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独特の文法を持つ縦読みマンガ。少数厳選でIP化を加速させることでユニコーンに成長した「快看漫画」

中国で最も人気があるコミックサイト「快看漫画」。掲載作品数は少ないものの、少数厳選をし、すべてが投稿者によるオリジナル。少数に厳選することで、リソースを集中させ、IP化を加速することで、漫画家の生活が成り立つようにした。企業価値は160億元となり、ビリビリに続くサブカル系のユニコーン企業に成長したと華商韜略が報じた。

 

中国で最も人気のある漫画サイト「快看」

中国で最も人気のあるコミックサイトは「快看漫画」(クワイカン)(https://www.kuaikanmanhua.com)だ。2014年12月にサービスがスタートし、テンセント、セコイヤキャピタル、韓国のNaver系のOne Storeなどが40億元の投資を行い、快看の企業価値は160億元(約3100億円)と推定され、ビリビリに続くユニコーン企業に成長した。

快看では漫画を無料で読むことができる。人気作品を誕生させ、IPの価値を高め、同人作品やイラストなどの二次創作の使用料、さらにはアニメ化、グッズなどの使用料で利益を得るビジネスモデルだ。IPを育て、そのIPを商用展開することで、利益を上げている。

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▲快看の創業者、陳安妮。自身も漫画家で、デビューをするまで苦労をしたことから、市中に埋もれる才能を世に出すために快看漫画を起業した。

 

少数精鋭でIP価値を高める戦略

そのため、快看は他のコミックプラットフォーム「ビリビリ」や「テンセントアニメーション&コミック」に比べて、掲載点数は少ない。一般の投稿も受け付けているが、採用される確率は非常に低く、高いクオリティが要求される。一方、採用された場合は担当者が、IPビジネスを含めた戦略を構築し、じっくりと育てていく。

質の高いコミックを厳選したことによって、読者が自分の好みの作品を見つけやすくなっている。

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▲快看漫画のアプリ。利用者にリコメンドされるコミック数は5、6点。AIにより嗜好を分析し、厳選してリコメンドする。これにより、利用者が迷わずにコミックを読み始めることができる。

 

独自の文法を持つ縦読みコミック

また、コミックは日本の漫画とは異なり、スマートフォンで読まれることを意識して縦読み形式になっている。コマを縦にただ並べただけでなく、場面転換のための風景描写は縦の長さで時間の流れを表現する、登場人物の驚きの声はコマの上部に配置し、スクロールをしていくと、先に驚きの声の吹き出しが見え、それから内容が見えてくるなど、縦読み独特の文法、表現形式が生まれている。

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▲快看はスマートフォンでスクロールをしながら読むことを意識した縦読みコミックになっている。キーになるセリフは上部に入れる(早く見える)など、独特の文法、表現形式が生まれている。

 

アルバイトから始めた漫画家志望の創業者

創業者の陳安妮(チェン・アンニー)は1992年生まれ。小さい頃から絵が好きで、教科書は落書きで埋まり、学校の黒板に絵を描いていた。画家になりたかったが、親は裕福ではなく、美術学校に進学することなど無理な話だった。

正式な美術指導が受けられない中で、陳安妮は次第に漫画に夢中になる。読むだけでなく、すぐに自分でも描くようになった。しかし、教室で漫画を書いていると、教師がそれを発見し、「あまり上手とは言えない。漫画家になれる可能性は100分の1もない」と心ないことを言われる。

大学には美術とは関係のない学部に進学をしたが、漫画家になる夢は捨てていなかった。父親が交通事故に遭い、一家の収入源がなくなるということが起きた。この時、陳安妮はちょうど友人から1ページ30元で漫画を書かないかと誘われた。家の収入の足しになることもあり、陳安妮は喜んで受け、友人も出来栄えに満足し、報酬を支払ってくれた。

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▲快看の創業者、陳安妮とその恋人である王小明。二人の恋愛模様を描いた「安妮と王小明」が話題となり、陳安妮は人気漫画家となった。コミックに登場する衣装を着て、コスプレをする二人。

 

SNSで作品を発表し、人気漫画家に

これがきっかけになり、陳安妮は本格的に漫画を描くようになる。同級生から500元を借りて、液晶タブレットを買い、ウェイボーで「偉大なアンニー」というアカウントで連載漫画を発表し始めた。ストーリー漫画というよりも、身近な生活の中から題材を拾ったエッセイに近い作品だ。

2012年、生活エッセイの中で好評だったボーイフレンドとの恋愛エピソードを連載のテーマにし、「安妮と王小明」という連載を始めたところ、読者が急速に増え、話題となり、それが最初の単行本「ニマー!これが大学だ!」の出版につながることになった。

大学を卒業する頃には、人気漫画家として活動ができるようになっていた。

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▲陳安妮がSNSで発表した「安妮と王小明」。二人の恋愛エピソードを描いたエッセイコミックで、これが人気となり、プロの漫画家への道が開けた。

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▲陳安妮が最初に出版した単行本コミック。出版社に頼らず、SNSを使って、ここまでたどり着いた。

 

市中に埋もれた才能を発掘するビジネスを始める

漫画家としての活動を始めてみると、自分と同じ境遇でありながら、自分よりも面白い漫画が書け、自分よりも努力をしているのに、チャンスが得られず、市中に埋もれている人がたくさんいることを知った。

2014年、陳安妮は、この状況を変えるビジネスを興したいと考え、北京に向かった。北京の海淀区の五道口に部屋を借りた。ここは大学が多く、若者の文化の発信地になっている学生街だ。そこで「dream for granted」(夢は叶う)という名前のスタジオを設立する。

当時、すでにコミックが読めるプラットフォームはいくつか存在をしていた。しかし、その多くが「読むのにお金が必要な」会員制、購読、レンタルという形式だった。

 

コミックはUGC(ユーザーが生むコンテンツ)

陳安妮は、この形式を変えたかった。まず、コミックはUGCであると定義した。UGCはUser Generated Contentsの略であり、画家のように正規の教育を受けた者がプロとしてコミックを描くのではなく、最初はアマチュアの投稿作品から始まり、それが評価をされてプロとしての活動が始まる芸術ジャンルだと定義した。

しかし、プロとして活動することはきわめて難しい。当時コミックは20万部売れればヒットの部類で、それだけでは生活が成り立たない。コミックがIP化をして、アニメやグッズに展開できるようになり、漫画家はようやく生活が成り立つようになるが、その状態になるまでは長い年月がかかり、その間に多くの漫画家が挫折をしてしまう。

この状況は、従来の有料購読方式では何も改善されない。しかし、陳安妮がそういう主張をすればするほど、投資家たちは逃げていく。投資家にしてみれば、漫画家視点でビジネスを構築されても、利益が出るのは遠い将来のことになる。それどころか、投資資金が漫画家たちの生活費になるだけで利益は出ないままに終わるかもしれないと思えたのだろう。

 

少数精鋭にすることでIP化を加速させる

そこで、陳安妮は少数精鋭方式を取ることにした。大量にコミックを掲載するプラットフォームにするのではなく、優れた投稿作品に厳選をし、リソースを集中させ、IP化を積極的に図っていく。

2020年の段階でも、快看漫画と契約をした漫画家は5000人、作品数は8000部程度だ。多くのコミックプラットフォームが数万部のコミックを掲載しているに比べると極めて少ない。

さらに、読者に推薦されるコミックも少ない。独自のリコメンドアルゴリズムを開発し、その読者の嗜好アンケートや閲覧履歴から、少数のおすすめ作品を提示することで、読者がすぐに自分の好みのコミックを見つけられるようにした。

また、閲覧傾向はAIによる分析を行い、どのような読者層なのか、どのようなエピソードが受けたのかを把握し、それに基づき、コミックの内容を変えていく。このような積み重ねにより、人気作品が短時間で生まれるようになり、IP展開までのライフサイクルが大幅に短縮された。

 

漫画家志望の登竜門となっている快看

2017年には有料のコミックの掲載を始め、VIP会員制度(サブスク)を導入した。この時点で、漫画家に支払った原稿料はすでに10億元(約190億円)を超えていた。

漫画家志望のアマチュアにとって、快看漫画は最難関の登竜門となっている。読者にとって、快看漫画は自分の好みの漫画がすぐに見つかるコミックプラットフォームになっている。ビジネスにとって、快看漫画はIPを短期間に大量に生産するプラットフォームになっている。快看漫画は、現在、英語圏と韓国、日本に進出する計画を進めている。