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追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

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今回は、アリババ包囲網についてご紹介します。

 

アリババが世界最大の流通総額(GMV)を持つEC企業であることは説明するまでもありません。アマゾンの2倍近いGMVがあります。アマゾンはグローバル、アリババは実質中国国内だけなので、その巨大さというか浸透ぶりには目を見張るものがあります。

しかし、2021年はアリババに暗雲が立ち込め始めました。コロナ禍や中国政府の規制強化、米国の中国企業に対する規制など、さまざまな外部条件がありますが、今回はそこは置いておいて、アリババのビジネスモデルが成立しなくなりつつあるという内部条件の問題をご紹介します。内部条件の問題ですから深刻です。今は、まだ中国では圧倒的な巨人ぶりですが、じわりじわりと苦しくなっていく可能性があります。

アリババのライバルである京東(ジンドン)、ソーシャルEC「ピンドードー」、SNS EC「小紅書」(シャオホンシュー)、ショートムービープラットフォームの「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)のライブコマースなどは、直接アリババに対抗をするという意図は持っていなくても、自分たちが生き延びるためには、アリババの市場を切り取らざるを得ません。このような新興ECが頑張れば頑張るほど、アリババは苦しくなります。新興ECは知らず知らずのうちアリババ包囲網のようなものをつくり始め、いよいよ巨人アリババも苦しくなってきたことが表に出てくるようになりました。

アリババのECである「淘宝網」(タオバオ)、天猫(Tmall)はそのビジネスモデルを変えていかざるを得ません。

 

これについては、「vol.117:アリババに起きた変化。プラットフォーマーから自営へ。大きな変化の始まりとなるのか」でご紹介しました。あわせて読んでいただくと理解が深まりますが、簡単に復習をしてきます。

アリババのECは、アマゾンのような自営方式ではなくマッチング方式です。アマゾンや京東などは、小売店や量販店がオンライン化をしたもので、自社で商品を仕入れ、自社で販売し、自社で配達をします。このような方式では、設備投資は莫大になりますが、利益幅は大きくなります。

一方、アリババ、eBay、楽天は、売りたい人と買いたい人をマッチングさせる方式です。倉庫や物流を用意する必要がないため、成長速度は速くなります。しかし、販売手数料などわずかな収益しか得られないため、規模を大きくしなければ運営が維持できなくなります。

このマッチング方式であったアリババが、「天猫自営旗艦店」(Tmallマート)という自営店舗を天猫の中に出店しました。マッチング方式であったのに、アマゾンや京東のような自営店方式も一部取り入れたのです。

タオバオは、出店料無料、販売手数料無料(出店時に保証金は必要だが、退店するときに返却される)の無料で出店できるECです。しかし、ただ出店しただけでは商品はなかなか売れないので、アリババに有償で広告を出稿してタオバオ内に掲載したり、有償でプロモーションに参加をしてセールなどに参加をする必要があります。この有償部分がアリババの売上となっていました。

しかし、小紅書や抖音、快手に公式アカウントをつくり、写真、ムービーなどで自社商品を紹介し、タオバオに出品している商品を直接このようなSNSやショートムービーで販売することができるようになりました。つまり、商品プロモーションはアリババに頼らなくても自分たちでできる環境が整ってきました。これにより、アリババの収益力は落ちることになります。この危機感が、アリババを自営店舗の出店に向かわせた可能性があるというのがvol.117でのお話でした。

 

しかし、アリババの収益力を削いでいるのは、これだけではなく、ピンドードーが大きな存在になっています。

最近、あまりピンドードーの話題を耳にしないという気がしている人も多いかもしれません。以前は「100億補助」や「9.9槍購」などのド派手な大型キャンペーンを矢継ぎ早に行って、常に話題を提供していましたが、最近はこのようなキャンペーンも鳴りを潜めています。ピンドードーは元気を失っているのでしょうか。逆です。2021年Q4には66.20億元の純利益を生み出し、黒字は3期連続となりました。それまでずっと赤字運営できたピンドードーが、大型キャンペーンの頻度を落として、キャンペーン予算を抑えた結果、連続黒字化をしているのです。これは、アリババが最も恐れていた事態でした。



▲ピンドードーは2021年Q2に黒字化を達成し、3四半期連続で黒字となった。これは安定運営に入ったことを示しており、アリババが最も恐れていたことだった。

 

2014年、アリババは米ニューヨーク市場に上場し、莫大な資金を調達します。上場というのは創業者にとっては一気に富豪になれるチャンスであり、喜ばしいことですが、企業としては正念場でもあります。莫大な資金を活用して、さらに成長をすることが求められるからです。ところが、多くの企業が創業時の目標である市場を制して一定の成長をしてから上場をすることになるので、上場後の成長は第2創業と言えるほどのエネルギーを必要とします。お金持ちになってしまった創業者の中には、そのエネルギーがもう出てこない人も少なくありません。結果、上場ゴールやIPO即エグジットなど、結果的に株主を裏切ることになる創業者も少なくありません。

アリババも、多くの人がタオバオを利用するようになっており、すでに利用者数や客単価に頭打ち感が出ていました。しかし、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)はそこで成長を止めてしまうような消極的な人でありません。

アリババの新しい戦略として、農村に目をつけました。これは後に下沈市場と呼ばれるようになります。ネットサービスを使うのは、都市の中所得者層から上で、そこから下の低所得者層は、スマートフォンもPCも持っていない人が多く、ネットサービスの対象消費者にならないと見られていました。しかし、ジャック・マーはこの対象消費者層の下に沈んでいる人たちも、早晩スマートフォンを使うようになり、収入さえ上がればECを利用するようになる。そう考えて、いち早く下沈市場に手を伸ばしたのです。

ECのビジネスは、小売店に買い物に行っていた都市住人を奪う肉食的ビジネスでした。しかし、下沈市場はまだ購買力が弱いので、育てて収穫する草食的ビジネスです。これは、都市と農村の収入格差の解消、農村の貧困問題の解消にもつながる国家に貢献する事業にもなります。ジャック・マーは、莫大な資金を得て、この難事業に挑むことになります。

 

2014年10月には、最初の「農村タオバオ」の店舗が開店します。これはECと農村を接続するO2O(Online to Offline)のステーションでした。下沈市場では、スマホの普及率もまだ高くはなく、決済はもちろん現金が主流でした。そのため、ECのタオバオを使ってくださいと言っても無理があったのです。そこで、農村タオバオの店舗に行くと、PCでタオバオの画面を見て商品が選べ、店長が代理で注文をしてくれます。後日、商品が配送されると連絡が行き、取りにきた時に現金で決済をするという場所でした。タオバオで買い物をする習慣を養成しようとしたのです。

これだけではECは普及しません。下沈市場は収入が格段に低いからです。そこで、アリババは「タオバオ村」「タオバオ鎮」の設置をしてきます。これは農村の産業をアリババが支援をする仕組みです。農産物とその加工品、縫製業などが主ですが、その村の特徴のある産業をアリババが支援をして、生産基地にするという試みです。最終的に3000以上ものタオバオ村が誕生しました。

つまり、下沈市場に産業を起こし、地元の人が現金収入が得られる状況をつくり、それでタオバオで買い物をしてもらおうというものです。

 

しかし、なかなかうまくはいかなかったようです。農村タオバオの専用アプリまでつくられましたが、2017年6月にはタオバオアプリに統合されてしまいました。これが大きな節目になりました。

タオバオというのは典型的なECの構造になっていて、欲しい商品を検索をして探し、レビューを読んで商品を決め、アリペイで電子決済をして、配送してもらうというものです。これが農村の消費スタイルからずれていたのです。

農村では、欲しい商品があったら、雑貨屋などに行って、店主に欲しい商品を告げます。すると、店主が商品を選んでくれるので、店主を信用して現金で購入します。商品は自分で持って帰るのが基本です。下沈市場の消費者から見れば、店主に言えば商品に詳しい専門家が選んでくれるのに、なぜ自分でレビューを読まなければならないのか。現金で決済すればお金をわたして終わりなのに、なぜ電子決済のような回りくどいことをしなければならないのか。すぐに使いたいのに、なぜ宅配便で送られてくる間待たなければならないのかと、ECの方が不便に感じたのです。ECは幅広い選択肢の中から商品が選べるので、良質のものが低価格で手に入れらることが魅力なのですが、当時の下沈市場の消費者は、必要だから買うだけで、商品を選ぶという感覚が濃くなかったのです。

そして、アリババは、もうひとつの成長戦略である新小売に相対的に軸足が移っていきます。アリババが開拓し、去った後の下沈市場にうまく入り込んだのがピンドードーでした。

つまり、ピンドードーは、アリババがやろうとして、失敗とはまでは言わないものの苦労をしているところに、後からやってきて易々と下沈市場を制したのです。この点で、アリババにとってピンドードーは単なる市場がかぶる以上のライバル心があるのです。それだけではなく、成長をするとピンドードーは、アリババのビジネスモデルを破壊しかねない影響を与えるようになります。ですので、ピンドードーが3期連続で黒字になって安定運営のモードに入ることは、アリババにとって恐怖なのです。

では、ピンドードーは、アリババのビジネスモデルに対して、具体的にどのような脅威となるのでしょうか。今回は、ピンドードーを始めとするアリババ包囲網についてご紹介します。

 

 

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今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.122:ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

vol.123:利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由