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賃金が低下傾向でも外売騎手急増の背後に、ものづくり中国の危機

コロナ禍により、外売騎手が60万人も増えるという急増ぶりを見せている。しかし、需要と供給の関係で決まる騎手の賃金は低下傾向にある。賃金が下がっているのに増え続ける理由は、スキルを必要としない気楽な仕事だからだ。若者が製造業のような修練、習熟を避ける傾向が出てきているのではないかと科学一本道道が報じた。

 

外売騎手が60万人の急増

コロナ禍により、多くの商店が休業をした後、2月10日から営業再開、職場復帰が始まった。しかし、営業を再開できない商店も多く、2月10日から4月10日までの2ヶ月間で、外売騎手(フードデリバリー配達スタッフ)が美団(メイトワン)では、33.5万人、ウーラマでは24.4万人増加をした。両方合わせて、60万人が増加したことになる。

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▲コロナ禍で仕事を失った人が続々と外売騎手に流れ込んでいる。特別なスキルも必要なく、すぐに働くことができ、勤務時間も自分で決めることができるからだ。

 

飲食、旅行、工場の若者が外売騎手に

新しく騎手になった人の前職は、30%が飲食と旅行関係で、40%が工場工員、20%が個人商店の経営者、10%が学生や求職中の人となっている。

年齢は、55%が90后(90年代生まれ、20代)、10%が00后(00年代生まれ、10代)となっている。

つまり、コロナ禍で職を失った若者が、外売騎手に流れ込んでいる。外売騎手は、特殊なスキルを必要とせず、登録したその日から働けることが大きな要因だ。

 

雇用のアブソーバーとして機能するギグワーク

外売騎手は、正式な就職ではなく、ギグワークと呼ばれる。スマートフォンから登録をし、簡単な身分確認を経ると、すぐに働くことができる。働く時間は本人の自由。仕事をしたい時に、スマホからインすると配達の指示がくる。仕事を終えたくなったらアウトすればいい。

コロナ禍という特殊な状況下の中では、失業者をすぐに吸収できるアブソーバーとしても役立っている。

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▲バイクで飲食品を配達する仕事なので、女性の騎手も多い。

 

人数が増えたため、賃金が低下傾向に

しかし、外売騎手が増えたことで、大きな問題が生じてきた。以前の外売騎手は、農村の青年が都市に出るための手がかりとなっていた。体力は必要だが、真面目に働けば平均的な都市労働者と同じくらいの収入を得ることができる。農村から出てきて、外売騎手をして、恋愛をし、結婚をし、家庭を作る。このような農村出身者たちは「新青年」と呼ばれるようになっていた。

しかし、外売騎手が増えたことで、賃金が大きく下落している。ギグワークの賃金は、需要と供給の関係で変動をする。基本賃金は低めに設定されているが、騎手が不足するときや昼、夜のピーク時には、報奨金が支給される。この報奨金を得ることで、平均的な都市労働者並みの収入が得られていた。

ところが、現在は、外売騎手の人数が増え、人手余りの状態になっている。このような報奨金が支給されず、外売騎手全体の収入が下落しているのだ。

 

騎手急増により、全員の賃金が平均以下に

都市部での外売騎手は、以前は1件の配達で7元程度の賃金が得られていた。それが現在は平均で4元程度まで下落している。

昼のピーク時には大体30件の配達をし、120元の賃金を得る。夜は昼ほどの配達はないため、1日10時間程度働いて、大体300元前後が平均的な賃金になっている。20日間働いて、月6000元。平均的な都市労働者は1万500元程度なので、平均給与に遠く及ばなくなっている。以前は、多くの外売騎手が1万元を超える収入を得ていた。

ギグワークは、人が増えれば増えるほど、賃金が下がっていくという、システム的には合理的であっても、社会的には問題のある矛盾を抱えている。

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▲賃金は低下気味だが、若者は気楽にできる仕事として、外売機種を選ぶ傾向にある。修練、習熟が必要な製造業が避けられる傾向にある。

 

一方で、技能職は人手不足の危機に

一方で、職場復帰が始まっている大多数の工場では、人手不足が深刻になっている。人が集まらないため、賃金は上がり続けているが、それでもなかなか人が集まらない。ガラス製造の福耀ガラス(フーヤオ)の創業者、曹徳旺氏は、製造業の抱える問題を指摘する。「若者たちが、警備員や外売騎手を選び、製造業を選ばなくなっているというのが、今、製造業が抱えている大きな問題です。しかも、外売騎手の方がお金が稼げるというのであればまだしも、そうでなく、安逸な方向に流されているのです」。

現在、製造業の工場勤務といっても、昔のように誰でもできる仕事というのはなくなっている。そのような単純作業はほぼ自動化されつくし、人間が携わるのは職人芸を要求されるレベルの高い仕事だ。そのため、工場に行っても即戦力になることはあり得ない。研修を受け、学び、経験を経ることで、難易度の高い仕事ができるようになり賃金も上がっていく。

若者はこの地道なプロセスを嫌っているのではないかと曹徳旺氏は言う。外売騎手はこれといったスキルは必要なく、すぐに働くことできる。働く時間も自分で決めることができる。その気楽さが、賃金が下がっても、人が増え続ける現状を生んでいる。

 

ものづくり中国が抱える「将来への不安」

しかし、外売騎手を何年勤めても、何かが自分に身につくわけではない。せいぜい、道に詳しくなるぐらいだ。そして、若者も歳とともに体力は低下をしていく。若い間の一時期、あるいは副業としてやるのであればいいが、一生の仕事にはならない。

同時に、ものづくり中国としては、若い人材が育たないことになる。この問題は、10年後の中国の将来に大きな暗い影を落としていくことになる。