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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

癒しアプリ「旅かえる」がなぜか中国で過熱人気

日本のアプリ開発会社が開発した「旅かえる」がなぜか中国でバカ受けしている。累計ダウンロード数は1000万を超え、国別比率は日本2%、米国1%であるのに、中国が95%になっていると環球網が報じた。

 

中国版もないのに中国で大人気の放置ゲーム「旅かえる」

旅かえるは、いわゆる放置系のゲームアプリ。かえるに食べ物と道具を持たせておくと、いつの間にか、かえるは旅に出る。日本各地に旅に行き、帰ってくるときはおみやげを持ち帰り、写真を見せてくれる。いつ旅に行き、いつ帰ってくるかはかえる任せ。帰ってくると、プッシュ通知で教えてくれる。

これがなぜか中国で大人気で、リリース後2ヶ月で1000万ダウンロードを突破した。国別ダウンロード数では、日本2%、米国1%なのに対して、中国が95%以上となり、中国のアプリストアでは、大人気の「王者栄耀」を抜いてトップになった。

この人気の広がりには、SNSウェイボーでの口コミが大きかったという。

なお、「旅かえる」に中国語版は存在せず、中国人も日本語版で遊んでいる。ところどころ漢字があるので、だいたい意味はわかる。しかし、わからないところも多い。それがまた面白さになっているという。

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▲正式版の「旅かえる」。ゲームとしては典型的な放置ゲームだが、イラストなどのクオリティは高い。このテイストも仏系青年に受ける大きな原因になったと思われる。

 

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▲中国のアップストアのゲーム部門では、旅かえるがトップになり続けている。中国版はまだリリースされてなく、日本語版がダウンロードされてトップになっているという異例の事態だ。

 

かえるを待っていると親の気持ちになる

なぜ、中国で「旅かえる」がここまで受けるのか、その理由をさまざまなメディアが分析をしている。

実際に遊んでいる中国人に話を聞いてみると、「親の愛情を思い出すから」という答えが多かった。中国では、人口を都市部に集中させる政策を進めているが、それでも都市人口は約6割で、農村人口はまだまだ多い。農村の若者は、仕事を求めて、親元を離れ、都市で暮らしている。都市で生まれた若者も、仕事の関係で別の都市で暮らすというケースが多い。これが、毎年、春節旧正月)の帰省での民族大移動を生む背景になっている。

旅かえるは、いったん旅に出てしまうと、いつ帰ってくるかはわからない。「かえるはいつ帰ってくるのか」と心配をしながら待っている時に、都会暮らしをしている自分を待っている親の気持ちを理解し、切ない気持ちになるという。夜中に一人で涙を流したことがあると言った人もいた。

また、中国では、かえるは子ども向け童話に登場するポピュラーなキャラクターで、おたまじゃくしなどと絡めて、家庭のことを扱った寓話に登場することが多いので、容易に家庭のことに連想がいくのだと教えてくれた中国人もいた。

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▲日本語であっても、漢字の部分は理解できる。「中部地方」「食感」「和菓子」などは理解ができる。しかし、これがどんな味のお菓子なのかは、多くの人がわからない。これをSNSで教え合うことも楽しみのひとつになっていて、そのことが口コミの厚みを増す要因のひとつにもなっている。

 

新しい淡白系生き方の「仏系」

この旅かえるは、「仏系青年」「仏系女子」に受けていると分析する記事もある。「仏系」とは淡白な生き方をするといった意味で、「あるがままに」のような響きを持った言葉だ。「家と車を買って、家庭を築くために、全速力で走る」という30代、40代の中国人の考え方とは対極にあり、「手に入る分だけで満足をする」という生き方なのだという。そもそもは、日本で一時使われた「仏男子」の訳語のようだ。

と言っても、欲望がないというわけではないようだ。「仏系買い物」「仏系追っかけ」というように、動作や現象に「仏系」という言葉がくっつく。仏系買い物とは欲しいものをECサイトや近くのモールで探してみるが、見つからなければそれで別のものに興味を移してしまい、それ以上探し回るようなことはしない。仏系追っかけとは、自分の好きなタレントやアイドルの情報をネットで熱心に読み、イベントにもいくが、それ以上、グルーピーのように追いかけ回すようなことはしない。

仏系青年がよく使う3つの言葉として「どれでもいいです」「それでいいです」「これでもいいです」が挙げられる。

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▲仏系青年をからかうネットミーム(ネットに流れている画像)。仏系青年は、どれでもいいです」「それでいいです」「これでもいいです」の3つの言葉をよく使うというもの。

 

異なる感覚を持った若い世代が社会の中心になろうとしている

このような仏系青年、仏系女子が一定数登場しているということは、中国の都市部の若者がそれなりに豊かになったということを示している。仏系は、決して「手に入らないからあきらめる」ではなく、「手に入れようと思えばできなくはないが、それに振り回されたくはない」という感覚なのだ。

ギリギリの生活をしている若者にこのような発想は生まれない。ある程度の収入があり、ある程度の生活水準を確保できているからこそ、このような考え方が生まれてくる。

以前から、中国の10代、20代(90年代生まれと00年代生まれ)は、上の世代とまったく違った感覚を持っていると言われてきた。要は、生まれた時にすでにインターネットが使えて、(中国の場合は)小説、映画、音楽などのコンテンツが実質無料で手に入る環境で育ってきたデジタルネイティブ世代だ。旅かえるの思わぬブームは、この世代と結びついていると分析するメディアもある。

彼らが、社会の中心年代になるにつれ、中国社会は再び大きく変わっていくのかもしれない。

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▲もちろん、中国には非仏系の商魂たくましい人もたくさんいる。旅かえるが人気になると、早速大量の偽アプリが登場した。広告、課金などで便乗して儲けようというものだ。削除などの対策はされているが、次から次へと登場している。内容は、似て非なるものが多い。

 

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