中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

下沈市場の消費力は都市と遜色がない。マス広告に影響されない新たな巨大市場

企鵝智庫は「2019-2020下沈市場ネット民消費&娯楽白書」を公開した。下沈市場とは、地方や農村の市場のこと。ECなどの多くのビジネスが都市部ではすでに飽和をしている。そこで、脱出口として下沈市場が注目されている。下沈市場の中年の消費力は都市と遜色がなく、また、マス広告にも左右されないという下沈市場特有の性質も明らかにされている。

 

注目される「下沈市場」

中国のマーケティング界隈で、今最も注目されているキーワードが「下沈市場」だ。下に沈んだ市場とは、地方都市や農村のこと。1級都市と2級都市までが都市市場だとすれば、3級都市以下農村までが下沈市場ということになる。要は「地方市場」ということになる。

なぜ地方市場が注目されるのか。それは都市市場があらゆる面で飽和をし始めているからだ。

さらに、中国では急速な少子化が進んでいる。人口ピラミッドを見ると、現在の45歳から54歳までと30歳から34歳までが突出して多く、50歳前後のピークは改革開放からの経済成長を、30歳のピークは昨今のIT革命による経済成長を支える消費者群だった。その人口ボーナスが消える。

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▲中国の人口ピラミッド。ECなどのビジネスが都市で飽和をし、さらに急速な少子化が始まっている。そのため、小売業は地方の下沈市場に注目するようになっている。PopulationPyramid.netより引用。

 

スマホ利用者数では地方都市が大都市を上回る

中国の都市と農村といえば、従来は大きな格差があった。それゆえ、都市では農村から安価な労働力を利用して発展をしてきた。しかし、この格差もかなり解消されてきている。

大都市人口(1級都市から2級都市まで)の人口は、約3.9億人だが、下沈市場人口(3級都市以下)は約10億人もいる。都市に比べてスマートフォン利用率は低いものの、絶対数で比べると、すでにネット民の数は下沈が、都市を上回っている。3.96億人の地方人がネットを使っている。これは米国の総人口とほぼ同じ規模だ。

しかも、ネット利用率は伸びていて、収入の伸びも都市よりも大きい。まだまだ消費力では都市には及ばないものの、将来有望な市場として、ECを始めとするITサービスが期待をしている。

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▲大都市、地方都市のスマホ利用者絶対数。人数では、すでに下沈市場の方が大きくなっている。

 

都市住人と変わらない消費力を持つ下沈中年

収入格差はまだあるものの、消費面ではその格差は急速に縮まっている。都市の1月の平均消費額は4055元だが、下沈の平均は2960元。さらに18歳から30歳までを「青年」、31歳から45歳までを「中年」として比較すると、下沈中年の平均消費額は3230元となり、都市の格差はかなり小さくなる。

さらに、毎月給料を使い切って、貯蓄額が0円の「月光族」の割合も、下沈中年では都市とほとんど変わらない。毎月の平均貯蓄額も1757元と都市と遜色がなく、下沈中年の収入が上がってきていることが伺われる。地方都市の物価の安さを考えると、生活水準では都市とほぼ変わらない。そういう人たちが、スマホを使い、ITサービスを使うようになるのは当然のことだ。

ただし、下沈の若い世代である下沈青年は、まだ収入が低く、月光族の割合も高い。

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▲都市と下沈市場の収入別構成。下沈市場は都市よりも総じて収入が低い。31歳から45歳までの下沈中年では、都市と遜色がなくなってきている。

 

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▲平均消費額も下沈は都市より低いが、下沈中年では都市に迫るようになっている。

 

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▲貯蓄額を見ても、都市と下沈中年の格差は縮まっている。また、月光族(毎月の収入を使い切ってしまう貯蓄ゼロ世帯)の割合も、都市とほぼ同じになっている。

 

教育を重視する下沈中年、娯楽を重視する下沈青年

下沈市場では、どのような消費を重要視しているか、3つ選んでもらうと、「都市」「下沈青年」「下沈中年」で大きな違いはない。ただし、下沈中年は都市よりも子女教育を重要視し、服飾、娯楽、美容化粧といった自分が楽しむ消費に関しては重要視をしていない。

また、下沈青年が子女教育を重要視していないのは当然としても、服飾、娯楽、美容化粧といった自分が楽しむ消費については、都市よりも重要視している点が注目される。

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▲どのような消費を重視しているかを尋ねたアンケート結果。下沈青年は都市よりも娯楽系を重視し、下沈中年は都市よりも子女教育を重視している。

 

国産ブランドに対する肯定感が強い下沈中年

下沈市場の大きな特徴が、国産品に対する肯定感だ。都市部では、国産品はまだまだ品質を高める必要があると考える人がいるが、下沈市場では国産品に対する肯定感が強い。特に、購買力の面で都市と肩を並べるようになった下沈中年は、国産品志向が強い。

都市の消費者は、海外ブランドと国産品を並列に並べて比較ができ、下沈ではまだそこまで海外製品が身近ではないということもあるが、国産品を肯定的に見ている購買力のある下沈中年は、中国企業にとって大きな市場になっている。スマートフォン、家電製品、化粧品などでは、国産品志向の傾向が明らかになってきている。

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▲国産ブランドに対して肯定的な人の割合は、下沈市場の方が高い。しかし、愛国のような思想的なものではなく、海外ブランドに接する機会が少ないこと、国産ブランドの品質が高く価格が抑えられていることから、合理的な選択をしているのだと思われる。

 

愛国的な理由ではなく品質で国産ブランドを選んでいる

例えば、スマートフォンの使用ブランド調査では、ファーウェイが1位になり、2位がアップルと、それにvivoOPPOが続き、都市部と傾向はほぼ同じだ。しかし、「次に買う時にはどのブランドを選びたいか」という質問では、圧倒的にファーウェイが上位にくる。同じ、国産ブランドでありながらvivoOPPOは高くない。

つまり、「中国人として国産品を支持する」という民族意識的な国産志向ではなく、品質と価格のバランスを考えて、最適なものを選ぶという合理的な選択をした結果、国産を選んでいるのだと推測される。海外ブランドに対する過剰な信仰のようなものがない分、都市よりも国産志向が強くなっている。

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▲下沈市場でのスマートフォンブランド。ファーウェイ、アップルが多く、都市部と構成比率はほぼ同じ。しかし、「次に買うブランド」は圧倒的にファーウェイが多くなる。一方、同じ国産でもvivoOPPO、小米はさほどでもない。国産品を盲目的に志向するのではなく、性能価格比を考えた合理的な選択だと推測される。

 

マス広告を嫌う下沈市場。ソーシャルを重要視

商品を購入する時に決め手になる要素を複数回答してもらったところ、最高位に来たのは優待価格、割引だった。品質と価格のバランスを重視している。

また、メディア広告の効果は極めて低く、「友人」というリアルなソーシャル、「公式アカウント」「ウェイボー、Tik Tokでの高評価」というデジタルなソーシャルの影響力が高い。

動画や音楽、コミックといったサブスクリプションサービスを選ぶときも、65%の下沈ネット民が「広告が少ないこと」と答えており、理由の1位になっている。

下沈市場は、広告よりもリアル/デジタルのソーシャルに影響されて購入する商品を決定し、コストパフォーマンス重視で、国産品を選ぶ。優待などの施策が購入の動機になるということが言えそうだ。

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▲下沈市場では、友人などのリアルソーシャル、SNSなどのデジタルソーシャル経由で商品を選ぶことが多く、テレビなどのマス広告がほとんど参考にされていない。これも下沈市場の大きな特徴となっている。