルに吸い込まれている様子が見られる。観光客が重慶を歩き、新たな観光スポットを発見する連鎖反応が起きている。

 

tamakino.hatenablog.com

 

2002年に再開発された洪崖洞

しかし、重慶が観光都市となったのは意外に最近のことだ。洪崖洞は重慶で最も古い街だが、元々は小さな家が点在する地区だった。重慶市はこの古い街を再開発するために、2002年に再開発工事の公募を開始する。これに、龍湖、協信、小天鵝などのデベロッパーが名乗りをあげた。

この入札を獲得したのが小天鵝で、四川美術学院が設計した案を採用していた。まったく新しいデザインの建築物ではなく、従来の伝統的な建築手法や景観を模し、洪崖洞の元々の空気感を残した商業施設にするというものだった。

▲再開発前の洪崖洞。違法建築の家が並ぶ地区だった。建物の倒壊などもあり、重慶市は再開発をすることにした。

▲洪崖洞地区は崖に位置をしているので、家がせり出し、下から柱で支える吊脚楼と呼ばれる建築手法が使われている。中国では伝統的な手法だが、洪崖洞の街ができ始めたのは1940年代で、単なる違法建築にすぎない。

 

赤字が続く商業施設「洪崖洞」

こうして、2006年に現在の洪崖洞が完成をし、商業施設としてオープンをしたが、まったく人気が出なかった。オープン以来、連続5年で赤字となり、ようやく黒字化をしたと思えば再び赤字になるなど、2016年には経営破綻寸前の状態となった。

人が入ってくるのは、最上階の展望台と4階の飲食街だけで、それ以外は閑古鳥が鳴く状態が続く。他都市の観光客が重慶にきても、洪崖洞は素通りで、磁器口老街などの繁華街や郊外の大足石刻、三峡クルーズなどに行ってしまう。

▲現在の洪崖洞。昼間はあまりパッとしない商業施設で、オープンから5年連続で赤字となり、2016年には経営破綻寸前まで追い込まれた。

 

電飾を入れたらネットでバズった

2018年に転機がやってきた。小天鵝は、洪崖洞をテコ入れするために最後の賭けに出た。巨額を投じて、洪崖洞の建築物全体に電飾を入れたのだ。これが幻想的な現在の風景を生み出し、若い世代を中心に人気となった。

そして、決め手となったのが中国版TikTok「抖音」(ドウイン)で、洪崖洞の夜景の映像が拡散をし、全国的な人気となり、洪崖洞を見に、重慶を訪れる人が急増をした。さらに、抖音やSNSで、「千と千尋の神隠し」のモデルになった場所と紹介されると、人気が過熱をした。本当にモデルなのかどうかはわからないが、若いアニメ世代が重慶を訪れ、洪崖洞に押し寄せるようになった。

▲近隣の千厮門大橋から撮影する洪崖洞がベストアングルとなるため、橋の上は多くの人が殺到をする。重慶公安は、連休などには通行止めにして、観光客に橋を開放している。

▲洪崖洞は、レストランや小売店などが入った商業施設で、週末になると多くの人で賑わう。

 

観光客が観光スポットを発掘する連鎖反応

若い世代が重慶にくるようになると、次々と重慶の魅力を発見し、SNSで発信をするようになった。ビルに吸い込まれるモノレール、地上40mの歩道橋、複雑すぎる高速道路の立体交差など、このような若者たちが発見をし、SNSで発信をしたものだ。「8D魔幻都市」は、若者たちが発見をし、SNSで広めたと言っても過言ではない。

つまり、重慶の人気はここ5年のことなのだ。2006年に完成をした洪崖洞は、12年も苦しみながら、ようやく重慶を代表する観光スポットになることができた。